生きるってどういうこと?
まさか、こんな感じで死ぬとは思わなかった。
恋愛して、彼氏作ってデートしてHだってしてみたいのに!
まさかのまさか、18歳で昇天・・・・・・。
しかも、自殺未遂したトモダチが心配で向かう最中に交通事故に遭うとは、あまりにも馬鹿じゃねえのジブン? と罵りたくもなる。
涙も出ないよ・・・・・・。
「ありゃ?泣かないの?キミ」
呆れるあたしを見て、美少年が不思議そうに覗き込んで来る。
ぎゃーーー! 顔が近い! 近すぎる!
心臓に悪い!
だが、嬉しい! 抱き付けたらもっと嬉しいかもしれん。
でもそんな積極的に出来てたら、今頃死んでないか。
女は結構薄情な生き物だもん。
恋愛か友情かって言ったら、恋愛取るでしょ?
それに、ラブラブな状態の子に態々欝なメール送るヤツもいないだろうしね。
大体は自然に疎遠になっていくものなんだよね。
美少年をじっと見てから、あたしは一応訊いてみる。
「死んでるだから、泣いても意味ないんでしょ? それとも生き返るわけ?」
「ムリ。生き返ったらゾンビだよ、ホラーダネ」
「ホラーって……」
「スプラッタな死に方だったからネ~」
「そんなに酷いんだ?」
「まぁまぁ酷いかな?見たイ?」
「見たくない!!」
にこやかに美少年が怖い事を言うので、即座に却下。
死に目なんて見たくない。
事故死した近所の子を目撃してるけど、あれはまだ綺麗な方だったのは分かる。
それでも、衝撃的だった。
今でも思い出せる位に。
だからこそ、自分の死体なんか見たくないし、その現場なんかみたら吐いちゃうよ、きっと。
「……ねぇ、君は天使なの?」
人間離れした超美少年で、自分の事を知っている。
あたしを黄泉へ導く者なのだろうか……。
「ま、そだね。人の概念で言えば、そう、死天使ってやつダネ」
「にしては、天使の羽とか、わっかとか無いね」
「頭の輪は、元々無いよ。羽はあるよ、見たイ?」
「え、見せてくれるの!?」
「うん、いいよ。減るもんじゃないからネ」
そう言うと美少年の背中に輝く翼が生える。
キラキラと光っててちょっと眩しい。
透き通る羽は、とても綺麗だ。
「すごい、きれー」
正直な感想を口にして拍手と賛辞を送ると、美少年天使は嬉しそうに笑った。
「アリガト。そう言って貰えると嬉しいネ」
死を司る天使なのに、こんなにも人懐こくていいのか? とちょっと思う。
一瞬で羽が消える。
「ねぇ、ここ三途の川とか、レテの川とか、黄泉の入り口とかないし。アヌビス神が迎えに来たりしないの?」
「あはは~。キミ例外みたいなものだから、あっちの世界に渡る前にココに来たんだヨ」
「例外?」
「ソ。例外だ。人が肉体と言う器を持って生まれて来るのは何でだと思ウ?」
「死ぬためでしょ?」
「端的に言えばそうだね、他にも理由あるの分かル?」
エメラルドグリーンの瞳は、何かを探るようにあたしをじっと見詰める。
プレッシャーを掛けられている感じがする。
回答で地獄行きとかあるのかな?
「ん~~~?学ぶため?とか?」
「一言で言うならそうなるネ」
「キミが今まで感じたコトを言ってみてヨ」
「え?」
「死ぬまでの過去を振り返ってみてどう感じタ?」
「過去……ぇっと」
思い返してみる。
思い出すと腸が煮えくり返りそうになる思い出たち。
罵詈雑言でも吐けばいいのか?延々と言えちゃうよ、きっと。
きっとこの美少年天使が言えっていうのとは違うのは分かる。
「思い出したくないくらい嫌な過去多いんだけど……」
「そうだね、知ってるよ。でも、キミは自分の視点だけではない事を学んだよね? 理不尽な世界、不公平な世界、生があり死がある世界、欲望のままに生きたらどうなるか、世界のバランスを取らない人間達の末路について考え答えを出したよネ?」
「う、ん……」
もしも、何か大きな出来事が起きた時、人はずっと便利さばかりを選んでいれば、きっと自分の首を絞めると高校生の弁論大会でそんなコトを言った事もある。
理不尽な世界を作り出すのは人間。
不公平な世界を作り出すのも人間。
大切なものと便利なものは違うのに気付かない、気付こうとしないのも人間。
生命のバランスは絶妙に出来ていて、ある意味完璧な状態と言える。
それを平気に壊すのも人間が多い。
寿命や事故死は、定められた運命かもしれないと思う。
命を奪われるのも、一つの運命なのは分かる。
それが欲望のせいだったりすれば、人の心や世界に波紋を投げ掛ける。
なんの為に生きるのか?
何故死んでいくのか?
生きるもの全てに問い掛けている。
他にも疑問に思っていた。
動物愛護だと声高に主張するのに、動物の命を食らって生きるのは変だと。
捕鯨反対と言って船を沈めるのは海を汚した上、鯨だけじゃなく他の海洋生物全てを危険に晒すんじゃないのかと。
言ってる事はある意味正論かもしれない。
だけど、凄く矛盾している。
命は大事だ!
掛け替えの無いものだと言うが、人も動物も植物も全て命あるものに違いは無い。
それなのに、何故か線引きをするのは変な気がした。
これだって命じゃん、あれだって命じゃん、それだってやっぱり命でしょ?
なのに、差別するのはおかしいとずっとずっと思っていた。
――――理由は簡単、全ては人のエゴの物差しで計られている。
誰も死なない世界。誰も傷付かない世界。生命を奪って生きる事をしない世界。
それは、素晴らしい世界かもしれない。
でも、それって生きてるの?
天国みたいな世界ってコトは、完結した世界ってコトじゃないの?
「うん、そうだね。人の世界は矛盾で、生と死に満ち溢れている。けれど、完璧な世界でもある。苦しみ、悲しみがあるからこそ、喜びもある。嬉しいコトが、どうして嬉しいと感じられるか分かル?」
頷いて美少年天使が言った。
言葉を発しなくても理解してくれるのをあたしはすんなりと受け入れていた。
それが当たり前だと何となく理解していたから。
頭の中を覗かれても、嫌な気はしない。無条件に受け入れられる存在だと分かっているから。
「辛い事があってそれを体験するから?」
「そう。その通りだ。感情が発露するのは体験があり、また肉体と言う器があるからで、魂の状態では意味を為さない。魂はエネルギーの一つであり、等しく同じものであり、全ての魂はひとつなんダ」
「ひとつ?」
「イメージ的には。沢山の魂達は、星達の様に無数にあり、銀河や大きな宇宙のを形成しているようなものなんダ」
「……」
「難しいかな?でも、コレが一番分かりやすいと思うんだケド」
「沢山の魂達で、一つの宇宙と言うものになっているってこと?」
「そうそう。肉体を持った時点で、感情や学びや色々な物事に左右され、人は現世を学ぶ。どんな悪い結果だとしてもネ」
「悪い結果で死んだら、悲しくない?怨んだりしちゃうでしょ?」
「キミは怨んでいる?」
覗き込む様に美少年天使に問われる。
「よくわからない」
怨んだって、悲しんだって、憎んだって、何も変わらない。
むしろ自分が強くあろうと出来なかったのが悪いとも思う。
心が強ければ、夢だって掴めたかもしれない。
弱い心のままの自分を選択したのは、他でもないあたし自身だ。
だから、わからない。
何が正しいのかなんて、知らない。
「正解なんかないんだヨ」
「え?」
「怨む生き方を選択したのは自分自身。魂の時、ヒトはある程度未来予想図を描いて生まれてくる。本筋は一本だけど、多くの選択の中で選び、その結果を掴んでしまう。それだけなんだヨ」
「ある程度未来予想図ってどんなの?」
「例えば、生まれる所は何人家族で、試練は自分が病気になって生命の大切さを伝えたり、精一杯生きていくためだったりとかネ」
「あたしも、こういう風に死ぬって計画して生まれてきたって事なの?」
「一応はそうなんだけど、目的と相当変わっちゃっててね~。だからキミは、今ココにいるワケ」
「どーゆーこと?」
「ぶっちゃけて言っちゃうと、本当は死ななくて良かったんだけど。あの状態で生き長らえるのは可愛そうだな~って思ってネ」
「そ、それは……もしや」
「うん、ぼくの一存で連れて来ちゃった!テヘ☆」
ニコっと笑って、爆弾宣言をする美少年天使をあたしは呆然と見詰めた。