大人達の会議 another side2
庭園を後にした4人は、セリティアの自室にいた。
向かい合わせのソファーに、セリティアとテンリが座り、反対側にユーナとレオンが座っていた。
「セリ、頼みがあるの」
「お姉様?」
真剣な表情で言うユーナをセリティアは見詰める。
「本当はもっと後の事だと思ってたわ。でも、今回の事で決めておかなきゃいけないって思ったの。こればかりは、私の一存でどうこう出来ないから……」
「私が、お姉様のお願いを無下に出来るとお思いですか?」
「思っていないわ。だからこそ、出来る事なら避けたかったの。巻き込んでしまってごめんね」
苦渋満ちた表情を浮かべるユーナの肩にそっとレオンが触れる。
レオンは、小さく頷いてユーナの言いたい言葉を紡いでいく。
「これは、アマハ家の、俺とユーナ、そして義父の総意でもある。ラグナリア星皇家の後ろ盾をお願いしたい。ナツキが成人するまでか、自身の力を扱える様になるまで、その御名で守って欲しい」
深く頭を下げるレオンに、驚いた様に目を丸くするセリティア。
そして、その意図が何を示すのか理解し、テンリはふうっと息を吐きだした。
「それは、我が息子に盾になって欲しいという事ですか」
「私の名前では、下手をすればあの子は狙われる。今回の様に……。他にも魔法の無い場所へと行かせる選択肢もあったけれど、あの子の持つ力では、それが解決策にならないの。力が安定し、使いこなせるまでどの位の時間が掛かるかは解らない。最終的に魔法学院へ入れるならば、ラグナリア星皇家の御名は抑止力になるわ。あの子の安全はそれなりに確保出来る」
苦しそうに瞼を伏せて、ユーナが言葉を吐き出していく。
「そうでしょうね。この星に居る殆どの者なら、ラグナリア星皇家に対し愚かな真似はしないでしょうからね。ですが、レオン。いいんですか?こちらとしては、正直、魔法界の女帝の名をラグナリア星皇家に引き入れる事は願ってもない事ですよ?この星に不可欠な結界魔法を施す力を持つ者を本来ならば、それなりの報酬を出してお願いする所を確実に足許見られて値切られますよ?」
にやりと口の端に微笑を乗せて、テンリはレオンとユーナに告げる。
足許を見るけど良いのか? と言外に言っているのだ。
そもそも、財政やらをも統括する宰相閣下だから自分が指示するんだと、ぺらっと白状している事に他ならない。
横目で、セリティアがテンリをちらっと見るが平然としていた。
「あの子の安全が確保されるのなら、願ってもない事よ!」
顔を上げてユーナが、きっぱりと言い放った。
「良いでしょう。今現在、カグラには決まった婚約者はいません。カグラは冷めてますから、いずれ自分をターゲットにしてくる女性達を避ける為にも間違いなく、この話に一枚噛んでくれるでしょう。姉上がご結婚されてお子を授かるまでは、俺がラグナリア星皇家の第1皇位継承者で、カグラは第2皇位継承者です。宰相を続ける場合は辞退する事になりますから、カグラが自動的に皇位に一番近い者になり、ラグナリア星皇家を継ぐ者になる。まぁ、その場合、ナツキ様は皇太子妃候補か、王妃候補になりますけどね。それで、良ければ構いませんよ」
「それと、ナツキの力が安定し、二人の内どちらかがその関係を破棄したいと願ったら、私達は速やかにそれを受け入れます。無理強いはしたくないもの……」
ユーナがゆっくりと言った。
大人の打算だらけの事だけど、それでも、本人達の気持ちが大事だとユーナは思った。
「ねぇ、もしも、二人が本当に恋仲になったらどうするの?」
ふと、気がついたようにセリティアが言う。
「それはそれで、構いませんよ。俺はね」
ふふふ……と、企み顔で笑うテンリをじと目見るレオンが、口を開いた。
「ナツキを嫁には行かせないぞ、テンリ!」
「レオン、あんまり娘にベタベタしてるといつかウザイって言われて嫌われるぞ」
娘が可愛いくて仕方のないレオンを知っていて、テンリは面白がってからかう。
「うぐっ……」
テンリは、自分の所業に多少心当たりがあるのか口篭もる。
「ま、家と縁組になって一番嬉しがるのは姉上でしょうけどね」
「そうよね!大っぴらにお姉様って言っても誰にも文句は言われなくなるわね!なんて素晴らしいの!お姉様、是非ともこのお話が進めましょう!」
セリティアは暴走しかかるが、テンリがさらっと言って宥める。
「こればかりは、二人の気持ち次第ですからね。大人はお膳立てして見守ってましょうか。周りがどうのこうの言うと上手くいくものもダメになりますからね」
にっこりと笑うテンリは、宰相閣下だけあって策士であった。