第1話-1 二人の転校生 季節はずれの転校生
第1話二人の転校生
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それは突然だった。
言い忘れていたが、俺はトンチ高校の異名を持つ良条高校2年の足立光秀。
通称コウ。
完璧なまでのハト派と勝手に自負している。
よろしくな。
現在の状況を簡単に説明すると、
俺は今高校の教室の中。
昼休みである。
といったぐらいか。
俺が通うのはどこにでもあるような平凡な高校だ。
特に自慢できるような偏差値の高校ではないが、世間的に評判が悪い不良高校というわけでもない。
代わり映えのない授業。
いつも通りの喧騒に満ちた校内。
ちらりと辺りを見回せば、そこらでキャッキャと騒いでいる者、上靴の悲鳴を響かせながら廊下を走り回る者が見える。
対照的に、読書にいそしむ者、携帯をいじっている者も結構いる。
このように休み時間の使い方は人それぞれで、
周囲の目を引くような奇行に走る人間は俺が認知する限りにおいてはいない。
俺か?
俺は机に伏して窓の外の景色をぼんやりと眺めながら、ただただ早く学校終わってくれと念じている。
「おい、コウ、もう入部届は出した?」
「あぁ~、人がせっかくいい感じでたそがれてたのに、お前は本当に邪魔するのが得意だな」
俺の背中を突いて話しかけてきたのは、
俺の親友の牧田、あだ名はジョー。
なんでも、牧場のジョーらしい。
牧という漢字しか合ってないのに、かわいそうなあだ名を付けられたもんだ。
「ひでえな、お前に話しかけただけでそこまで非難されるとは……
で、出したのか?」
「ああ、出したよ」
「何で出すとき俺を誘わなかったんだよ!!」
「お前、昨日学校休んでただろ?しょうがねぇよ」
「そうか……」
俺の高校では全員が部活に入ることを強制されている。
ここだけが俺の通う高校のおかしなところである。
部活推奨としておけば済むものを、なぜわざわざ強制にするのかについては、
一応学校側の公式見解としては“それが、この学校の伝統だ”という説明が出ている。
そこまで伝統にこだわる必要が果たしてあるのかと俺はその説明に胡散臭さを感じずにはいられない。
で話は元に戻して、俺は昨日入部届を出して、承認されたから、ちゃんとした部員だ。
何の部活かって?
帰宅部。
一般に部活しない奴を帰宅部などと呼ぶが、こちらでは学校公認の部活だ。
定期テスト前は部活禁止で、帰宅部は帰宅できないという深刻、
いや、命に関わる欠陥があるため、
帰宅部部員はみな退部し、在校部という部活に入部する。
こちらの部活の活動内容は、
「帰宅しないこと」。
部活が禁止されると、在校部は帰宅しなければならない。
帰宅部と在校部を入退部することで、結果、学校に残る必要がない。
トンチ高校の異名はここからだ。
前に、部活禁止になるごとに入退部するのがダルいと、
テスト前に帰宅部を退部しなかった勇者がいたが、
数日後、そいつは無計画にも初日の昼飯と僅かばかりの現金(一説によると150円)しか用意してなかった為に、
空腹から眠れず、風呂にも入れず、
挙げ句の果てには干からびて倒れる始末。
救急車に乗せられ、2時間ほど病院たらい回しドライブを楽しんだ後、病院で治療を受けたそうだ。
救急車……もっと輸送を速くしないと急患が死ぬぞ。マジ。
まあ、そいつは一命は取り留めたらしいが、
それからはそんなエクストリームな挑戦をするやつはいなくなった。
というか、学校としては生徒がそんな事件まで起こしておいても、
この部活強制システムを廃止にするつもりはさらさらなく、
この事件に関してはあくまでも退部届を出さなかった本人の責任とするということらしい。
まあ、そりゃPTAからの反発もあったが、
そんな反発も時間とともに風化して沈静化してしまい、
今じゃこのシステムに異を唱えるのは一部のプロ意識を持った奥様方と俺ぐらいなものだ。
大半の生徒はこのシステムに大人しく従っている。
生徒の心の中では生徒会の口から廃止案が出るのを待っている、といった状態だ。
別に強制だろうが任意だろうが俺(私)にとっては関係ねえ、と言う人も結構いたりするので、
今後この帰宅部と在校部のめんどくさいシステムに関しては変わることはないだろう。
で、話を戻すと、一学期の期末テストが終わったから、俺は帰宅部入部と、
そういうわけだ。
「それとさ、明日、クラスに転校生がくるらしいぜ」
ジョーがニヤついている。
ほう、転校生か…
この時期にこの高校に転校生とは珍しい。
2010年10月21日投稿