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第十五話

2013年5月6日修正

【修正前】

計画通り、槍兵および剣兵はまず遠距離攻撃で敵を削る


【修正後】

所定の計画通り、槍兵および剣兵はまずファイヤーロッドを用いて遠距離攻撃で敵を削る。

67日目 昼 ジラコスタ連合王国 国境付近の川 警戒陣地


「敵の数が多すぎるようだが、それだけだ。

 所定の計画通り、槍兵および剣兵はまずファイヤーロッドを用いて遠距離攻撃で敵を削る。

 交換用のものも用意してあるので、遠慮せずに撃ちまくれ」


 その言葉と同時に休憩所の隣のテントが開けられ、中に詰まっているファイヤーロッドが全員に配布される。

 始めた時に比べれば随分と戦力が増してはいるが、所詮は警戒陣地。

 結局のところエルフの増援は間に合わず、主力陣地からあれ以上の増援もなかった。

 そのような状況で、総数不明の敵をどうにかすることなど出来るはずもない。

 しかしながら、そうであったとしても彼らは戦わなければならない。


「敵先鋒を確認!ゴブリンの大群です、すごい数です」


 背の高い木に梯子をかけただけの監視所から報告が入る。

 本来であれば彼の報告はもっと正確な表現をされなければならないのだが、この時押し寄せてきた魔王軍は総数が数百に達するという凄まじい物量を誇っていた。

 街道を埋め尽くし、さらには彼らからは見えないが森の中一杯に広がっている。


「進入路を閉じろ!工兵隊は撤退!」


 最前線を任される重兵士たちが予め用意されたバリケードを設置し、それを尻目に工兵たちは荷物をまとめて撤退の準備に入る。

 彼らは名目上の兵士なだけであり、本格的な戦闘に耐えられるだけの訓練は行われていない。


「敵軍なおも接近中!ゴブリンの後ろは、ゾンビです!ナルガ王国軍の装備を身に付けている模様!」


 悪い知らせは続く。

 滅びたはずのナルガ王国軍の装備を装備した一団。

 彼らが寝返ったのでなければ、それは魔の力で動く呪われた死体。

 いわゆるゾンビのはずだ。


「続けて伝令を出す。

 敵総数は数百以上。ゾンビもいると付け加えてくれ。

 再度撤退許可を要請しろ」


 状況は非常によろしくない。

 せっかく作ったこの陣地であったが、想定では多くて百体程度の敵軍しか想定されていない。

 敵の総数がそれを大幅に上回る以上、早い段階で名誉ある撤退を行わなければならないだろう。

 

「おいティル!何をしている!」


 荷物をまとめた工兵達が撤退準備を進める中、小柄な人影が進入路を塞ぐバリケードへと向かっていく。

 その手には木槌が握られている。

 慌てて制止しようとする兵士たちをすり抜け、その人物はバリケードに取り付く。


「置いたら固定してって言ったでしょ!?

 私はいいから早く紐で縛って!」


 駆けつけた兵士たちに彼女は鋭く怒鳴りつけ、固定がされていなかったバリケードの底板に杭を打ち始める。

 怒鳴りつけられた兵士たちは、大慌てでロープで複数のバリケードを縛り付けて簡単には押し倒されないようにしていく。



「敵先鋒基準点2に到達!」


 そのようなやり取りがされている間にも敵軍は進軍を続ける。

 異様な陣地が置かれていたとしても、低級モンスターに過ぎないゴブリンたちはそれを脅威とは認識できないのだろう。

 あるいは大群に属している故の高揚感から人類を必要以上に過小評価していたのかもしれない。

 どちらにせよ、彼らは馬鹿正直に正面から陣地へ歩み寄るという信じがたい愚行の報いを直ぐに受けることとなった。


「弓兵、一斉撃ち方、放て!」


 陣地内で命令が下され、十分な戦闘経験を積んでいる弓兵たちは、肩を並べるエルフたちと共に一斉射撃を実施した。

 同時に放たれた矢の数は僅か40本。

 最前列を狙っているとはいえ、数百を超える敵に対して効果が望めるものではない。

 しかし、それは必死になって次の矢を番えている弓兵達が考えることではなく、無表情で矢の行く先を眺めている筆頭鍛冶の仕事だ。

 実際には、彼は現代の言葉で言うところの技術士官に相当し、戦闘指揮に携わるべき身分ではない。

 だが、分業が行き届いた現代とは異なり、中世ヨーロッパ程度の世界観であるこの世界では、准貴族に相当する彼こそが指揮官でなければならない。

 先頭にいた数体のゴブリンが、高速で飛来した矢の直撃を受けて地面へと倒れ伏す。

 隊列に一瞬の隙間が開くが、続々と押し寄せる後続がそれを一瞬で埋めてしまう。

 次々と矢が放たれ、敵が自由な身動きの取れない大群であることからそれらは驚異的な命中率を叩き出す。

 しかしながら、大軍対寡兵の戦いというものは、多少の事では覆すことはできない。

 次第に増えていく仲間の死骸を踏みつけながら、ゴブリンたちは進んでいく。


「休まず攻撃を続けろ、魔導兵撃ち方用意」


 ただの兵士から魔導兵へとクラスチェンジを遂げた兵士たちの出番が訪れようとしていた。

 彼らが持っているのはファイヤーロッド。

 この世界の基準では破滅的と言っていい威力を持つ、レベル10三十連発という強力な兵器である。


「魔導兵撃ち方準備完成!」

「回収班準備!撃ち終わったものは直ぐに休憩所へ運べ!」

「良く狙え!訓練の成果を見せる時だぞ!」

「報告!敵先鋒基準点1に到達!」


 報告と命令が入り乱れ、そして遂に敵は待ち望んでいた射撃開始ラインへと到達した。




67日目 昼 ジラコスタ連合王国 国境付近の川 警戒陣地


 川原に設けられた陣地を舞台にした攻防戦は、早くも沸点に達しようとしていた。

 攻撃側の魔王軍は多少の損害は無視出来る物量を持っているのに対し、防御側は近距離に強い魔導兵を主戦力としている。

 40名からなる弓兵隊の防御射撃は、部隊規模からすれば決して小さくない戦果を挙げてはいたが、そもそもの戦力差が全てを台無しにしていた。


「敵先鋒は基準点1を通過!」


 哨兵の報告に、曹長は筆頭鍛冶を見た。

 自身も両手にファイヤーロッドを持っている彼は、曹長の視線に笑みで答えると口を開いた。


「魔導兵諸君!今こそ出番だぞ!

 撃ち方用意!」


 弓兵に比べると随分と命令が大雑把になってしまうのも無理は無い。

 彼らは攻撃方法の訓練を積む時間はあったが、部隊行動を行うための経験を積み重ねる時間までは用意出来なかったのだ。

 川原のために塹壕を掘るわけにもいかず、代わりに胸壁がわりに盛られた土壁に身を隠した魔導兵たちが杖を敵に向ける。

 散発的な攻撃を受けている敵は進撃速度を全く落としておらず、既にその最前列は対岸に到着していた。


「撃て!」


 完結極まりない命令と共に、胸壁に取り付いていた全員が敵に向けて魔法発現キーワードを呟いた。

 真昼だというのに目が眩むような閃光が発生する。

 十数名が一度にレベル10のファイヤーボールを連射したのだから無理もない。

 放たれた魔法の矢は、そのまま直進して渡河を開始しようとしていたモンスターたちに飛び込む。

 直撃を受けたものはそのまま即死したらしく後ろへと撃ち倒され、さらに破裂した火炎によって周囲のゴブリンたちが炎上する。

 幾つかの魔法は狙いをはずし、対岸の障害物や左右に広がる森の中へ命中するが、現状ではそれすらも有効打となった。

 燃え盛るバリケードは誰も近寄りたくないものとなり、強烈な火炎魔法故に木々は青々とした葉を付けたまま猛烈に燃え上がる。


「Gyaaaaaaaaaaaaaaaa!!!!」


 人間では何と言っているか理解できないが、悲鳴であることだけはわかる絶叫の合唱が開始された。

 レジストなど出来るはずもない強烈な火炎魔法の集中砲撃を受けた先頭集団は、走りまわる松明となっている。

 全身に強烈な熱傷を負い、救護など期待できるはずもない彼らはそれほど長くは苦しまずに済むだろう。

 

「こいつは、すげえ」


 最初の一撃を放った後、魔導兵たちは自分たち生み出した地獄に呆然としていた。

 確かに訓練の時にもその凄まじさは十分に体験したつもりであったが、あの魔王軍相手にこれほどの効果があるとは。


「何をしているか!」


 生命体を焼き尽くす炎に見入る彼らであったが、筆頭鍛冶は苛立ったような叫びで叱咤した。

 両手のファイヤーロッドから次々と火炎弾を撃ち出す彼は、多少の外れは許容範囲だと言わんばかりの弾幕をはっていた。

 ゴブリンが、ゾンビが、地面が、木々が、バリケードが、彼の攻撃が行われるたびに燃え上がり、対岸の絶叫が増える。


「前はどこもかしこも敵だらけだぞ!ここで休んでどうする!撃ちまくれ!」


 そこまで叫び、どうやら撃ち尽くしたらしい杖を捨てる。

 足元に積み重ねてある新品を手に取ると、再び彼は弾幕を再開した。


「ひ、筆頭鍛冶殿に遅れをとるな!撃て!撃て!」


 伍長たちが自分の分隊員に引き攣った声で命令を下し、兵士たちは慌てて防御射撃を再開した。

 この瞬間、圧倒的劣勢のはずの守備隊は、間違いなく敵軍を圧倒していた。

 先頭集団が燃え上がるバリケードと化した魔王軍は足を止められた。

 さらに外れ弾が燃え上がらせた左右の森が、いよいよ無視できない勢いの森林火災となり始めたのだ。


「左!騎士の集団が突撃体制!攻撃を集中させろ!」


 筆頭鍛冶の言葉に左翼の分隊が視線を向けると、ナルガ王家の紋章を施された盾を構えたゾンビ騎士の集団が足早に接近してくる。

 この場を守る兵士たちが弓兵であれば、此処から先は絶望的な白兵戦となっただろう。

 だが、彼らが手に持っているのは弓でもなければ剣でもなかった。


「撃て!撃て!ぶっ殺せ!」


 伍長が的確な命令を行い、兵士たちは手に持った杖を敵に向けた。

 射撃が集中される。

 鉄だろうがそれ以上のものであろうが、魔法に対する防御力のない盾は無力である。

 放たれた火炎弾の直撃を受けたゾンビ騎士たちは、着弾の衝撃でなぎ倒され、続いて押し寄せた第二射で強制的な火葬が行われる。

 

「ほ、報告!敵後方よりゴーレム!ゴーレムの集団接近!!」


 危なげ無く防御戦闘が進められていく中、木の上から敵の様子を監視していた哨兵から叫びが上がる。

 未だに止まること無く進む敵軍。

 その隊列の中に、頭ひとつどころか周囲から倍以上の高さを持つ何かが接近してくる。


「ゴーレムだって!?」


 たった今ゾンビ騎士団を殲滅して誇らしげにしていた分隊から悲鳴が上がる。

 彼らの持つファイヤーロッドは、確かに通常の敵相手には致命的な破壊力を発揮できる。

 だが、土や岩、鉄といった物質で構成され、さらには魔法生命体であるがゆえに頑丈なゴーレムは、有効打を与えることが困難だ。


「種類はなんだ!?鉄か?石か?色で見分けろ!」


 全員の戦意が一瞬で萎む中、筆頭鍛冶は恐怖を含まない単なる大声で敵の種類を尋ねた。

 あの上官であれば、また何とかしてくれるかもしれない。

 そのやり取りに全員が集中する。


「い、ろ?

 ええと、色は、しばらくお待ちください!」


 予想外の返しであったためか哨兵からの応答が遅れる。

 それを待ちつつ、兵士たちは防御射撃を続ける。

 敵の足が多少止まったとしても攻撃できるよう、基準点1はファイヤーロッドの有効射程にかなりの余裕を持たせて設定されていた。

 燃え上がる味方の死体を避けるようにして接近する敵軍は、未だに一方的に撃たれ続けていた。


「報告します!ゴーレムの色は土色!土色です!」


 その報告に再び兵士たちは落ち込む。

 土色という事は、恐らくはサンドゴーレム。

 やはりファイヤーロッドでは効果は望めない。


「そうか!全員傾注!」


 だが、報告を受けた筆頭鍛冶の声音は変わらなかった。

 いや、むしろ若干ながら得意げに聞こえなくもない。


「黙っていてすまないが、実は、マジックアイテムはこれだけではないんだ」


 彼の外套から何本もの杖が転がり出る。


「命令!各分隊にウォーターロッドを五本ずつ配布する!

 敵が接近したらぶちかましてやれ!」


 彼の言葉に、全員の戦意は底辺から頂点までいきなり急上昇した。

 彼らの上官は、常識から随分と外れた存在らしい。

 しかしながら、圧倒的敵軍に攻め寄せられている現状では、これほど嬉しいことはない。


「伝令!伝令!本隊より緊急連絡!」


 ようやく戻ってきた伝令が現れたのは、新装備を受領しようと兵士たちが筆頭鍛冶に駆け寄った瞬間であった。

 馬を駆り、それほど長距離を移動したわけではないというにも関わらず、彼の表情は苦しそうに歪んでいる。


「ご苦労、報告してくれ」


 その表情だけで良くない何かを既に受け取った筆頭鍛冶は、表情を変えずに尋ねた。


「報告します!本隊はこれ以上の抗戦継続を断念。直ちにアルナミアに向け撤退を開始。

 我々にも直ぐに続行するようにとのことであります!」


 待ち望んでいたはずの撤退許可ではあったが、その内容は想定の範囲外の規模だった。

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