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第三十五話


175日目 昼 ジラコスタ連合王国 コルナ村 アリール辺境伯領軍仮設拠点 建設中の集会場


 フレングス氏との商談は、実に気持ちよく終わった。

 今後の辺境伯領に訪れるであろう状況を教えてもらい、それに備えるための人員の手配をしてもらう。

 至れり尽くせりで恐縮になるが、敵軍と神殿、そして他国という面倒な相手たちに囲まれた状態で、何とか回していくのはこちらの仕事だ。

 しかも、予算もこちら持ちで。

 そう考えれば、人的資源だけでも支援がもらえるという現状は恵まれているのだろう。


「実りの多い商談をありがとうございます」


 商談をそう締めくくると、質問タイムだ。

 目の前のフレングス氏は間違いなく連合王国の上層部と関係のある人物であり、政治的な要素のある商談以上に、政治的な情報も持っているはずだ。


「いえいえ、私こそこのような機会を設けていただき誠にありがとうございます。

 筆頭鍛冶様のご期待に添えられるよう、今後もできる限りのご提案をしてまいります」


 にっこりと笑い、そして彼は表情を変えた。


「さて、この後は神殿のネグラオ神官様とお会いになられると聞いております。

 まあ、正直なところ、最初に申し上げておくべきならば、彼女は何かを決定し、強要できる立場にはおりません」


 決定権を持っていないというのは残念な情報だが、つまりこれは、好きに話をしろという事なのだろう。

 とにかく、彼女の持っているであろう情報を聞く番だ。

 神殿は、何の役にも立っていないとは言いすぎだが、それでもそう言いたくなる程度には邪魔でしかない存在だった。

 いや、過去形ではなく、今もアルナミアに駐屯して、こちらの行動を阻害し続けているんだがな。


「詳しいところは彼女に聞いていただきたいのですが、とにかく、神殿は連合王国へはこう伝えているそうですよ。

 伝承に従い、勇者様に試練を授けている、と」


 試練か、この辺境伯領にはうんざりするほど与えられているが、神様とやらはそれだけでは人類に対する試練としては不足していると考えているのかな。

 思わず馬鹿なことを思ってしまうほど、くだらない理由だった。

 問題は、そのくだらない理由で一国を動かせる連中が、我が物顔で一つの街を乗っ取り、すぐ隣にいるという現実だ。

 それが教典的な何かに載っているのか、誰かの思い付きなのか、あるいは勢力的に見て利益のある事なのかは知らないが、とにかく迷惑の一言に尽きる。


「それはそれは、困ったお話ですね」


 詳しい話は全く無いようだが、それはそれで情報だ。

 連合王国の上層部からの密命を受け、諸王連合の動きを知らせることのできる人物が、伝聞の不確定な情報しか出さない。

 彼と短いながらも密度の濃い付き合いをしている身として考えれば、教えられないのではなく、本当にその程度しか情報を与えられていないのだろう。


「はい、そこは筆頭鍛冶様のおっしゃる通りだと私も思います。

 なので、不敬云々は別の話としておいて、率直にお話をされることをお勧めしますよ」


 神官殿には申し訳ないが、彼女については上同士でその程度には話がついているという事なのだろう。

 あるいは、何をどうしても問題が出ないレベルまで彼女の立場が落ちてしまったのかもしれないが。




175日目 午後 ジラコスタ連合王国 コルナ村 アリール辺境伯領軍仮設拠点 建設中の集会場


「お久しぶり、というには時間が経っていませんね。

 だいぶ落ち着かれたようですが、体調は大丈夫ですか?」


 目の前には、先ほどのフレングス氏と替わりメラニー・ネグラオ神官様が座っている。

 思えば、彼女は中断していた期間を含めても一番付き合いの長い神殿関係者になるな。

 まあ、名前以外の情報は全く知らない程度の関係だが。


「おかげさまでね。

 私もそうだけれども、勇者様を助けていただいたことに感謝するわ。

 きっと、神殿に問い合わせてくれれば、それなりの謝礼も出るはずよ」 


 金に困っているつもりはないが、とにかくお金をいただけるのであればありがたいことだ。

 さっそく請求させてもらおう。


「良い情報をありがとうございます。

 さて、あまり時間もないので、無作法ながら聞かせていただきますが、結局のところ神殿は何をしたかったんですかね?

 確かに戦力を出してはいますが、防御には少なすぎるし、攻撃をするわけでもない。

 神殿という組織の持つ強大さを考えた場合、今やっている事は規模と実績がおかしい」


 勇者が強いという事には別に異論はない。

 ドラゴンの集団に奇襲を食らいながらも、生き残ってきたのだ。

 少なくとも弱いはずがない。

 だが、強いのであれば強いほど、それを使い潰すようなことは慎むべきだ。

 例えば魔王と一対一で切り結んだ時に勝てる存在がいるのであれば、少なくとも魔王城の正門を蹴破るまでは温存すべきだ。

 大切な戦力として保護し、適切な訓練と実戦経験を積ませ、十分な護衛を付けたうえで、ここぞという場所に投入するべきである。

 それが、さほどの価値も見いだせない長距離偵察に放り込み、ロクな支援も与えずに死ぬのを待つというのは理解の埒外の行為だ。


「何がしたかったのか、という質問は不適切ね。

 彼らは聖都が攻め滅ぼされようとも、大陸のどこかに残った最後の信徒が息絶えるその瞬間まで、諦めるという事はしないはずよ」


 不退転の決意というやつかな?

 それは結構だが、できれば自分たちだけでそのまま玉の如く美しく砕け散ってほしいものだ。


「なるほど、それでは言い換えましょう。

 彼らは何をしたいのですか?」


 本音を言えば、こういった高度に政治的な話は、俺も含めて人払いをしたうえで領主様と行ってもらいたい。

 だが、領主様は増援を連れてきた隣国の国王陛下との会食中で、俺以上の士官はここにはいない。

 おまけに、どういうわけだか俺に話をしたいと相手が言っている。

 極めて遺憾なことに、会話を続けなければいけないな。



「その前に、あなたは勇者様に関する伝承を覚えている?」


 勇者に関する伝承ね。

 それはゲームの初回インストールの待ち時間に表示されていたから、知らないとまでは言えないな。

 PCを買い替えるたびに見ていたから、少なくとも八回は見ていたはずだ。

 まあ、この世界が完全にゲームの設定を流用しているとすれば、だが。

 いや、今にして思えば、逆にゲームがこの世界の情報を流用していたのか?


「世界には常に光と影があり、陰である魔王が現れる時、光である勇者も現れる。

 そして、唯一の神が光の神である以上、勇者は必ず魔王に勝つ、とかいう内容のものですよね?」


 やたらと修飾語が多かった記憶はあるが、まとめてしまえば二行だ。

 

「あ、あなたには信仰心というものがないの?」


 いまいちウケが悪いな。

 そこまで不敬な言葉を使ったつもりはないし、今のはどちらかと言えば「さすが筆頭鍛冶ね、その辺りは抑えているか」というコメントを貰うところだったと思っていたのだが。


「唯一の神へ対する私の信仰心を疑われるのは心外ですな。

 この世の中で、信仰心を持たずにいる者がいるはずがないでしょうに」


 今の彼女に異端審問官を呼べるだけの権限が残っているようには見えないが、それでも念を押すことは大切だ。

 

「私の異端審問をしたいというのであれば、魔王を倒した後にでも思う存分やっていただければと思いますが、今はその前に確認したいことがあります。

 お話しいただけるという内容を、早くお聞かせいただけませんか?」


 どうせロクでもない話なんだ、早く聞いて対策を練りたい。

 魔王に対する切り札である勇者を使い潰そうとするだけの理由だ。

 さぞかし納得のゆく、非の打ちどころのないものを聞かせてもらえるはずだ。

 今日はそれを安眠の材料としたいので、早く聞きたい。


「本当は神殿以外の人間には言いたくはないのだけど、あなただから話すという事をよく理解してね」


 思わず背筋が震える前置きだな。

 心の奥に秘めた俺への気持ち以外では、何も露呈してほしくないのだが。

 

「伝承は唯一の神の定めた内容を伝えるもの、つまり、それに間違いはないはずだから、そうしなければならない」


 冗談抜きで震えてきたぞ。

 言い伝えを再現したいから、ただそれだけでこれだけの面倒な状況を作り出したと言いたいわけなのか。


「伝承には神殿の関与についての詳細がなかった、他国についての言及もなかった。

 だから勇者を、必要最低限の人数で送り込んだというわけですか?」


 俺の言葉に、ネグラオ神官殿は苦々しげな表情で頷くことで同意した。

 全くどうかしている。

 そのお陰で少なくない人命が損なわれ、連合王国は混乱し、反撃を準備するための防衛に支障が出ている。

 今すぐにでも聖都とやらに侵攻し、国際秩序の安定を図るべき事案じゃないか。

 

「神殿の皆様の信仰心を疑うつもりはまったくないのです。

 しかし確認させてください」


 一旦言葉を切り、自分が訪ねようとしている内容が先程の話と合っているかを確認する。

 うん、おかしくないはずだが、もう少しオブラートに包んだ表現にしよう。


「つまり、伝承のとおりになるはずなので、何があっても最後まで待っていろという話なのですか?」


 それで勝てるのであれば誰も苦労していない。

 いや、それ以前の話として、実際に苦労しつつ戦線の維持に務める我々がいて、損害を出した諸王連合があり、今も戦火に追われる難民たちが存在している。

 自分で勝手に仮定した内容で申し訳ないが、もしそうだとすれば、神殿の考え方は余りにも独りよがりが過ぎる。

 

「私はもう、そんな気持ちは全くないけれども、それでも神殿の上層部は今でもあなたが指摘した考えを持っているはず。

 まあ、勇者様たちが負けたという情報はこれから伝わる内容だから、それを知っても教義に縋り付く者がどれくらい残るかはわからないわ。

 でも確実に言えるのは、少なくとも神殿の総意という形では、一連の出来事は試練という程度の言葉で収められてしまうはず」


 なんとも心強いことだ。

 神殿の皆様は、勇者様親衛隊が魔王城に攻め込む遥か前に全滅したことについて、それは乗り越えるべき試練の一つという認識をお持ちらしい。

 後詰の存在しない、どうやって取返しをつければよいかも皆目見当がつかない状況でそれだ。

 いやまあ、ひょっとしたら今頃聖都では選抜された人員で構成された第二陣が出発しているのかもしれないが。


「私の知っている神殿の関係者が変わっていない限りは、恐らくはそう判断するはず。

 報告を聞いても、責任の擦り付け合いすら発生しないはずよ。

 なるほどこれも神の試練ですねと答えて、直ぐに勇者様に出立いただくように命じるくらいかしらね」


 さすがは唯一の神に仕える神殿だ。

 そうではない大多数の人間からすれば理解できない、高い視点で物事を見ていらっしゃるようだな。

 せっかくなので、体から魂を解き放って天上に上がってくれればいいのに。


「そうなると、せっかく作ったこの場所も、壊されるか奪われるかする可能性がありますね」


 とにかく手を出さずに勇者様に任せろという謎の作戦をとる神殿だ。

 ただの人間たちがここでウロウロしているのはさぞかし目障りだろう。

 ここもアルナミアも引き払って、前人未到の大地で、未補給状態で、孤立無援状態の勇者様が成果を挙げられる方が喜ばしいはずだ。


「安心してほしいのだけれど、それは絶対にないわ」


 不思議な言葉である。

 

「理由をお聞かせいただいても?」


 話を聞く限りでは、神殿の偉い方々は認識に現実を合わせて考えるタイプのようだ。

 そうであれば、伝承にない我々は排除すべき異物と認識されると思うのだが。


「今のここは、細かいところまでは知らされていない私に対してですら、手出しをするなと明確に言われる程度には重要視されているわ。

 神殿の上層部の判断ではなく、諸王連合に言われたからそうしているという話だけれど」


 なるほど、将来の反攻拠点を手弁当で勝手に整備してくれているのだから、その程度の政治的支援はしてもらえるのか。

 フレングス氏を経由した今までの支援といい、隣国からの軍事支援といい、諸王連合からの支援が実働を始めている感じだな。

 ついでに言えば、食わせるべき国民がいる各地の王族としては、神殿上層部の夢物語には付き合っていられないという事だろう。


「なるほど、まあ、各国が将軍様だ騎士様だ兵隊だと雇っている以上、そういう判断になるのかもしれませんね。

 ああ、そういえば、勇者様とはもう会われましたか?」


 遠回しに実働戦力をあまり活発に動かしていない神殿に対する批判めいたことを言ってしまった。

 これがマイナスの査定にならなければいいな。


「もちろんよ。そして、貴方の部下たちにも感謝しているわ。

 今の勇者様は、現実を理解しつつ、それでも猶予のある状況で休まれている。

 今後の神殿の動きには注意する必要はあるけれども、少なくとも今は良い状況ね」

 

 思ったよりも高評価であるが、こちらとしては当然の待遇を与えているだけだ。

 今ここで、勇者様の心が折れては困るのだ。

 だからこそ、難民への炊き出し、孤児院への慰問、部隊の訓練への参加を、遠回しだが強制的にさせている。

 全てが人類の現状に直結しており、ここで彼女の心が圧し潰されなければ全てが糧になる内容だ。


 ああ、俺は神殿上層部を悪く言うことはできなかったな。

 戦場から逃げ出した少女を捕まえ、役目を負わせ、戦場へと引き戻そうとする。

 俺の方が、余程の屑だ。


「だからこそ、あなたには言うけれども、今の状況をもう少しだけ続けて欲しいの。

 神殿の一員としての立場を大幅に超えることは、できない。

 でも、私にできることであれば何でもするから」


 目の前の彼女は、恐らく勇者様ではなく、ユリアンカという個人に対して思うところがあるのだろう。

 だからこそ、異端に問われかねない申し出をしてきているのだ。

 



189日目 夜 ジラコスタ連合王国 コルナ村 アリール辺境伯領軍仮設拠点 筆頭鍛冶の部屋


 あれから、長い時間が過ぎた。

 不可解なことに、先日の勇者様一行事件以来、魔王軍の攻撃は全く無かった。

 一国を落とすという大事業の後という事もあり、侵攻を停止して兵站線の再構築でもやっているのだろうか。

 あるいは、そもそもがナルガ王国の制圧による大陸への橋頭保の確立までが戦略目標であり、満足して彼らの中では既に停戦状態になっているのかもしれない。

 なんにせよ、戦争をするための準備の時間を貰えるというのは非常にありがたい話である。


「失礼します筆頭鍛冶殿、そろそろお休みになられてはいかがでしょうか?」


 だからといって何も問題が起こらないはずがない。

 むしろ、順調であるからこそ、減ることなく増える一方の友軍と、それを維持するための事務作業が増え続けていく。

 統率すべき兵士が、彼らが必要とする物資が、それらを維持するための兵站が、増えれば増えるほどに事務作業も比例して増える。

 判子を押してサインをすれば全ての問題が解決するというわけではもちろんないが、ただそれだけでも解決できる何かはあり、そして決済を求める書類だけでも冗談では済まされない数量があるのだ。


「筆頭鍛冶殿、あの、その、何かお手伝いすることはありませんか?」


 例えば、最近では遂に母の丘周辺まで足を進めるようになった偵察部隊の報告だ。

 偵察だけで一度に二個小隊を派遣できるようになったため、その報告書はかなりの分量となる。

 ここに冒険者ギルドに依頼した同種の任務の報告の確認が加わる。

 簡潔に、事実だけ、結論を最初にという書類作成のイロハを誰もが会得しているわけではないので、添削と総評を添えて返事を書くという遠回しな教育を行わなければならない。

 報告の確認と言えば一言だが、これに相当な時間を取られている。


「あの、筆頭鍛冶殿?ヤマダ様?」

 

 できれば曹長にも手伝ってもらいたいのだが、実は無敵超人曹長には出来ないことが一つだけある。

 それは、同時に二箇所に存在するということだ。

 実力を隠しているだけではないかという疑いは晴れてはいないが、少なくとも今のところ彼は練兵と事務作業を同時進行させることは出来ていない。

 とはいえ、練兵の指揮を取ってくれているというだけでも随分と助かっている。

 俺が書類相手の絶望的な遅滞防御戦闘を繰り広げている間にも、兵が鍛えられ、下士官が育つからだ。

 器としての軍を強化しようとしたとしても、中身である彼らが烏合の衆であれば、それは単なる武装集団にすぎない。

 曹長が分身の術を会得するまでは、頑張って内務系の仕事はこちらで担当しなければなるまい。


「聞こえておりますか?ヤマダ様?」


 とはいえ、やるべきことが多すぎる。

 筆頭鍛冶として雇い入れられた当時、俺は鍛冶に関する仕事の教導と管理だけを命じられたはずだった。

 だが、今では前回購入した1,000の奴隷も含めると、総勢で2,000名近い人員を任せられている。

 おまけに、業務内容は軍事関連全般に加えて、一部の行政関連もという有様だ。

 今の俺は、漫画のように卓上に積まれた書類をたった一人で処理しなければならない。

 小隊長、分隊長、班長という区分を作りはしたが、権限移譲のシステムを完全には認められていないため、責任者の決済や軍全体としての承認が必要な書類が全部俺の元に押し寄せてきているのだ。


 だから、今手に持っているような書類も俺の元に回されてくる。

 辺境伯領内を巡察させている部隊からの報告書だ。

 第一中隊に所属する第二小隊からのそれは、中隊本部経由でこちらに回ってきていた。

 内容としては、街道沿いにですらトロールやオークが出現しているというものだ。

 外回りには優先的に良い装備を用意しているので、幸いなことに損害は出ていないらしいが、それでも状況を憂慮する言葉が並んでいる。

 こちらの補給線を破壊しようとしているのかもしれない。

 あるいは、魔王復活によるモンスターの活発化が酷くなっているだけかもしれないが。

 なんにせよ、輸送部隊の護衛の増強は必要だな。

 

「おい、誰か領主様をお呼びしてこい、筆頭鍛冶殿はお疲れのご様子だ」


 さっきからうるさいな。

 こっちはもう二日も寝れていないんだから勘弁してくれよ。

 それで、なんだったか。

 ああ、とにかく管理が大変なんだよ。

 事務方の育成はこちらで引き受けてはいるが、激務に加えて教育を施したからといって、直ぐに育つわけではないからな。

 OJTといえば聞こえはいいが、それは必要な教育期間ののちに仕上げとして施すべきものであって、とりあえず最低限を教えたら実務に投入して良い理由ではない。

 とにかく、管理すべき人員の増加に加えて他国軍の受け入れ準備もあり、ゆっくりと教育を施す時間が用意できない。

 何しろ、先月と比べれば人員は倍増するわけだし、そうでなくともギルド支部の増設や人口増による経済活動の活発化がここ最近著しい。

 辺境伯領としての文官の増員も行われてはいたが、数少ない貴重な応募者たちは皆そちらに優先配備されてしまっている。


「領主様、こちらです!お早く!」


 それにしても、さっきから騒いでいるのは誰なんだ。

 仕事に集中したいんだが。

 今日中に卓上にある分だけでも処理しておかないと、明日はもっと書類が溜まってしまう。


「ヤマダ、張り切っているようだが、少し私に付き合ってはくれないか」


 気が付けば、領主様が隣に立たれている。

 これは大変な失礼をしてしまっていたな。


「失礼いたしました。もちろんです領主様」


 領主様直々ともなれば、否応はない。

 普通ならばお休みになられているであろう時間であるし、恐らくは何か心配事の相談だろう。

 時間が有り余っているわけではないが、少しでもお役に立とう。 

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