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第六話

38日目 朝 日本サーバー 【森14エリア】


 駆けつけたとき、そこは戦場だった。

 俺の家から約10分の距離にあるちょっとした空き地では、3人の兵士たちが20を超えるモンスター相手に決死の戦闘を行なっている。


「戻りました!加勢します!」


 俺をここまで連れてきた兵士が剣を抜きつつ戦闘に参加する。

 おいおい、避難させてくれるんじゃなかったのかよ。

 内心で呆れつつ、片手に剣、空いた手に回復薬を装備する。


「こっち来るな!」


 俺にターゲットを変更したらしいグレイウルフを切り飛ばし、その勢いで倒れているドルフ兵士長に接近する。

 親指で栓を飛ばし、傷口目がけてそのまま中身をぶちまける。


「高価な回復薬です、もう大丈夫ですね?」


 こちらの様子を伺っているオークを睨みつつ尋ねる。

 症状を確かめる余裕がなかったので毒も麻痺も治す効果なやつを使っただけあり、彼は既に立ち上がろうとしていた。


「加勢に感謝する」


 横から接近しつつあったゴブリンに手痛い一撃を浴びせつつ、彼は答えた。

 何ともタフな事だ。


「これだけのモンスターが一体どこから?

 ああ、つまりはこれがそういうことなんですね」


 以前聞かされた内緒話を思い出す。

 魔王は本当に復活しているようだ。

 そうでなければこんな何も無い森の中に種類が豊富なモンスターの一個小隊など出現するわけがない。


「そういうことだ、鍛冶の腕は疑っていないが、戦えるのか?」


 愚問である。

 返答代わりにオークとの距離を一瞬で詰め、スキル『二段斬り』を繰り出す。

 今の俺は戦闘レベル6である。

 これはNPCでは絶対に届くことない領域だ。

 オークの両手を切り飛ばし、スキル『蹴りつけ』でスタン状態に追い込む。


「こう見えて、戦闘には」


 言葉を切り、振り向きざまの遠心力も借りて背後から迫るゴブリンの頭部を切り飛ばす。

 会心の一撃っているやつだな。


「ちょっとばかり自信があるんですよ」


 迫るゴブリンの集団に向けてファイヤを連射する。

 魔法は基本的に念じた相手に必中の攻撃手段であり、このような乱戦時には非常に有用な攻撃になる。

 三体のゴブリンたちが炎に包まれつつ地面に崩れ落ちる。

 

「それでちょっとなら、俺は自信喪失だな」


 強者が味方に加わった余裕からか、ドルフ兵士長は笑みを浮かべつつ先ほど負傷させたゴブリンに止めを刺す。

 他の兵士たちは四人がかりで剣や槍を繰り出して被害を出さないように戦っているようだ。

 それが助かる。

 敵が自由に身動きできない一角ができるということは、それだけこちらが自由に行動できるという意味になる。

 それはMMORPGだろうがリアルタイムストラテジーゲームだろうが、多分現実の集団戦闘でも変わらないだろう。

 

「大サービスですから見ておいてください」


 五体ばかりオークが固まっている方に片手を向ける。

 魔法は意識だけで照準を行うこともできるが、隙を作ることを許容して手で狙いを付けると威力が1.25倍になる。

 

「悪く思うなよ」


 覚えている限りの攻撃魔法を唱える。

 ファイア、エア、ウォーター、アイス、ブレード。

 唱えるたびに炎が上がり、烈風が吹き荒れ、高圧放水が襲いかかり、敵の一部が凍結し、光り輝く魔力の塊が切り裂く。

 魔法抵抗など出来るはずもないオークたちは、見るも無残な屑肉の集まりに変わり果てた。


「どぉぉぉぉりゃぁ!!」


 雄叫びに思わず視線を向けると、ドルフ兵士長がグレイウルフを一撃で一刀両断するところだった。

 さすがに役職付きなだけあり、彼はそれなりに能力を持っているらしい。

 

「残りは!?」


 全神経を集中させていたのか、彼は我に返るとこちらに尋ねてきた。

 20体以上の敵がいたわけだが、ごく短時間にこちらは11体を仕留めている。

 剣を構えつつ敵情を伺うと、残りは9体。

 そのいずれもがゴブリンである。


「あと9体!いや、あと3体か」


 どうやら一番敵の圧力に晒されていたのはここらしい。

 敵集団の後方から駆け寄ってきた魔法剣士達が速やかに6体を仕留めている。


「ドルフ!無事か!?」


 先頭は、あのエーリア嬢のようだ。

 とても失礼なのだが、それなりに役に立つのか、などという感想を抱いてしまった。




39日目 夕方 日本サーバー 【森14エリア】 領主軍野戦陣地


 モンスターたちの攻撃は、極めて広範囲に渡って行われたらしい。

 そのような状況の中、休憩に入ったばかりの者まで含めて召集された領主軍は、現在のところ辛うじて組織的抵抗を継続できている。


「はい、剣の修理完了。鎧はさっき終わったし、これで何とかなりますね?」


 傷が癒えたばかりの兵士に整備した武器を返す。

 ナルガ王国との国境付近に急造された陣地に俺はいた。

 あの戦闘の後、モンスターたちが攻め寄せてくる方向に誘導されつつ、気がつけば俺はここにいた。

 俺が所属するジラコスタ連合王国は、なし崩し的に魔王軍との全面戦争を開始することになっていたらしい。

 俺を含めて国内の鍛冶屋は全て召集されることになったらしく、こうして最前線でハンマーを振るっている。

 まあ、あとで呼び出されるよりは最初から召集されている方が立場的に有利なので仕方がないが、釈然としないものを感じる。


「すいません鍛冶屋さん。ありがとうございます」


 子供のような顔つきの、いや、実際15か16程度らしい若い兵士は、笑顔で礼を言ってくる。

 ナルガ王国の急激な崩壊に伴い、事実上の開戦奇襲を受けた我が国は、常備兵力の増強を行う時間的余裕が与えられなかったために、いきなり窮地に立たされているらしい。

 再訓練も無しに召集された予備兵力、最低限の訓練だけで投入された若年兵、そして職場から無理やり徴収された俺たち技能者。

 突然の末期戦である。


「いいから、死なないでくださいよ。

 戦争は確実に長く続きます。

 その中で、貴方達は確実に重要な位置を占めているんですからね」


 意図せずとして国家総力戦が始まった我が国では、第一次動員の兵士たちがどれだけ前線を維持できるかで今後が決まる。

 国境線が後退すればするほどこちらはどんどん困窮することになり、訓練が不十分な兵士たちしか補充されなくなる。

 生まれながらにして戦士であるモンスターたちが相手なのだから、そうなれば人類に明日はない。


「私の出来る限りの能力を注ぎ込みました。

 戦闘は楽になるはずです。

 酷い言葉であることは自覚していますが、とにかく死なずに、少しでも長く戦ってください」


 手渡した剣は鉄の剣+4だ。

 今までの俺ならば、絶対にやるはずがない行動である。

 だが、この戦争は確実に長く続く。

 我が国の安全を確保し、崩壊したらしいナルガ王国を奪還し、海岸線に防御陣地を構築し、魔王領土へ橋頭堡を築く。

 そこまでいって、初めて人類は反撃を開始できる。

 残念ながら、先は長い。

 

「ヤマダ殿!すまない、怪我人だ!」


 即席の担架に載せた怪我人が運び込まれる。

 戦時なのだから日頃でかい顔をしている神殿関係者を動員してくれよ。

 そんな大人気ないことを思いつつ、俺はインベントリから取り出した回復薬を片手に声のする方へ歩み寄っていった。

 この世界に来たと知った当初は、歴史の影に埋もれるようにしてひっそりと生きていこうと決めていた。

 だが、人間臭いというよりは明らかな人間である元NPCたちを見ていくうちに、俺は知らず知らずのうちに決断してしまっていた。

 俺はNPCの中にいる唯一のプレーヤーキャラクターではない。

 社会を構成する一人に過ぎないのだ。

 能力的には非凡ではあるが、一人で出来ることというのは驚くほど少ない。

 だから、目立たない程度に有能な人間として生きていこうと思ったのだ。

 しかしながら、今は戦時。

 手を抜けば、それだけ人々が死んでいく。

 少しばかり出し惜しみの基準を緩めるだけでも、人類の苦労は相当減るだろう。

 俺も死にたくない以上、ある程度の面倒は受け入れようじゃないか。

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