上級生のデモンストレーションからの~お説教?
「――――と、言う風に、この星は古の魔法が働き、様々な制約の下に我々は住んでいる訳だ」
腰まである長い黒髪をゆったりとした三つ編みにした上級生が言う。
彼がタクトの様に魔法の杖を振ると、先程まで床から天井までを占拠していた立体の影絵がすーっとドライアイスの煙の様に解けて消えていく。
幻想的な色合いもあった影絵の舞台も全て消し去ると、彼はもう一度杖を振り元の教室へと戻してゆく。
3D影アニメの様ではあったが、キャラクターの動きや躍動感、悲壮感なども表現されていて見る価値があった。
それを作り出したのが、上級生の彼だ。
私達生徒を見据える瞳が、何故か強い。
そして、口元には皮肉気な微笑を浮かべて口を開く。
「僕は常々思っている事がある。まず、魔法を学び行使する者は、星の住人である我々一人一人に課せられた筈の【魔力制約】を星皇が代わり背負っている事を認識すべきだと思う」
室内に居る生徒をぐるりと見回して彼は言う。
「この星で、魔法を使えば100%の力で行使出来る。しかし、他の星……この星の外ではそれ以下になる。それが何を意味しているか解る人はいるか?」
詰問する彼が最後に視線を合わせたのは、私の右側に座るカグラだった。ちなみに、左にはリョウが居て、カグラの隣にはレーツェルが座っている。
――――そりゃあ、皇族なんだし、この星には詳しいだろうねぇ……。
「誰か答えられるものは?」
そう言って彼は再度、教室内を見渡す。
この星出身では無い者、生まれも育ちもこの星の者もとが、入り混じった状況だからかもしれないけど、考え込む者、あまり意味が理解出来ない者もいて首を傾げている生徒もちらほら居る。
恐る恐る手を上げる者も居た。
「では、レーツェル君に答えて貰おうかな?」
挑戦的な瞳をこちらに向けて言う彼に。
「はい。ダーク先輩のご希望に適う様に答えたいと思います」
ニッコリと余所行きのビジネス的な(スマイル0円)笑顔で、レーツェルが返答する。
どうやら、二人は面識があるらしい。
「そもそも、星皇陛下の御力で、個々の魔法の負荷が行使者に対して、ゼロに近いのだと思われます。本来、魔法を使う者は必ず消費する魔力がある。魔法を発動させる為には、その消費魔力で自分の周囲に働き掛けます。この星では、その魔力消費負担が殆ど不要という事です。女皇陛下の魔力が星全体に満ちている事だからこそ出来うる事で、他の星に満ちているのは自然界の力、故に、己の魔力で自然界に存在する力を変化させて、魔法とします――――で、どうでしょうか。先輩?」
にこやかな笑顔を張り付けて回答するレーツェルだけど、その眼はどこか「んな、回答させるなよ!」的な色が含まれていそうだ。一応、騎士団に居た事だし、普通よりも色々知っているだろう。
だって、レーツェルの笑顔が本当に胡散臭いんだもん。
「素晴らしい答えですね! そうです。我々は苦労をしないで魔法を行使出来るのです! この星ではそれなりに優秀で有ったとしても、他星に行けばそれなりな魔法使いに成り下がります。時々、その事を知っていても自分の実力だと勘違いする生徒がいる。君達はそんな愚かな生徒に生徒もしくは魔法使いになって欲しくないと思う。そして、魔術法と言う法律があり、魔法を扱う者はその法に従わなければならない。十年程前に、貴族階級の者が王宮内で他者に対し魔法を使い、障害を負わせた事件があった。その罪人はどうなったかと言うと……」
ちょっと前までは、レーツェルを褒めていた声音が、後半になるにつれ、冷たさと硬質さを持った声質になっていく。
「貴族階級を剥奪、財産没収、記憶操作の後に魔法を封印……そして、この星から追放となった。君達の中でその様な、馬鹿な生徒や、卒業生が出ないでいてくれる事を望む。魔法は様々な事が出来る。その反面、危険でもある。危険だからこそ多くの法があり、それを順守する事を我々は求められる。この学院に入った時点から卒業して、魔法使いになった後も、その力が無くなるその日まで続く」
さざめく様な小さなざわつきが室内に起こる。
――――まぁ、『魔術法』と言われても、さっぱり解らない人もいる。実際にはこれから教わる学科の一つだから致し方ないと思う。
法を犯す事もあると、言う事に少し恐怖を覚える者もいてザワザワしていても不思議じゃない。
しかし、あの話をこの場に持って来るダーク先輩って人は怖いもの知らずなのか? 確信犯でやっているのか読み難いなぁ。
「本来ならば、魔術法についても1ヶ月後位から学んでいくのだが、今期の生徒の上下関係なく浮足立っている。その為、この場での注意喚起をし、皆に認識をしてもらう。実際、入寮即日に前代未聞の退学処分となった者もいるのもその理由のひとつだ」
――――うげぇ~~ッ。どっちも私絡み!? っても、どちらも派手に本人がやらかしただけなんだけど。自爆テロみないなもんだけどさ、こっちは迷惑を被っただけよ?
片方には殺されそうになったし? 傷害罪じゃなくて、殺人未遂のだよねぇ? あ、誘拐罪も付くか。どっちにしても軽い罪状ではないよね。うん。
女子の方は、お祖父様にケンカ売ってたし、学院の最高権力者を脅すアホっぷりだったもんなぁ……。
思わず遠くへ思考を飛ばしてしまう。
そもそも、あんな真似をするのが悪いと言うか、絶対ダメよね。人として。
「少しくらいなら……とか、普通に皆がしている事だからとか、甘く考えて行動いたツケが思いもよらない結果を招く。魔術法に則ってその罪が問われる事も少なくない。魔法を使えない者にとっては魔法は恐怖の対象になる。従って、人の手で起こされた罪と、魔法によって起こされた罪のどちらも同じ事象だとしても……刑罰の重さは魔法を使う場合の方が数倍も重くなる」
ダークが真剣に告げる言葉に生徒が静まり返る。
そーっと視線を走らすと、一部の子が青褪めているのが分る。悪戯目的であっても、単なる嫌がらせであってもちょっとでも魔法が関わっていれば重い罪に早変わりする。それに気付いた時、まともな頭を持っている人間ならば血の気が引くだろう。
「そして、この学院の魔法規則を守る為に、生徒会、風紀委員会などが目を光らせている。もし、君達の中で逸脱した行為をする者がいたとする。それを実行した者は退学になる事もある。また、それに加担した者も同様である。学生だからと思って行動しない事だ。この学院に入った者は、成人した者と同じに扱われる。故に卒業後直ぐに魔術師団や宇宙船乗りとして起用されて行く者も多い。最前線でも使える人材に育てるのもこの学院の特色だからこそ、そのことを良く肝に命じておくと良い。自分を律し、魔法を律し、規則を律し、それでも最低限の事が出来ない者は容赦無くふるいに掛けられる。向上心の無い者は学園を去る事になる」
そ~~っと、おっかなびっくり手を上げる一人の男子生徒が居た。
緊張感が半端ない中で、強張った表情でダークを見詰める瞳は真剣そのものだった。
「あの、質問が、あります。宜しい、でしょうかっ?」
上擦った声だけど、ひとつひとつを区切る様にしっかりと言う生徒にダークは目を合わせる。
「どうぞ、言ってみて」
「仮に魔力を持った生徒が、何かしら犯罪などを犯して学院を去る結果となった時、その人物の魔力はどう扱われますか? 犯罪者と同じ様に扱われることになりますか?」
「そうだね、持っている魔力を野放しにするのは燃え盛る炎を放置するのと同じ事だから、魔導具を付けられてしまうだろうね。端的に言えば『罪人扱い』だね」
にこっと笑ってダークが言う、その笑顔を正反対にドン引きする室内。
「わ、わかりました、有り難う御座います、先輩」
質問した生徒は深々と頭を下げてお礼を述べる。
その姿を満足そうに見遣って、ダークは微笑した。
「この学園は生易しい学校では無い。自立性や責任感も養わなければいけないし、そして常にそれを問われている。君達が自ら考え頑張って学生生活を過ごすことを期待する。僕からの忠告を生かすも殺すも君達次第だ。今日の授業はこれで終了となる。後日、本日の感想レポートを初級科統括担当の先生に提出する様に。以上だ」
――――そして、上級生による実習デモンストレーションの授業が終わった。