対抗戦を切り抜けろ! 5 sideboys
カグラは自身の母親であり元上司で副騎士団長に背を向け、レーツェル達の許へ戻りながら小さく愚痴る。
「騎士団の揉め事位、内輪で押さえろっての」
不満を口にしながらも、カグラは冷静に考えていた。
何故引っ張り出されたか、目的は何なのかを。
一つ目は、技量の違いをハッキリとさせる。
二つ目は、贔屓など騎士団にはないこと。
三つ目は、ナツキをその眼で見て確かめること。
四つ目は、自分達のその腕が鈍っているか否か。
レーツェルは苦笑いで、カグラを迎える。リョウは複雑そうな表情をしていた。
「おかえり、カグラ」
「レーツェル、本気を出せとの命令だ」
「いいの?」
「ああ、腕章持ちは正騎士待ちだから、無様な姿を晒す真似もするなとの仰せだ」
その言葉を聞きレーツェルは、物凄く苦い顔をしてしまう。
パンパンと、手を叩いてシエンが学院側の生徒に向って言う。
「さぁ、皆! 戦闘開始までは時間があるから、適当に固まって戦略会議をしなさいな!」
的を得ているシエンの言葉に、カグラがチームメンバーを促す。
「行くか」
「ほーい」
「せやな」
ガヤガヤと混乱をしている生徒達の中へと、カグラ達は入って行く。
取りあえずと言う感じで、ファーストクラスのクラス長(委員長みたいなもの)のヴェルト・カリタ=アルカーナが仕切り始める。さらさらの金の髪、緑の瞳の勝気な印象を持つ少年だ。
「それじゃ、まず、ランク別にするからちゃんと自己申告しろよー。自信の無い奴は右側から。シュミレーションが得意な奴。魔法が得意&それなりに扱える奴。騎士団に対抗出来る奴で並べー」
ヴェルトの声にわらわらと従って、生徒が思い思いの方へ移動する。
リョウは魔法が得意チームの方へ。
カグラとレーツェルは対抗チームへ。
しかし、大半数が自信無いチームだった。シュミレーションチームは6人。魔法得意チームは、10人。対抗チームに至っては2人。
「……これで対抗って、ある意味無謀に近いよ」
「仕方がないだろう。現状で魔法を易々と操れる者は限られる。問題はどう組み分けしてリーダーを決め、統率出来るかだな」
レーツェルが渋面を作りながら呟いた言葉に、カグラは冷静に分析して言う。
「それじゃ、シュミレーションチームは戦略の策を幾つか考えて、自信の無いチームはその中で更に、属性別れてくれ。魔法得意チームも同じにしといて~」
ヴェルトの声に押されて、適当に声を掛け始める面々。
「火属性はこっちーねー」
「こっちは水ねー」
「風属性の人集まれ~」
「地属性はこちらだよー」
「特殊な人はここね」
ごちゃごちゃだった属性の生徒達が、一つのグループを形成していく。
それを見てから、ヴェルトはカグラとレーツェルの所へ駆け足で向かう。
カグラ達の前に立ち、正面から二人を見据える。
「お二人は、敬語とかで話して欲しいですか?」
そう提案する割には、嫌そうな雰囲気で問い掛けた。
「ここに居る間は、俺達も一生徒だ。普通にして構わない」
「だねぇ。下手に敬う事なんてされて面倒事になっても迷惑だから、普通でヨロシク!」
カグラの言葉にレーツェルも同意する。
小さく頷いてヴェルトは、態度を軟化させて笑って言う。
「それは、有り難い。では、普通にさせて貰う。戦闘の際、二人はどう行動する? 一応、俺がグループを円滑にするために統率するけど、反対は無いかな?」
「ああ、それでいいが、こっちは勝手にやらせて貰う」
「そだね~。そっちは、基本守りに徹しながら、迎撃していくのがベストなんじゃないかなって思うな。僕等は突っ込んで行くけど、それでも、正騎士候補の数人は取り零すだろうから、頑張って貰うしかないよー?」
「基本、危険なのは腕章をつけた正騎士候補だけだろうしな」
「取りあえず、そこを押さえて頑張って捕虜を守り切る事を考えつつ、采配していけばいいと思うよ? 無理に突っ込んで、巻き込まれて撃沈されるのも問題だしね」
カグラとレーツェルが的確なアドバイスをしながら、ヴェルトにそう告げていく。
こくこくと頭を上下に振りながら、ヴェルトが思慮深い瞳でカグラ達を見る。
「あー、それは確かにそうかもなぁ。じゃ、向こうの騎士達は二人に任せるよ」
交渉成立と言った感じでヴェルトはそう言って、シュミレーションチームの方へ移動して行った。