無理矢理に首を突っ込むのはハタ迷惑です。
「あ~あ~、王子が来ちゃった」
心底嫌そうにシエンが言った。
「王子はヤメロと言っているだろう」
同じ様にカグラもまた心底嫌そうにシエンに言う。
「カグラ、部屋で待っていてくれと言ったのに何故来たんだ?」
レーツェルは、カグラの許へ近寄った。
前にも聞いたやり取りをする二人を、あっさり無視して会話をぶった切る勇者がここにいた。
「グラニットを失脚させるのに好都合なネタを横取りされるのが解っていて、どうして俺が待たなくてはいけないんだ?」
にやりと笑うカグラ。
「根に持ってるわね~、ホント」
「だな」
シエンの言葉に、頷くレーツェル。
「カグラが来ちゃったし、寮監室で尋問する必要が無くなってしまったわね」
シエンは面倒臭そうに、ぼやきながら視線をお祖父様へと移し。
「どうしますか?」
と、問い掛けた。
「では、僭越ながら本館の会議室ではどうでしょう?」
お祖父様の口調は穏やかなのに、何故か冷っとした。
「じゃ、アタシ達は先に行くわね」
視線をパームへと戻し、命令口調でシエンは告げる。
「貴方は本館へ行ってもらいます。拒否権はありません。現時点を持って、パーム・グラニットには違法行為の重要参考人として来て貰います」
シエンの言葉に、パームは目を見開き愕然としていた。
「……なぜ?」
「貴方の入学が不正の可能性があります。先ほどの行動などに於いて、当学院に相応しく無く、よって今回の件も合わせて尋問します。抵抗されるのならしても構いませんが、その時は強制的に隔離転送をします。どうしますか?」
「…………っ」
真っ青な顔になって、パームは震えて突っ立っていた。
「さぁ、来なさい」
シエンはパームの右腕を掴み、容赦なく連れて行く。
その姿を私は、呆然と見詰めていた。
「お嬢さん、儂も彼に先ほどの詳細を教えないといけないので失礼します。変な事に巻き込んでしまって申し訳ない。嫌わずにこの庭に通って来てくれると嬉しい」
お祖父様が困った様にお詫びを言う。その姿は何故か捨てられた小動物を思わせる。
私が来ないと確実にいじけるね、これは。
傍目には、ただのそこら(?)の老人と学生の交流だとしても……お祖父様にとっては会う機会が少なかった大事な孫娘(今は中性体だが)との交流だ。
そんなのを奪った日には、壮絶にいじけて拗ねまくるだろう。
お祖父様が欲しい言葉はただ一つ。
「はい、勿論です。喜んでお庭の方を散策させて貰いますね」
笑顔で返事を返すと、お祖父様は嬉しそうに笑って。
「有難う。ゆっくりして行って下さいね」
ぺこりと軽く会釈をして、シエンが消えて行った方へと進んでいく。
凄まじい茶番劇だが、誰かが見ているとも限らないのでフリは必要だ。
この目の前にいる二人にも言えることだけどね。
バレてるのかいないのか、見当がつかない。
シエンは論外だろう。彼は『見える』人なのだから隠しても意味はない。
私に一切触れなかったのは、その様にするのだと言うポーズでもあるのが理解出来た。
さてこの窮地をどう切り抜けようかな……。