第二話
2013年5月6日
感想にてご指摘をいただいた部分を修正しました。
2011年6月13日
感想にてご指摘頂いていた箇所を修正しました。
36日目 日本サーバー 【森14エリア】
「これでもう勘弁してくれよ!」
現在の俺の周囲には、斬り伏せられたグレイウルフやデスベアーの死体が転がっている。
更にその外側にはファイアやエア、アイスなど様々な魔法で殺害した盗賊たちの死体。
そして罵声と共に発射した矢の進路上には、背中を向けて逃げている盗賊の最後の生き残りがいた。
まっすぐに走る彼の背中に命中し、彼はそのまま倒れた。
「恨むなよ」
短くそう告げ、ファイアを叩き込む。
致命的な攻撃を受けた彼は、為す術も無く強制的な火葬により絶命した。
「まったく、ちょっとした冒険のはずがどうしてこうなるんだよ」
体の中に染み込んでいるスキルの恩恵で機械的に剥ぎ取りを開始しつつ、俺はこの惨状の発端を思い返した。
事の起こりは、思ったよりも好調に終わった出荷まで遡る。
そこで大いに気を良くした俺は、久々にレベルをあげる為に森へと繰り出したのだ。
最初はチョコチョコと姿を見せるグレイウルフを狩っていたのだが、何がいけなかったのか、気がつけばグレイウルフとデスベアーの集団に囲まれていた。
だが、鍛冶レベルから見れば低いものの、俺はそれなりの戦闘能力を持っている。
危なげもなく殲滅を行うことができたのだ。
「毛皮はこれくらいでいいとして、なんだよ、大した物は持ってねぇな」
剥ぎ取りを完了し、盗賊たちの所持品を改める。
最初の一人目は、思わずボヤいてしまうほどに貧相な所持品しか無かった。
グレイウルフのあとにやってきたデスベアーを何とか始末したところで、奴らは突然現れたのだ。
いや、正確には戦いの最中からこちらの様子を伺っていて、ようやくデスベアーを仕留めたところで襲いかかってきたのだ。
だが、所詮は雑魚。
接近すら許さずに一方的に魔法で攻撃を行い、僅かな時間で虐殺を完了できた。
一息ついたところで隠れていたらしい最後の一人が逃げ出し、冒頭に戻るわけだ。
想定外の大規模な戦闘のおかげで戦闘レベルは6に、魔法レベルも12にする事ができたのだが、恐ろしく疲れた。
次回のレベル上げは、もう少し敵の出現を察知しやすい場所で行うとしよう。
そんな事を思いつつ、戦利品の回収を終えた俺は、小屋へと戻ることにした。
いい加減に疲れたというのもあるが、それよりなにより、二日前に言われたとおり、今日はガルダン武器店からの追加発注がある日なのだ。
小屋に戻るなり、早速来客があった。
まったく、少しぐらい休む時間を与えて欲しいものだ。
「ヤマダさんいらっしゃいますか?」
見ればガルダン武器店の使いだ。
一昨日の言葉通りにやってきたらしい。
今回は納品ではなく発注だけなので、荷車などかさばるものはない。
「ああ、いらっしゃい。
仕事の依頼ということでいいのかな?」
営業用の笑顔を浮かべる。
彼女は大切な固定客様なのだから当然である。
この職場兼自宅を維持するためにも、わざわざ商品を受領しに来てくれる商人との関係は良好に保たなくてはならない。
「そうなんですけど、その、すごい格好していますね」
それはそうだ。
俺はつい今しがた激戦を乗り越えて帰宅したばかりなのである。
おまけに、剥ぎ取りを行った関係で全身が血まみれだ。
気の弱い人間ならば見ただけで失神してしまうだろう。
「狩りに出かけたら敵に襲われてな。
毛皮の剥ぎ取りをしたせいでこの有様だよ。
怪我はないんで安心してくれ、それで、仕事の内容は?」
俺がそれなりに戦えることを知っているため、短い説明で彼女は納得してくれたようだ。
「はい、この間発注させていただいた銀の剣と鉄の盾を20ずつ、できるだけ前と同じ出来でお願いします。
それと、木の矢を350本お願いしたいのですが、一週間でお願いできますか?」
大型案件のお出ましである。
俺の持つ鍛冶スキルからすれば、およそ三日で完了できる仕事だ。
もちろん品質についても、前回と同等ということはせいぜいが+1なので、これにも問題はない。
「凄い話じゃないか。
どこかの国と戦争でも始めるのか?」
この手の話にはきちんと背景を確認することが必要である。
ガルダン武器店は領主軍にも武器を収める程の身元の確かな店なので、盗賊などに武器が流れる恐れはない。
数量からしても、流れの傭兵団かそれこそ領主軍にでも売りつけるのだろうが、彼らは自前の武器を既に持っているはずだ。
そうなると、考えられるのは戦争の準備か、あるいは装備の更新である。
戦争となればこれはビジネスチャンスだが、物資の統制や戦禍など、こちらにも影響が出てくる事は容易に推測できる。
事前に備える必要があるだろう。
「いやいや、そんな物騒なことがあってたまるもんですか!
先日の銀の剣を献上したところ、領主様にとても気に入って頂けたんですよ。
それで、領主様の騎士団の武器を全てヤマダさんの作った物にして頂けることになったんです!」
実に光栄な話だ。
単なる装備の更新なのであれば、作って納品して終了である。
武器屋として喜ぶべき仕事だな。
「それはそれは、全力で勤めさせていただきたいですな。
代金の方はいかほどで?」
領主が気に入った武器を自分の部下たちに買い与えるとなると、金に糸目を付けずか、名誉を代金として極端な安価かのどちらかでしかない。
前者であればもはや言うことはなく、後者はお墨付きを頂けるということでこれもありがたい。
どちらでもいいのだが、報酬の話は事前に完了させておく必要がある。
「驚いてくださいよ。
なんと、銀の剣一本あたりが銀貨50枚です!鉄の盾は20枚、木の矢はまとめてで銀貨50枚です。
どうです?凄いでしょう」
何故彼女が胸を張っているのかはよくわからないが、大変な金額である。
銀貨1450枚となると、分かりやすく言えば金貨14枚と銀貨50枚だ。
よくある一般人の生活費に換算すると、確か銀貨5枚が一ヶ月分だったから、ざっくり計算で290か月分となる。
繰り返すが、大変な金額だ。
「なるほどなるほど、それで、その単価は領主様がお認めになられる質だった場合というわけか」
この辺りの領地は別に困窮しているわけではないが、それでも金貨14枚という金額は莫大なものだ。
戦争準備ではないのだとすると、値切られる危険性は高いな。
「それはまあ、そういうのもあるんでしょうけどね。
でも、ヤマダさんの腕ならば、きっと領主様は全額お支払い頂けると思いますよ」
仲介の立場にいるガルダン武器店としても、そう簡単に値切らせはしないだろう。
何しろ、単価が落ちればそれだけ利益も減少してしまうからだ。
「そう言ってもらえるとありがたいな。
じゃあ、早速だけど仕事を始めたいから、一週間後にまた来てくれ」
武器店の使いを見送りつつ、この先のスケジュールを確認した。
依頼の達成のために材料を揃える必要がある。
食料品も少なくなっていたし、面倒だが、街へ買出しに行くとしよう。