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ぼっちなサレ芋は職場に住みたい ~社畜上司に憧れて、働いて働いて働いて、働き続けていたら脱芋した話~  作者: 万丸うさこ


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第4話 先に逝って待ってればいいじゅ

 下水と同じ濁った灰色の体を揺らしてまた壁を登り始めたスライムへ、レインは腰から抜いた魔導杖を向けた。


「お前もかわいそうなスラ芋だじゅ。仲間に捨てられてさぞ寂しいじゅ……?」


 レインから漏れ出た冷気混じりの魔力に当てられて、スライムがぷるんと震えて動きを止める。


 スライムには焦りが見えた。

 顔と尻の区別がつかない形状なのに、眉尻を下げて冷や汗をかくデフォルメされたスライムの幻覚が見えるかのようだ。


 少しだけ、「スライモじゃなくてスライムすらー」と言いたそうな顔にも見えた。


「お前が捨てられた理由はわかっているじゅ。逃げてる時に足手まといになったんだじゅ?」


 調査に潜り込むために、レインはまず忘れ物を取りにきたふりをして隊の詰所に寄った。


 この調査はレインが所属する第四小隊に急遽割り振られた仕事だ。

 そのため第四小隊の隊員たちの大半は詰所にいなかったが、数人の待機員たちは帰宅して有給休暇に突入したはずのレインが来たことにいぶかしげな顔をしていた。

 が、レインは素知らぬふりで自分の席に行って積み上がった資料を選別した。


 その時、目当ての下水道の地図とは別に、王都の警邏隊からの報告書が目に入った。

 定期的に王立魔導討伐軍に共有される、王都民からの苦情や要望がまとめられているものだ。


 魔物は魔力溜まりから発生する。

 王都とはいえ魔力溜まりはちらほらあって、魔物が発生することもある。弱い魔物は警邏隊でも対応できるが、まれに討伐軍でなければ倒せない魔物も発生した。

 だから王都内の魔物の目撃情報や噂などは、警邏隊から討伐軍に共有されているのだった。


 王都民からの細々とした訴えが載ったその書類は、「一応討伐軍にお伝えしときますねー」というやる気のなさが紙面からあふれていた。

 それでも一応〝下水〟や〝側溝〟〝スライム〟などの単語が並んでいたので、下水道の地図を記憶するついでに流し読む。


 それで気づいた。


「お前たちスライムは、別の魔物に住処を追われて逃げてるじゅ?」


 人間の言葉がわかるわけでもなかろうに、レインの言葉にスライムが濁った体をピャッとのけ反らした。


「普段は奥にいるスライムたちもこぞって逃げ出したんだじゅ? だから大量発生したみたいに見えたんだじゅ」


 でもかわいそうに。


 スライムは群れる魔物だが、仲間意識があって群れているわけではない。魔物最弱王決定戦では常に上位にランクインするスライムは、生存戦略として群れている。

 当然、生存を脅かす逃げ足の遅い個体は置いてきぼりだ。


「寂しいじゅ? つらいじゅ……? 私もそうだからわかるじゅ。でも安心するんだじゅ。先に逝って待ってればいいじゅ。待っていれば仲間もやってくるじゅ。私が送ってあげるじゅ……」


 魔導杖に魔力を込めて、レインは微笑んだ。

 暗闇の中で胸につけたライトが顔に当たり、その笑顔はどう控えめに見ても、魔王だった。





 一方その頃、緊急調査依頼に指定されたポイントに降りたグラントは、予想外の出来事に頭を抱えていた。

 もちろん部下を率いる身で顔に出すことなどしないが、内心では焦りで気持ちが歪んでいく。


「まさか脅威度A級のブラッド・アリゲーターが王都の下水道に群れているとは……」


 グラントの視線の先には、隊員たちのヘッドライトを反射して、油膜の張った汚水に無数に浮かぶ赤い光があった。


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