第1話-12 二人の転校生 零雨の実績と24%
さて、今、零雨と途中まで一緒に帰宅している。
零雨の家は神子上の家から南方面、
つまり学校から見て南東方面にあると、今本人から聞いた。
位置関係をまとめると、学校を中心として
東方面が神子上麗香、
南東方面が嵩文零雨、
南方面が俺、
という関係になってるってわけだ。
「なあ零雨、聞きたいことがあるんだが、聞いてもいいか?」
俺は、右隣を歩く零雨に話しかける。
「……?」
零雨の顔が無言で俺の方を向く。
「今からする質問は、ただ俺が何となく気になったから聞くわけで、
無理な質問には答えなくてもいいからな」
俺はそう前置きをした。
零雨が分かった、とジェスチャーする。
零雨は話すのがあまり得意じゃないな。
口で答えれば済むことを、わざわざ無駄のない動作で表す。
「何で、零雨は今の姿で現れたんだ?」
これが、俺の聞きたかった質問だ。
「???」
零雨はイマイチ理解できてないようだ。
「言い換えるならば、
なぜ、女子の姿で現れたのか、とか、なぜ白髪なのか、とか。」
俺が付け加えると、零雨は理解したようで、頷いた。
「私……が女性として現れたのは……その方が好都合だから」
「好都合?」
「私が……S0-v1.7dの時、男性の姿をして現れた。
……当時、私は短期の……作業を行っていた。
私は他人と接触する際、人間は相手が……男性であるか女性であるかによって、
態度が……大きく変わることを発見した。
男性よりも、女性の方が他人と接触しやすい。
……この事実が判明してから、女性の……姿で現れるようになった。」
「なるほど、接触っつーのは情報収集か」
「そう」
「ところで、今言ったその作業って何だったんだ?」
俺が聞くと、零雨は答えた。
「ステージ25の……シミュレーションのエラーで……発生した強力な電波の受信・解析」
「ステージ25?」
ステージ25って、確かこの世界のことだ。
「西暦1977年8月15日夜……地球、アメリカ……オハイオ州にて、
約70秒にわたって受信した。
周波数は……1420.416Mhz。
電波の発生源は、いて座方面……地球から約3.7光年。
原因はステージ25の欠陥。
欠陥は……現在修復済み」
よく覚えてるな。
いや、当たり前か。
「なるほど、宇宙スケールか……」
まあこのスケールぐらいなら、二人にとっては標準的な、
例えるなら部屋の中を歩き回る感覚なんだろう。
「不運にも、その電波は人間に傍受された」
「運が悪かったんだな」
俺はそれ以外に何も返答が思いつかなかった。
「私の髪の色については……この世界に現れる際、私が……
……色を指定しなかったから。
肌、目についても同様に……色を指定しなかった」
なるほど、何も設定しなかったから、リアルデフォルトで生まれたと。
色の指定っつうのは、たぶん色素だな。
人間でも遺伝的に色素を持たない人達がいるらしい。
彼らはいろいろな面でかなり苦労している、と聞いたことがある。
零雨は別だが。
「そうか。色を指定しなくて、後悔はしてないのか?」
茶髪や金髪ならばまだしも、白のロングヘアーは目立つ。
「後悔はしていない。
それが私に特に大きな問題にならない限り、修正しようとする意志はない」
と、零雨は答えた。
零雨がそう言うのだから、零雨の自由にさせりゃあいい。
俺がこうしろ、ああしろなどと言う権利はない。
「……それから」
今度は零雨から話しかけてきた。
「コウ、あなたは運が良かった」
「何が?」
「私はあなたが麗香の……家から出られる確率を、……およそ24%と予測していた。
麗香は言わなかった。
もし、……あなたが私たちと友達になることを……拒否したら、
あなたを消す予定だったことを。」
「…………マジで?」
「あなたは試されていた。
私は麗香にあなたがNOと……言った場合、
麗香があなたを……私たちの友達として不適と判断した場合、
その場であなたを消すように……命令されていた。」
俺があの時、NOと言っていたら、俺はリンゴと同じ運命を辿ってたのか!
何気ない選択が、その人生を大きく変えるとは正にこのことだろう。
しかし、高2にしてまさかの死亡フラグが成立していたとは……
いやー、危なかった。
脱出確率24%とは、こりゃまた低い数字だ。
言っとくが、俺はこの数字の根拠は知らん。
零雨は繰り返し言った。
「あなたは運が良かった」
「あ……ああ、どうも」
そう俺が答えたとき、目の前に交差点が現れた。
ここで、零雨ともお別れだ。
俺は、零雨と別れて一人、家路へと向かった。
2010年10月31日投稿