対抗戦を切り抜けろ! 2
「…………何よコレ」
シエン先生がそれはそれは不愉快&不満気な顔付きで、第一回寮対抗魔法戦の決着を見ていた。
そう、私が先生の顔を凝視出来る位にはヒマだった。
レーツェルの攪乱は的確で見事に隙を作らせて、リョウがそのチャンスを見逃さず、操った水で攻撃。
生徒全員に配られ着用したバンダナを上手い具合に叩き落としていった。
バンダナを取られたり、落とされたした者は敗者と言う具合だ。騎馬戦のアレンジだと思えば解るかな。
でもって、レーツェルの機動力が半端なくて、私を狙った攻撃を剣でぶった切りつつも相手の隙を誘うんだから凄い。
時折、ひょろっと飛んで来る魔法をカグラが銃撃で無効化させると言う感じで、私はぼけっとする時間が出来る。
あっという間に、私達のチームが勝ちとなったんだよね。
「仕方ないわね、次の対抗戦を開始するまで、皆、休憩を入れて良いわよ。」
シエンが声を上げて、生徒全員に促す。疲れた者はその場に座り込んだり、元気な者は悔しがったり、反省会をしている者もいた。
リョウもかなり頑張っていたので、私達の近場でへたり込んでいる。
「つまんないわね! やっぱりアレしか……」
ぼそぼそと呟きながら、シエンが足早に校庭の端っこに歩いて行く。
端の方で仕事をしている庭師こと理事長に、シエンが声を掛ける姿が見える。
少し何かを話した後に、シエンは懐から携帯端末を出して電話をしている様だった。
シエンの口の端が心なしか上がっている様に見える。企み顔な感じがするので、カグラとレーツェルを見遣ると二人も何か察したのか苦い顔をしていた。
眉間に少し皺を寄せて、レーツェルが憮然とした表情で口を開く。
「ねぇ、カグラ、僕等の勝ちの筈なんだけどさぁ……シエン先生にスルーされたよね?」
「ああ、シエンのあの笑顔、嫌な予感がする……」
「僕もそう思う……」
二人は電話を終えて懐に端末を仕舞い、スッキプをしそうな感じで戻って来るシエンを眺めていた。
「さあ~て、皆~~っ! 良い練習相手が決まったわよー」
生徒をざーっと眺めて、シエンがニヤリと笑う。
「なんと! 王立聖騎士団の見習い達との交流対抗戦をします!!」
生き生きとするシエンに反比例するかの様に、生徒達の顔が青くなっていく。
「「「「「「えええっ!?」」」」」」
大半はあんぐりと、口を開けて呆然となっている。当たり前だよね、いきなり何を言い出すんだこの先生は。
「……そうきたか」
カグラが自分のこめかみ付近を指先で、そっと押さえて呟いた。
「うわぁー。嫌な予感しかしないよ~~っ」
レーツェルが、カグラの横で頭を抱えて座り込む。
「皆、騎士団の皆が転移してくる場所を空けて貰うわよー。折角の上位魔法を拝めるんだから、良く見ていなさい!」
シエンがテキパキと指示して、校庭の一部を魔方陣の展開用に空けていく。
直径10メートル位の円形の空間が出来上がる。
生徒達がその周りを取り囲む様に立つ、間近で見る事の出来る上位魔法に皆興味津々だ。
シエンがすっと手を上げると、その手の前に魔法具が現れる。
160センチはある位の白銀の長い杖だ。持ち手の部分中央辺りから、2匹の大蛇の様な爪を持つ竜が互い違いに絡み合い、向かい合い杖の頭の部分で翼を広げている。
イメージで近いのを表すと、ヘルメスの杖ケーリュケイオンの様な感じだ。
向かい合う竜の天辺部分には、双四角錐反柱の虹色に光るクリスタルが輝いている。
シエンはその杖を右手で握り、少しだけ杖を持ち上げ、カツンと地面を突く。
「転移門開放」
ブオオンと、沢山の光の粒子が地面から湧き出す。
青い光が地面を走り、魔方陣を描いていく。
円形の青い光の柱が高くそびえ立つ。青い光の向こう側で、沢山の白い光の粒子があっちこっちで舞う。
白光の粒子が、多くの人の形を成していく。
科学的にも普通に転送出来るのだが、魔法で行うと何か幻想的だ。科学的に送る場合は、転送機が必要で、一度に運べる(送れる)人数とかに制限があるんだよね。魔法だとその制限が無く、純粋に行使する魔力の大きさで変わるんだって。
ちなみに、この星では科学の力を発揮できる場所が限られている。星に張り巡らされた魔法結界の為だ。
この星は魔法結界の関係で普通の重火器類が使えない。小型電子銃や、大型の亜空間電磁砲だろうが使えない。星の外からも攻撃出来ないと言う優れもの。
故に科学的な武器に頼らない、実力主義の騎士団が存在する訳なんだそうな。