台風の目再び?
「やぁ、ナツキ」
とてつもなく爽やかな声が、リョウと雑談していた私に掛けられた。
「……っ」
言葉を失うリョウと私。
「レーツェル、朝から絡むな」
カグラが冷静にレーツェルに突っ込む。
「……ぇえと……?」
戸惑う私達を置いてきぼりにして、カグラはリョウの隣に優雅な所作で腰を下ろす。
「絡んでないよ。挨拶しただけ」
心外だとぼそりと呟きながら、レーツェルはカグラの隣に着席した。
「なぁ、ナツキの知り合い?」
困惑顔でリョウは私に問い掛けてくる。
「あのね、昨日ナンパ? されたって感じ?」
同じような顔して、私も返答するしかない。
いや、もう、アレはナンパって言っても強ち間違いじゃないよね。うん。
リョウは私に少し寄って、小声で話して来る。
「ナンパ……マジで?」
「マジで」
「大変やった?」
「それはもう」
思い出すだけでも、頭の痛い記憶だ。
そうこうしていると、フッと講堂内が暗くなる。
シエンや他の先生達だろうか、舞台前に集まっている。
その内の一人が舞台上に上がって、張りのある声を上げた。
「これより、入学式を取り行う。学院長より新入生にお言葉がある」
そう言うと、舞台から降りる。
少々ざわついていた講堂内が静まりかえり、カツカツとヒールの音がやけに響く。
堂々とした足取りで通路を進む、さらさらと音がしそうなストレートの白金の髪を持ち、強い意志をエメラルドの瞳に宿した美女に皆、息を呑んだ。
――――お母様。
魔法界の女帝でジュラーレ学院長……妙齢の美女で通しても可笑しくない程の年齢不詳の人。
二人の子持ちで、一人は成人しているんだから何と言うか……詐欺的よねぇ~~と思う。
どうも魔力が高い人は、老化が遅いらしい。
女王陛下も、シエンも、父様さえも若作りだ。
「……」
ちらりとリョウを見ると、視線は母様に釘付けだ。
まぁ、解らないでもないよね、普通の健康な男子はそんな反応になるよね、うん!
そ~~っとそのまま視線を、カグラとレーツェルに流して見ると……。
「…………」
母様を見詰める二人……レーツェルは無表情で、カグラは微妙に眉間に皺が寄っている様にも見えた。
――――まぁ、しょうがないよね。冗談でも本気か解らないが下手したら、未来の義理の母になる訳だし色々言いたい事だってあるよね。
自分に降りかかった災難で、カグラがキレた姿は思い浮かばないけどさ。
冷笑浮かべて、ネチネチ言いそうだってのはなんとなーく想像出来る。うーん、それはそれで怖いか。
舞台に上がる母様の頭上に大きなホロスクリーンが四方に出現し、凄艶に微笑む母様の顔を映し出した。