初授業なのに、ピンクな雰囲気に翻弄される。
じっと固まったままの私と。
「…………………………………………………………………」
沈黙を守る王子もとい、カグラサマ。
ってか、元々無口っぽい人なんだけどね~。現在、輪を掛けて無言中です。
その沈黙が怖いです。
「…………………………………………………………………………………………」
冷静になればなるほど、デコちゅーとリングに接吻は変過ぎるという事に気付き、正直どうしていいのやら……。
一応、婚約者=私だが、今の私じゃないのに、ちゅーはないだろう。ちゅーは!
それとも、もう気付いているとか?
それはそれで、非常に困る様な…………気がする。
「………………あ、あの……」
そろ~~りと、顔を上げてカグラを見上げる。
「ん?」
小首を傾げて私を見下ろして、じっと見詰めて来る。
そんな姿も、ちょっとどきっとするので、心臓の負担になりそうだ。
「な、なんで、さっきの方法だったのでしょうか?」
ぎくしゃくしながら訊いたから、何故か微妙な敬語になってしまう。
「……何で敬語? まぁ、いい。それが手っ取り早いからだ」
一瞬眉根を寄せてカグラが渋い顔をしたけど、ちゃんと答えてくれる。
「手っ取り早いって……婚約者の人いるんでしょう? こういった行為ってイケナイんじゃ?」
「これ位では不誠実には当たらない。普通に挨拶位なものでしかないぞ?」
「う……確かに」
――――頬とか、額とか、手とかのキスは親愛の情や、挨拶に用いられるので不貞行為には当たらないよねぇ。
「まぁ、実際には魔力体力共に回復させる一番楽で、一回で済む方法があったんだが……それだとナツキが嫌だろう?」
「え、と、つかぬ事を訊きますが、それは、どんな方法でしょうか?」
私の問い掛けにカグラは苦笑しながら、ちょんと人差し指で私の唇を触る。
ほんの些細な仕種なのに、醸し出す雰囲気共々妙にエロい。
前世で恋愛スキルゼロに近いまま、今世に転生したもんだから、こう言った雰囲気慣れません。
固まるか凝視するかの二択です。
あ、間違えました、固まった上に凝視(視線逸らせない)って二段構えでした。(撃沈デス)
妖艶に微笑みながら、私の頬を両手で包むとそっと顔を近付けて来る。
「キスだよ。体力も魔力も一度に流せる」
唇に触れないちょっと手前で、強烈な爆弾を落としてくれるカグラに私は絶句。
「……………………ぷ、くくく、ふぅ……やはり面白いな」
笑いを堪えつつ、カグラがそう言った。
――――か、からかわれた!? からかわれているの? 私!?
カグラは私の頬を解放してすくっと立ち上がり、私の両腕を掴むと引き上げて立ち上がらせてから問うた。
「結界を解除するが、いいか?」
「え、あ……」
どう返して良いのかとか、顔が微妙に熱いのをどうしようかとか思うので言葉に詰まる。
ぽふん、と頭を叩かれる。
「え……?」
穏やかな笑顔で、カグラが私に優しく言った。
「落ち着け。サポートは俺とレーツェルに任せればいい」
その笑顔に魅了されながら、私はこくりと頷いた。