王立聖騎士団のナゾ
「あのなー、殺しはしないだろ、いくらなんでも。修練の追加メニューが増えるだけで」
苦笑しながらカグラが、レーツェルに突っ込みを入れる。
レーツェルは物凄く嫌そうに、カグラに言い放つ。
「地獄の追加メニューじゃないか! 騎士団の皆だって避けたがるアレだぞ!」
「騎士団?」
きょとんとする私に、二人は頷く。
「そう、僕らはここに入る前まで王立聖騎士団にいたんだ」
「でもって、俺の母は副騎士団長をしている」
「副騎士団長って……凄いですね」
何と言っていいのか分からず、感想を述べる。
「まぁ、凄いと言えば凄いよね、叔母様……じゃなくて、ニーナ副騎士団長は。あれで子持ちで宰相様の奥様だって見えないし、鬼の扱き魔だしね~」
「レーツェル、そんなこと言ってるとどこかでバレて、面倒臭い事になるから止めろ」
「どーせ、カグラは助けてはくれないよね~。僕は君の専属騎士なのにさー」
「母を止められるのは、父上だけだ」
「そうだね、宰相様と一緒の時は、鬼の副騎士団長の顔じゃなくて恋する乙女だもんな~」
「それ、本人の前で言ってみな」
「やぁだなぁ! 言えるはず無いよ。騎士団の倉庫整理を1ヶ月はさせられそうだし」
軽口を叩きながら、レーツェルはかなり過激な事を暴露する。
大丈夫なのか? ソレ一般人に広めて。
聞いては不味い事実を突き付けられたようで、背中が寒くなる。
少し心配そうに、私の顔を覗き込んで来るレーツェルに少なからずドキリとしてしまう。
「あれ? どしたの? 顔が青いよ?」
「い、いえ、大丈夫ですっ」
「お前が、いらん事を言うからだ。俺としては、さっきの話はあまりあちこちで話さないでもらえると有難い」
「はい。解りました」
「とは言え、騎士団では公然の秘密だから、実際にはそんな何か問題になるような事ではないんだけどな……」
カグラが不本意そうな、微妙な表情で私に告げる。
ああ! アレですね!
家族ネタは、触れられたくないのね!
うんうん、解る! 理解出来ます!
その気持ち!!
私も兄様の話は聞きたくないですから!
どっかで私の自慢と言うか、シスコン振りを発揮している話など耳に入れたくありませんもん。
正直、居たたまれないものね!
「ホントに君、知らないんだねー」
少しだけ驚いた表情で、レーツェルが私に向かって言った。
「ほぇ? 何がですか?」
「コイツのコト」
カグラを指差して、レーツェルは答える。
「この星の者なら、超有名人で、女は勿論目の色を変える位にしつこいし、男もお近付き出来れば色々と便宜を図って貰おうって言う、下心が無い奴を探すほうが難しいんだよ」
「そんなになんですか?」
「ああ、物凄い。知らなくても良いけど、知っておいた方がいいのかなぁ?」
うーんと、レーツェルが悩み始める。
「そうだな、知らないだけで論う馬鹿もいる」
カグラはなんて事無い風にさらっと言う。
「じゃ、教えとこっか。えっと、僕とカグラの祖父は王立聖騎士団総長で、カグラにとっては叔父、僕の父親だけど騎士団長で、カグラの母で僕の叔母様は副騎士団長なんだよ。家の家系はね、代々騎士の家系なんだ」
「俺の母は、俺の父が王太子であった頃、セリティア陛下の護衛をしていて、何を血迷ったのか恋人になって……宰相の座に父が就任する時に結婚した。身分違いとか言われてたが『彼を守れもしない女が隣に立つべきじゃない』と、周囲を一刀両断にして黙らせた逸話がある」
「そうそう。僕の父はその現場を目撃していて詳しく話を聞いたけど、剣でカタを付けるって騎士団の訓練場を使って1対50で勝ったんだってさ。宰相を狙っていた令嬢からは腕の立つ者を出し、叔母様に膝をつかせてみたいと思う子息や騎士も入り乱れての壮絶バトルで、負けた者を踏み付けて立つ鬼神の如き女神と異名さえ頂いた程の人なんだよねー。騎士団で記念にってその映像は保管されているらしいけど……ま、副騎士団長の地位にいてもおかしくない位に実力はある人なんだ」
レーツェルは笑いながら言うが、内容にはぶっちゃけ引いた。
どこの無双ですか。一騎当千ですか!?
勝ち抜きバトルでも、50人抜きは物凄過ぎる。
あまりの伝説っぷりに私は唖然とする。
それはもう、ぽかーんと。