第三十一話
165日目 昼 ジラコスタ連合王国 コルナ村 アリール辺境伯領軍仮設拠点
「それは、困りますね」
裏技のような手段で各ギルドとの協力体制を構築して二週間と少し。
第一陣はヴィトニアで待機しているという言葉は嘘ではなく、既に村のはずれには数日前からギルドの仮設研修所が設けられており、様々な"研修"が開始されている。
例えば冒険者ギルドによる希望者向け戦闘研修。
職員の錬度維持のために行われるそれには、いつも"訓練をサボった”兵士たちが参加している。
あるいは錬金術ギルドによるポーション量産技能研修。
月産ではなく日産で計算すべき量のその成果物たちは、置き場所が無いためにコルナ村の倉庫に置かれ、倉庫代を"予備費がないので物納"という形で村に納められる。
それを我々はコルナ村という相手から買い取っている。
だが、両ギルドからの異常なまでの肩入れを感じる中、それらよりも一層のめり込む姿勢を示したのが鍛冶ギルドだ。
彼らは当初の目的である鍛冶技術の向上を行いつつ、住環境の改善を行い、軍の装備のメンテナンスを手がける傍らで、様々な商品を製造して商売まで開始したのだ。
おまけに、毎日のように増援が到着し、研究所が建てられ、炉やその他必要な設備と警備のための人員が増えていく。
いや、まあ、暮らしが便利になる上に、経済規模が拡大していくのは良い事だが、日を追うごとに彼らが規模を拡大していく事に違和感を感じる。
本当に鍛冶ギルドの人間なのだろうか?
出来上がった製品の質はどれも間違いなく素晴らしいのだが、職人の寄り合い所帯というよりも製造業者になろうとしているように感じる。
ああ、今はそういう話ではなかったな、思考を戻そう。
「ヤマダの言葉を否定するつもりはないが、それでも困ったでは済まされん話だな」
先ほどの俺のコメントに対し、領主様は額に青筋を立てながら続けた。
帰還したばかりの冒険者ギルド職員は、アルナミアの現状を詳細に報告してくれた。
アルナミアがまだ踏ん張っているという話を聞き、試しに売り込みに来た行商人という設定の彼らは、戒厳令が敷かれている街の中を驚くほどの詳細さで調査してくれた。
通りという通りには監視の兵士たちが立ち、住民たちは自由な外出を禁じられている。
市場は閉鎖されており、食料は全て配給制となっている。
不要とされた建物は全て取り壊され、急増された畑や井戸が狭い壁の中に広がりつつある。
聞けば聞くほど酷い話だが、領主様にとっては酷いでは済まないはずだ。
生まれ育った、父祖から受け継いだ領地が取り上げられ、挙句の果てに荒らされている。
ただ怒りを覚えるだけでは足りないはずだ。
屈辱であり、恥辱といっても差し支えない感情を抱いていることだろう。
本来あるべき主は、その愚考に抗議する事すらできず、別の場所でただ報告を聞いているしかできないのだ。
おまけに、厳密に言えば我々のやっていることは連合王国の法を破っていると言えなくもない非正規活動。
まあ、連合王国としては本音と建前は随分と違っているようだが。
「そうですね。
話を聞いた限り、今すぐ返してもらったとしても、再建に大変な手間がかかりそうです」
間違いなく荒廃している人心をどうするか?
破壊の程度がわからないが、辺境伯領の領都たるアルナミアを復興するのに必要な資金をどう稼ぐ?
要塞建設に伴い町になろうとしているコルナと、目の前にある領都であるアルナミアの関係はどう落ち着ける?
いやいや、そもそも論として、神殿はあの街を領主様に返すつもりがあるのだろうか?
考えれば考えるほど嫌になってくるな。
とりあえず、話を進めよう。
「それで、結局のところ彼らはどうしてあそこに踏みとどまっているのかはわかりましたか?
こちらでも色々と考えてみてはいるのですが、どうにも納得できる理由が思いつかないのです」
アルナミアに入れなくなってからずっと、それが謎だった。
全軍壊走の中で、戦線をもっと後方に下げると決定された中で、神殿があの街をわざわざ占領する意味がない。
当然だが、神殿以外ならば理由は考えられる。
連合王国としてならば意地や面子という理由が第一にくるはずだ。
敵が強いという問題はさておき、一戦交えただけで辺境伯領を丸ごと見捨てて大河の向こうまで撤退というのは面目が立たない。
ましてや今回は、諸侯だけではなく他国の目があり、おまけに各地の貴族だけではなく王領からも軍を出しているのだ。
この国は国防の要である辺境伯領すら見捨てると思われれば、国としては防衛部隊の玉砕よりも不利益になるだろう。
他の国の軍隊が踏みとどまるというのであれば、政治的な理由も大いにあるだろうが、それを抜きにしても軍事的な理由が考えられる。
人類軍として考えれば、インフラが整い、それなりの防御力が期待できる前線基地は残しておきたいはずだ。
全軍壊走とはなったが、部隊ごとの損害は異なるはずだからまだ戦える連中だっていただろう。
補給の問題は当時は解決していなかったが、それでも前線部隊が減れば、兵站の難易度は格段に下がることぐらい分かるはずだ。
領主様としてならば理由は明白だ。
自分の領地を放棄するぐらいならば、討ち死にしたほうがマシだろう。
玉砕を賛美するつもりはないが、国境の守りを勤める辺境伯としては手持ちの戦力があるうちは下がるに下がれない。
いざという時に死守をしなければならないからこそ、貴族の中でも上位に当たる辺境伯としての権力を持たされているのだから。
だが、呼んでもいないのに神殿がしゃしゃり出てくる理由はわからない。
神殿がこの国の貴族に喧嘩を売ってまで今回の行動を取るメリットはなんだろう。
まあ、神殿の上層部にあの場所で踏みとどまる軍事的な価値を見出した人物がいて、しかし連合王国が撤退しようとしていたので苦肉の策を取ったという可能性もゼロではない。
だがそうなると、今度はせっかく自分たちからやってきた領有軍を放置する理由がわからない。
全権を握ったので領主様は必要ないというのはわかるが、それであればなおさらの事、兵力は取り上げるべきだ。
魔王軍の戦力が少なくとも国を一つ潰せるというアバウトな情報しかない中で、一人でも多くの兵士が必要だろうに。
面倒な指揮系統の話も、強引とはいえ正規の権限委譲を受けているのだし、そもそも彼らは泣く子も黙る神殿様なのだから無視できる。
言われなくて良かったが、従えと言われれば表立っては逆らえないのだ。
「残念ながら、わかりませんでした」
行商人に変装して偵察を行ってきた冒険者は、申し訳なさそうな表情を浮かべて報告を続けた。
それはそうだろう。
一度の偵察でわかるほどに明確な理由があるのであれば、そもそも彼らがこちらにそれを伝え、従うように命じるはずだ。
こちらに伝えられない、しかし非常に重要な目的があるのだろうが、推察もできない現状としては注視しつつ、面白くない感情を我慢するしか無いな。
「どうやって留まれているのか、という点であれば、先ほども報告したように、神殿所属の馬車をかき集めて食料を運び込みつつ、強引な開墾でなんとかしているようです。
ですが、その理由については少なくとも末端の兵士たちには知らされていないらしく、今回話を聞けた相手は誰も話せるほどの情報を持っていませんでした」
ヴィトニアからの小規模な長距離輸送部隊を無理やり運用し、街を破壊してわずかな農地を作り、兵士たちに目的も説明せずに占領を続ける。
全くの無駄であるが、その無駄を貫く理由が相変わらずわからない。
まあ、領主様には申し訳ないが、今しばらくは彼らには警報装置としての役割だけ果たしてもらおう。
いずれは何とかしなければならないが。
「とりあえず、ご苦労様でした。
次は六日後に、商機を見出した商人という設定で食料を売りつけに行ってください。
できるだけ高値でね」
労いの言葉をかけている俺に、領主様は憮然とした表情を向けてくる。
どうしたのだろうか?
「ヤマダ、策を巡らすのも良いが、あまり領民たちに苦労をかけない程度にな」
まったく、こちらの考えを見抜いた上で、感情的には納得できないが利益を考えて我慢していただけるとは。
俺はつくづく上司に恵まれたな。
そこまで思ったところで、背後から声がかけられる。
「輸送部隊から馬車を用意させます。
できるだけ傷んでいる車体と、輸送直後で疲れている馬でよろしいでしょうか?」
そうだな曹長、俺は部下にも恵まれているんだったな。
171日目 夜 ジラコスタ連合王国 コルナ村 アリール辺境伯領軍仮設拠点 正門
「戻りました」
ヨレヨレの服を着た行商人という設定の男が報告に来た。
しかし、冒険者ギルドというのは何でもできるんだな。
他国の干渉を最低限に抑えるための規約をわざわざ作るわけだ。
「その様子ですと、随分と買い叩かれたようですね」
報告を聞く前に結果がわかるほど、彼は不機嫌そうだった。
荷馬車一台分の食料を可能な限り高値で売りつけろという命令の報告でその表情なのだ。
下手をすれば、寄進という名目で没収されたのかもしれないな。
「さすがに取り上げられはしませんでしたが、ええ、ヴィトニアからの直行便と考えれば、酷い安値でした」
そこまで言って、彼は笑顔になった。
「まあ、実際のところはそれでも限界まで値段を吊り上げたのですけどね」
彼らが販売した食料は、全てこの近郊で余るほど取れている作物だ。
馬車は軍のものであり、馬には申し訳ないが、単純に疲れているものを用意しただけ。
つまり、ギルドへの依頼料を除けば、丸儲けである。
「むしろ、喜んでいる神殿の兵士たちが哀れでしたよ。
日ごろは我々が神の代行者でございと威張っている連中が、馬車一台の食料を囲んで涙を流していたんですよ」
酷い状況とは思っていたが、そこまでか。
今までに出会った神殿関係者たちが規律正しい連中だったとは思わないが、それでも飢えた人間そのものの醜態を晒すというのは余程の事だ。
「それはそれは、神殿の皆様はさぞかしお困りのことなのでしょう。
次も、その次も買ってくれそうですね」
俺の言葉に冒険者は自信ありげに頷いて返してくれた。
アルナミアの市民たちを飢えさせないために、貴重な活動資金を得るために、そして情報収集のために実施したこの作戦は成功だったな。
これで彼らが非効率な増産や無理な補給を止めてこちらに依存してくれれば更にありがたいが、まあ、そう簡単にそこまでは進んでくれないだろう。
それに、ただ売れてくれるだけでも十分にありがたい。
何しろ、単なる野菜が銀貨に換わってくれるのだ。
文字通りの意味で辺境伯領の財布を握る身としては、少しでも現金の回収先が増えてくれれば嬉しい。
「本当に輸送してきているように見せるため、あと数回は馬車一台での販売になりそうですが、それでいいんですよね?」
さすがは冒険者ギルド。
単なる小銭稼ぎと情報収集だけではないというこちらの意図を正しく理解してくれている。
それらはあくまでもおまけであり、本当の目的は神殿側にひたすらに負担をかける事だ。
彼らからすれば最前線の先にある、最寄りの策源地から孤立した拠点。
そこにいる連中を食わせ、維持しなければならない。
負担は大変なものだろう。
ましてや、余力を残しているのかどうかはわからないが、少なからぬ労力を使って維持している補給では現場は不足している現状がある。
こちらからの販売で食料については何とかなるようにはなったが、今度は金がかかるようになる。
それも、兵士たちが生き続ける限りずっと、撤退か全滅をするまで。
いくらなんでも餓死させるという選択肢は選べないだろうし、強権を用いて領地を接収した以上、撤退も選べない。
あとは、継続性を見せて割高でも買い付ける方が補給線の維持より安く済むと思わせればこちらの勝ちだ。
「ええ、三回ぐらいは今のままで続けて、そのあと増やすかどうかは向こうの反応で判断しましょう。
何はともあれ、お疲れ様でした」
第一回目の作戦は、神殿側の目的こそわからなかったものの、それなりに情報を仕入れることができた。
領民を飢えさせるわけにはいかないし、あの街に簡単に落ちてもらっても困る。
軍資金は増えれば増えるほど嬉しいし、それが神殿の財布から出てくるのであればなお嬉しい。
それに、非友好的とはいえ曲がりなりにも友軍の動向がつかめる可能性があるという点は重要だ。
彼らには申し訳ないが、今後も我々のボッタクリ商売に付き合ってもらおう。
「さて、ヤマダ。もういいだろう?」
冒険者を見送っていると、背後から声がかけられる。
先程からこちらへ熱い視線を送ってきているのには気付いていた。
その上であえて無視していたのだが、もう限界か。
「ガルボさん、お待たせしました。
今日は要塞ですか?鉄砲ですか?」
順調に進む新時代の城塞である要塞の建設。
そしてドワーフの秘密兵器であったはずの鉄砲。
そのいずれにも関わってしまったために、俺は時間さえあれば彼らに付きまとわれている。
生命線である要塞も、兵士たちの攻撃力と生存率を上げるキーアイテムである鉄砲も重要なので、熱心なことに不満はない。
唯一あるとすれば、俺の睡眠時間が減る事ぐらいであろう。
まあ、もう少し状況が落ち着けば、それもなんとかなるはずだ。
なんか、ずっとそんな事を思っている気もするが。
「もちろん、両方だ」
ああ、そうだろうさ。
どちらも順調なんだ、状況報告とか、改善策の提案とか、色々あるだろうさ。
「時間が惜しいからな、歩きながら話そう」
こちらの答えを待たずにガルボは歩き出す。
領主様に目礼し、苦笑で退出を許可されつつ工廠へと向かう。
御大層な呼び名を付けてはいるが、町工場に毛が生えたようなものだ。
「細かいところは後で報告させるが、要塞の建設は順調だ。
正門はできたし、壁の建設も遅れは出ていない」
ガルボにその部下、俺とミイナさんと曹長の四人は、以前にも増して活気が溢れている街路を歩いている。
四頭立ての馬車がすれ違えるように、という注文で作られたそれは、ドワーフの技術、人海戦術、そして昼夜兼行の工事によって見事な出来栄えだ。
この大通りは将来の主力部隊の進撃路の一部であり、輸送部隊の交通路であり、都市の目抜き通りとなる。
豪華にして損はないはずだ。
「段取り八分だったか?お前の言葉は全く真実を表していたな」
彼の機嫌は良い。
要塞建設はまだ口頭でしか報告を受けていないというのに順調であることがよく分かるのだから当然だろう。
実際にこうして歩いていても、時間を追うごとにこの街の防御力が高まっていくさまを感じる。
「まあ、私ではなく私の故郷の言葉ですが、良い言葉であることは否定しませんよ」
軍政の域に足を突っ込んでいる自覚はあるが、それはさておき商売でも戦争でも、段取りは大事だ。
想定される状況に対応できる後方、最前線でもしっかり戦える量の補給、兵士たちが敵と戦うための訓練、そして物量。
最後は相手の物量次第のところもあるが、とにかくこれらを揃えることができれば、局地的に負けることはあっても大敗は起こりえない。
「それで問題は鉄砲の方なんだがな」
ああ、問題があったのか。
最近順調だったので、どうにも楽観的な思考に陥っていたようだ。
「どういう問題でしょうか?機材ならば鍛冶ギルドのほうに話をつけるので、彼らに用意させますよ。
素材の方となると、これはちょっと難しいですね」
ドワーフで用意できない素材を何とかするのは非常に難しい。
俺で用意できるものであれば出してもいいが、それでは量産ができない。
連射ができない以上、銃は数が用意できなければ賑やかし程度の役目しか期待できないからな。
「そう先走りするな。
設備も、素材も完璧だ。
認めるのは癪だが、今のここは本国より優れていると言っても良い」
進んでいくうちに、要塞の外に設けられた第二練兵場へ差し掛かりつつあった。
ここでは周囲になにもない事から、銃や弓矢の遠的、ファイヤーロッドなどの危険な魔道具が毎日用いられる射爆場になっている。
「ほら、前にウチの若いのが、もっと大きな銃で火焔結晶を飛ばしたら面白いって言ってただろ?」
そういえば、そんな危険思想を持っている奴がいたな。
一緒に酒を呑んだら、さぞかし旨いだろう。
「まさか、できちゃったんですか?」
期待を込めて尋ねる。
ライフリングとか銃剣とか、あるいは青銅砲とか面制圧とか、色々と提案はしているが、この世界独特の発想については俺は疎い。
だが、さすがはドワーフ。
魔道具的なことを考えさせれば、俺など足元にも及ばない。
「そのまさかだ。
問題というのは、砲弾の威力はいくらでも強くできるが、撃ち出すためにはある程度以上は強くできないということなんだ。
どうやっても砲ごと吹き飛んでしまう」
それはまた、難しい問題だな。
火焔結晶は手間を掛ければいくらでも威力を高められるが、それに比例して危害半径が凄まじく広がる。
手投げ弾としての運用など論外なレベルにまでだ。
そのための砲弾への転用であったが、詳細は聞いていないが、要するに威力を高めるために大きくすると、保護部分が小さくなって発射の衝撃に耐えられないという話だろうな。
航空機でも用意できれば言うことはないんだが、ないものねだりは諦めるとして、カタパルト的な物を作ってもらうか。
「難しい話ですね。
ところで、これはもう鉄砲というレベルではないですよね?」
歩く先で若いドワーフが抱えていたそれは、無反動砲と言っても差し支えのない大きなものだった。
当然ながら、ひたすら口径が大きな銃を作るという今の方針からして、無反動どころか猛烈な反動があるはずだ。
「大鉄砲、大筒、色々と呼び方は考えたんだが、今はお前の言っていた大砲という呼び方で統一させている。
まあ、呼び方はいいんだ。それよりも砲弾をどうするかを」
そこで彼の言葉は遮られた。
要塞から、こちらに目掛けて伝令が駆け寄ってくる姿が目に入ったからだ。
どうやら相当急ぎらしい。
「報告!筆頭鍛冶殿にご報告があります!」
まだ距離があるというのに、大声でこちらに話しかけてくる。
随分とのんびりとした時間を過ごせていたが、いよいよ決戦かな。
「任務ご苦労!」
いつの間にか曹長が前に出る。
緊急という言葉を発してないということで、型通りのやりかたを通すべきだと判断したのだろう。
「報告しろ」
ようやく到着した伝令に、曹長は短く命じる。
見たところその兵士は若かったが、それでも訓練の結果はしっかりと出ているのだろう。
苦しそうではあるが、息も絶え絶えというほどではない。
「報告します!偵察部隊がペガサス騎兵隊の残存兵力を保護しました!
1名だけ、騎士見習いです!」
また優雅な名前の味方を見つけたものだ。
確か、西のアルーシャ王国が、王宮の守備隊としてペガサスを部隊単位で持っていたな。
王宮の守りとして機動力のある部隊を拘束するのは褒められたことではないが、ゲームの設定にケチを付けても始まらない。
それに、こんな最前線で合流するということは、きちんと手持ちの戦力で出来ることを始めたということだろう。
いや待て、残存兵力と言ったか?
「ペガサス騎兵隊といえば王族も加わる精鋭だと聞いている。
残りはどうしたのだ?撤退したのか?」
曹長も同じ疑問を抱いたらしく、伝令に尋ねている。
王族も加わる、ね。
嫌な予感がしてきたな。
「偵察部隊が保護した王女殿下以外、全滅と聞いています。
ナルガ王国との国境付近にドラゴンの集団がいるらしく、領主様より筆頭鍛冶殿へ早急に戻るようにとご命令が発せられました!」
いやはや、これは面倒な話だな。
王女殿下にドラゴン。
最寄りの拠点には友好的ではない友軍がいて、それ以外に味方は無し。
早ければ今晩中にはアルナミアかこの街が火の海になるかもしれん。
「ガルボ殿、使用可能な全ての銃をかき集めて戦闘準備をお願いします」
時間がない。
幾度と無く偵察を繰り返しても姿を見せなかった敵軍が近くにいるということは、相手はやる気だ。
今ある全てを用意して、迎撃の準備を整えなければ。
「直ぐに全員を配置に付かせろ。
小隊長は本営まで集合。復唱はいらん!」
曹長の怒号が響き、伝令は速やかに行動を開始する。
さて、相手がいつ来るかはまだわからないが、久しぶりの戦争を始めよう。