第1話-4 二人の転校生 QRコードと転校生と俺
学校の授業も終わり、担任が教室に来るまで俺とジョーは雑談していた。
「なあコウ、
地球って、完全な球体じゃねえんだな。」
「まさかお前、初めて知ったのか?
そんな小学生でも知ってそうなことを。」
「いいじゃねぇか、今知ったって。
ところで、何で球体じゃないんだ?」
「ああ、答えは簡単だ。
俺が粘土こねて地球を造ったからさ。多少の誤差は出るに決まってる。
太陽だって、俺が電球セットしたから光ってるんだぜ?」
「んなわけねーだろ!
じゃあお前は何歳なんだよ!?」
「150億歳ぐらいかな。
世界はすべて俺が造った。」
「…冗談も程々にしろ。」
担任の長い長い明日の連絡も終わり、今日に限ってのだるい掃除当番の仕事も終え、
今日の昼休みに入部届を出した(もちろん帰宅部)ジョーと家路についた。
「あ、だりい、忘れ物した。」
途中、忘れ物をしてきたことに気づいた俺は、ジョーと別れ、学校に引き返すことにした。
「じゃあな!」
まったく、家でゴロ寝する時間が減るじゃないか。
俺の家は学校から約1,000kmもの距離がある。
飛行機で高校までマッハ0.8(900km/h)
で通学という、シュールな生活でも良かったが、
親の勝手な配慮、と言ったら怒られるが、
まあそんなんで高二にして厚かましくも、
賃貸マンションで、一人暮らし。
電気・ガス・水道のライフラインはもちろんのこと、
テレビ(家具付き賃貸につき)
エアコン(家具付き賃貸につき)
洗濯機(家具付き賃貸につき)
CDプレイヤ(家具付き賃貸)
本棚(家具〔略〕)
などなど充実した環境の上に、
さらにネット回線+PCまであるという、ゴージャスな生活。
まあ、それは一旦置いといて、教室まで到着。
教室の明かりがついている。
誰か中にいるのか?
ドアをそっと開けて、中の様子を見る。
嵩文零雨だ。
彼女は窓から西日が傾く教室の中で一人、
チョークを片手に黒板の前に立っていた。
そのシルエットと光のコントラストは、幻想的にすら覚える。
うん。いいもん見させてもらった。
あ、見つかった。
零雨はドアから怪しげに覗いている俺を見つけると、
突然チョークを黒板に向けて叩きだした。
タタタタタと高速で打点していく。
物理とかで使う一秒間に50回とか60回テープに打点する、
あの打点タイマーより速いかもしれない。
何をしてるんだ?
ものの数秒で叩くのをやめた少女は、じっと俺を見る。
仕方がないから、教室の中に入る。
「何してたんだ?」
な、なんだこれ!?
黒板に描かれていたのはみんなおなじみQRコード。
「これ、おまえが書いたのか?」
俺が今見た光景が信じられない。
零雨は俺の顔を見ながら、このQRコードをゆっくりと指さした。
読めと言ってるのか。
俺は携帯電話を取り出して、そのコードを読み取った。
「watashi nani suru ii?」
ホントに文字をQRコードで表しやがった。
スゴイを越えてエグい。
だがな、めんどくさいことせずに、口でしゃべれ。
まあ、まずはこの少女の聞きたいことに答えよう。
「何すればいいかって?
特に学校に用がないなら帰ればいい。」
零雨は首をかしげて、また、QRコードを書いた。
「oto kikoeru imi wakaranai」
音が聞こえて意味が分からない?
意味プ~だ。
意味不明。
ふと、零雨の机を見ると、他の生徒がごみ箱に捨てた、
お菓子の箱や袋が山のように積んである。
近づいてよく見てみると、すべてきれいに袋に印刷されたQRコードが上を向いている。
まさか、こいつを…見て習得したとか?
訳が分からん。
そんな地味に使えそうで使えない技を習得して、どうしようってんだ?
零雨は次のコードを書いた。
「answer?」
いきなりの英語!
俺はどうやって答えればいいんだよ?
あれか、日本語と英語をトゥギャザーしてしゃべれと?
嫌だね。
とにかく、俺はチョークを持って黒板の前に立った。
言っておくが、俺は平凡な類の人間だから、そんな妙技は当然持ち合わせていない。
QRコードを読み込むと、アルファベットになっていることから、
アルファベットは理解できる可能性が高いな。
「CODE KAKENAI」
俺が大文字で黒板に書くと、
零雨はゴミの山の机の横に置いてある鞄から、
一つの黒い塊を取り出し、俺に渡してきた。
何これ?
二つ折りになっているその塊を開くと、電子辞書のようだ。
零雨が横から電源ボタンをポチリと入れる。
画面の内容は、辞書…じゃない?
「変換する語句を入力...」
そう映している。
よく見てみれば、キーボードの一番上の配列に、
辞書ならあるはずの辞書選択キーがない。
零雨の方を見ると、じっと俺を見ている。
そんなかわいい顔して俺を見たって、何も出てこねぇぞ?
俺は、この学校が部活強制だったことを思い出し、零雨の鞄の中を覗いてみた。
中からは、やっぱり白紙の入部届がでてきた。
「この学校は部活強制だけど、入りたい部活はあるか?」
謎の黒い機械に入力して少しすると、画面に点でできたコードのようなものが現れた。
零雨はそれを見ると、俺から黒いそれを取り上げ、また俺に渡した。
「部活とは何?」
おお、零雨と会話のキャッチボールができた!
ていうか、それは一旦置いといて、部活知らないのか!?
俺は小学校はまだしも、中学生にもなったら必ず耳にする普遍的単語だと思ってたんだが。
俺はこれに回答しなければならない。
部活の定義…
こんな感じか?
「授業が終わった後に同じ趣味・思考をもつ人物同士で行う特別活動。」
う~ん、これだと説明不足か。
「同じ、または似通った趣味・趣向を持つ学生らが自らの意志で集まり、
その共通の趣味・趣向に関する活動をする集団のこと。」
これだ。うん。
文が長ったらしいうえにややねじれてるが、
理解さえできればいい。
俺は、
「同じ、または似通った趣味・趣向…
【中略】
…活動をする集団のこと。」
と機械に入力して、零雨に手渡す。
「私は趣味・趣向を持っていない。」
そう返ってきた。
へぇ~、世の中にはこんな人もいるんだな。
趣味・趣向を持たないって、人生の楽しみがないのと等しいことになるよな。
人生に楽しみがない・・・おもいっきり鬱じゃねーか。
「特に入りたい部活がなければ、帰宅部に入った方がいい。」
俺はそう思いながら入力してまた渡す。
「入ると?」
「学校の授業が終わったら、すぐに家に帰れる。」
今度は、零雨は返答に時間がかかった。
「入る。」
「ならば俺がその手続きをしてやるから、少し待ってろ。」
俺は入部届に必要事項を記入し、零雨に渡した。
入退部を繰り返してるから手慣れたもんさ。
零雨が黒の翻訳機に何かを入力している。
ぱっと零雨が翻訳機の画面を俺に見せた。
「ありがとう。」
そう画面に書いてあった。
俺は肝心の忘れ物を取り、零雨をつれて職員室へ行った。
適当な先生に頼んで入部届を承認してもらい、二人そろって校門を出た。
「何をすればいい?」
零雨は、翻訳機の画面にそう表示された文を俺に見せる。
「家に帰って、好きにすればいい。
明日の学校には遅刻するなよ。」
零雨にそう入力した機械を手渡すと、黒い翻訳機を鞄にしまい、すたすたと帰っていった。
彼女は一体何者なんだ?
謎だ。謎すぎる。
言葉を話さず、不自然な日本語。
対話するには黒の翻訳機が必要で、
その翻訳機の方が日本語は断然うまい。
直接の会話に使うのはアルファベットかQRコードで、
部活すら知らない。
ミステリアスを超越した、究極タイプのミステリストであることに間違いない。
思い返してみれば、俺が零雨に放課後会ってから今まで、
零雨の表情の変化は一切なかった。
QRコードは実際に読み取れます!
ぜひ読みとってみてください!
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2010年10月22日投稿