大人達の会議 another side1
本来ならば、月の光が落ちる庭園は綺麗なものだったが、今現在は異様な空間と化していた。
パチパチと、電気の様なものが庭園内の上やら下やら、空間のあちこちで光って弾けている。
「……どうしてくれようかしら」
怒りを隠そうとせず、セリティア女王陛下はこの事態を招いた者を睥睨した。
拘束用の重力魔法を掛けたカグラは、もう庭園には居ない。
しかし、眼下でじたばた地面に這い蹲って固定された愚か者はそのままだ。
この魔法を解く事は容易いが、セリティアはそれをしなかった。
この場で、この者を裁く事も出来るがそれをしたら面倒になる事も解っていたから、イライラする気持ちを抑えて来る者を待った。
「お、お助け下さい、陛下!」
「……喋るな下衆が」
媚を売る様に言われ、ぷちっとセリティアの中で何かが数本キレた。
「私を更に怒らせたいらしいな」
思いの丈を乗せ、ガッ!ハイヒールの踵で、その者の手の甲を思いっ切り踏ん付けてやる。
「ぐあ!!」
悲鳴を上げてジタバタともがく。
「じっとしていなければ、お前の顔が焼ける事になるぞ」
セリティアは、そいつの顔面ぎりぎりの所に炎を出して、置くと多少なりとも溜飲が下がった。
それでも、怒りは収まる訳がない。
「幼い子を手にかけ様として、自分は助かろうなどと思うな!」
バッサリ一刀両断にする様に、セリティアは宣告する。
「それに関しては、同意見です」
スタスタスタと、セリティアの側に寄って来た。
セリティア似の面差しを持つ男性が口にする。
彼の名は、テンリ・ジーノ・ラグナ。
公爵家の現当主で、宰相閣下で、カグラの父親でもあった。
髪は銀茶色、紫の瞳、冷たい表情が似合う美貌で、身長はヒールを履いているセリティアよりも高く、190センチはあった。
二人は双子で、身長が同じ位の時まではその気になれば入れ替えも可能なほど似ていた。
今は、女性、男性の身体つきなどで全然違う風に見えるが、顔のパーツを良く見ると似ているのが解る。
性格は、セリティアが炎の様な気性を持ち、テンリは氷の様な気性を持っていて、実際このお蔭で政務のバランスが上手く取れていた。
「テンリ。遅いわよ!」
「すみません、姉上。近衛に対して庭園一帯の封鎖の通達指示と、ユーナ様とレオン様に庭園の状況を見て貰うために色々とやっていたので」
「それで、どうなの?」
「はっきり言って、最低1ヶ月は庭園を封鎖しなければならないかと。俺も見て来ましたが、空間はかなり断絶していたり、結界もまた壊滅状態ですね。一つマシだと思えるのは、被害が庭園だけに留まっている事くらいですかね」
「そこまで酷いのね?」
「ええ」
「本当に、どうしてくれようかしら、この愚か者を……」
冷や汗だか脂汗だか、解らないものを顔から流しながらブルブルと震える罪人を睨みながら、セリティアは呟く。
そんな彼女を意を汲みつつも、テンリはさらりと告げる。
「取り合えず、地下牢へと転送して置きましょう。到着されたお二方が暴走されるとも限りませんし」
「ええ、やっといて」
セリティアの言葉に頷き、テンリはさっと手を振る。
すると、一瞬の内に罪人は消え去る。
その直後、セリティアとテンリの眼前の方から歩いてくる者が二人いた。
「ユーナ姉様、レオン……」
「セリ!」
セリティアを見とめると、ユーナが小走りに二人の所へと行く。
少し遅れて、レオンが続く。
「セリ、ナツキは?」
「カグラが治療室へ運んだわ」
「なら、大丈夫ね?」
「ええ」
「ごめんね、セリにも迷惑を掛けてしまったわ」
「私の方こそ、もっと注意しておけばこんな事態にならなかったのに……。ごめんなさい、お姉様」
セリティアは、ユーナに頭を下げる。
「セリ、女王がそう簡単に頭を下げてはダメよ」
俯いたまま首を横に振り、セリティアは答える。
「ユーナ様、姉上は珍しく自分の失態を謝罪しておりますから、気持ちを汲んで上げて下さい」
苦笑しつつ、テンリはユーナに言うと。
「解りました。その謝罪受け取ります。だから、もう顔を上げて……ね?」
「お姉様……」
力なく顔を上げて、セリティアはユーナを見た。
「大丈夫よ、こんな日が来るかもしれないと予測はしていたから」
「ごめんなさい、お姉様」
セリティアはユーナに抱き付く。
ユーナはセリティアを落ち着かせる様に、その背をぽんぽんと叩く。
それを横目で見つつ、テンリはレオンに向き直る。
「それで、レオン様、庭園一帯の状態はどうでしたか?」
「多少時間が掛かるとは思うが、空間も結界も直せる」
「では、修復に必要な魔術師の要請を頼めますか?」
「お義父さんに頼んでみます」
「魔法学院の理事長にですか、でしたら心強いですね」
「こんな事になった責任は、こっちにもありますから出来るだけ対応させてもらいます」
「それでは、一旦、ここから引き上げましょう。庭園封鎖の用意をさせてありますから」
「ええ、そうしましょう」
レオンは頷いて答えた。