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ぼっちなサレ芋は職場に住みたい ~社畜上司に憧れて、働いて働いて働いて、働き続けていたら脱芋した話~  作者: 万丸うさこ


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第8話 尻以外と会話ができるってことだじゅ⁈

「……なるほど。偶然、か」


 グラントは小さく呟き、翡翠色の目元を和らげた。

 吐く息で凍った水色のまつ毛をそっと擦り、グラントはもう一度小さくうなずいた。


「君は謙虚にも偶然を強調するが、それは違う」


「……ッ!」


(バレたじゅ⁈)


「きっとそれは、どんなにきつい訓練でも積極的に参加し、仕事に対して真摯な気持ちで参加する君の真面目さが告げた直観だろう。そして討伐前には必ず一番最初に詰所にきて資料を読み込む、いつもの君の慎重さの賜物だ」


(バレてないじゅ!)


 違うと否定された時に痛いほどぎゅんと引き()れた心臓が、今度は弛緩してゆっくりと全身へ血液を送り出す。

 青から赤へと目まぐるしく変わる顔色のレインへ、寒さのせいで青ざめたグラントが言葉を続けた。


「私は事務方から回ってきた資料だけを読み、スライムの大量発生という言葉だけで安易に現場の危険度を設定してしまった。その原因――スライムとは別種の魔物の存在と、敵性勢力からの逃走という可能性を見落とすなど、あってはならないことだ」


(ま、真面目だじゅ……)と、レインは茶色の目を見開いて小刻みに首を横に振った。


「隊長のせいではないと思うで、すじ、ゅ」


 スライムの大量発生は毎月恒例とまでは言わないけれど、それなりによくある事象である。

 レインはどうにか討伐に参加したくて言い訳を見つけるために資料を眺めていたから気づけたが、もしや別の原因があるのかも? などと思うほうが難しい。


「いや、私の責任だ。異常に気づき、わざわざ休みなのに駆けつけてくれた君の機転と行動力がなければ、我々の命はなかったかもしれない。改めて感謝する」


 胸に手を当て、グラントが深く頭を下げた。

 いつの間にかブラッド・アリゲーターにとどめを刺し終えて会話を聞いていた同僚たちも、レインへと頭を下げている。


 もしかしたら全滅していたかもしれないのだ。安堵と感謝で全員涙に潤んだ目をレインへ向けていた。

 レインは慌てて手を横に振った。


「だ、な、ややや止めてほしいじゅ! 皆も頭を上げるじゅ! 私は、ただ、その……!」


(ただ寂しかっただけじゅ! 己の尻と会話するくらい孤独が極まっていて誰かと一緒にいたかっただけだじゅ! とは絶対に言えないじゅ!)


 内心で冷や汗をかきながら、レインはあることに気がついてハッと目を見開いた。


(ま……待つじゅ? 今、隊長は〝感謝する〟って言ったじゅ。これって隊長が納得できる理由を、私がちゃんと持ってここに来たからじゃないかじゅ? しかもそれで皆の役に立ったじゅ。つまり……)


 レインの脳内で、ドカンと大きく何かが爆発する。

 それは下水の油膜に炎が引火して怒った爆発よりも大きく、明るく、広範囲にレインの脳内を照らし出す。


(そういう〝正当な理由〟さえあれば、休みの日だろうが命令違反をしてようが、仕事場に来ても大丈夫ってことじゅ? てことはじゅ、望まぬ休日に、か、会話……尻以外と会話が! 会話ができるってことだじゅ……⁈)


 レインは背骨に走った痺れに身を震わせ、頭の中で光り輝く希望に胸を弾ませた。


(しかもこうやって感謝してもらえる可能性すらあるじゅ)


 これまでレインが休暇や帰宅後の寂しさを紛らわせるには、訓練に参加するか、詰所の席に座って特に読まなくてもいい書類を隅から隅まで暗記する勢いで丁寧に読み込んで時間を潰すしかなかった。


 朝も日が昇る前から起きて詰所へ行って掃除をしつつ、夜番の同僚が帰宅するのを眺め、昼番の同僚たちがやってくるのを今か今かとそわそわしながら待つしかなかった。

 おかげで詰所の床や壁は顔が映りそうなくらいピカピカに綺麗である。


 そうやってどうにか人のいる現場にいようとして「働きすぎだ」とグラントに止められたのは、レインのそういうやり方が消極的で、不器用すぎたからだ。


 受け身では駄目なのだ。

 人のいるところにいたいのならば、レインがいて良かったと思われる理由が必要だということだ。


 たとえば今日のように。

〝レインがいて助かった〟〝この状況にはレインが必要だった〟という、大義名分を用意するのだ。


(これだじゅ! そうやって理由をつければ、堂々と現場に居座れるじゅ。そしたらずうぅぅぅぅっと、ずうぅぅぅぅっと職場の皆と一緒にいられるじゅ!)


 普段はうすらぼんやりしているレインの茶色の瞳が、戦闘中のブラッド・アリゲーターように爛々と光る。


(考えるじゅ、レイン! 考えるんだじゅ! どうすれば〝正当な理由〟を毎回得られるんだじゅ⁈)


 レインの頭の中でさまざまな数式が浮かんでは消える。

 故郷の教会で授業をしてくれた教師が黒板に描いてくれた数式だ。内容はさっぱり覚えていない。

 どちらかというまでもなく、レインは座学ではなく実技で合格点をもぎ取った脳筋である。


 謎に脳内に浮かんだ時計の針がぐるりと一周するのに合わせて、レインは視線を周囲へぐるりと巡らせた。


 スターダストが舞う下水道……崩れ落ちて土の山になった土壁の中で盛り上がる霜柱……天井の氷柱を払う新人兵士たち……滑って転ぶ第二小隊の隊員……氷漬けになったブラッド・アリゲーターの首を丁寧に運ぶ第四小隊の隊員……凍ったスライムの山……部下たちへ丁寧に指示を出すグラントの真面目な声……――


(この点と点、全て、繋がったじゅ!)


 カッ! と目を見開いて、レインは手のひらを拳で叩いた。


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