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ぼっちなサレ芋は職場に住みたい ~社畜上司に憧れて、働いて働いて働いて、働き続けていたら脱芋した話~  作者: 万丸うさこ


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第3話 私たち、結婚するって約束したじゅ……?

 レインは小さな村の狩人の娘として生まれた。

 田舎の娘らしく平凡な茶色い目と、落ち着き過ぎた色合いの金髪の、ごくごく平凡な子供だった。


 けれども平凡ではないところも二つあって、ひとつは魔法の力があることだ。


 全国の五歳児が必ず受けるべき、教会の魔力調査というものがある。

 戸籍登録も兼ねたそれで発覚したのは、攻撃型の氷魔法を使えるレインの才能だった。


 魔力自体は万人が持つが、それを魔法の形で出力できる人間は少ない。

 レインの村のような田舎では、ほとんど数十年に一人か二人……というほどめずらしい。


 そのためレインは六歳の頃から、魔法の使い方から魔法使いとして活躍するための一般教養や、貴族社会の教育を教わることとなる。

 わざわざそのために村の教会へ王都から派遣されて教師がやってくるのだから、当然無償ではない。


 貸与型魔導勉学金と呼ばれる制度で、将来は指定の機関で一定期間勤めれば学びのための費用の返還は全額免除されるというものだ。

 レインの場合は王立魔導討伐軍か、教会の聖騎士団のどちらかに所属して研鑽を積みながら、魔物退治に十年間従事する決まりだった。


 一見借金に見えるが、平民にとってこれは出世街道爆走確約のちょっとしたスパイスに過ぎない。

 普通は田舎の平民が貴族に交じって、王都や大きな街で働くための教養を得る機会などないに等しいのだ。


 年齢一桁にして魔法使いとして安定した職に就くことが決定したレインは、借金持ちと避けられるどころか、村では羨望の眼差しを浴びていた。


 善は急げとばかりに近隣の魔物退治を請け負って、レインに修行を積ませるために腐心したのは両親である。

 討伐軍と聖騎士団、レインがどちらを選んでもやっていけるよう幼い頃から実戦で鍛えてくれた。

実力で負けないように、後悔しないように、平民だからこの程度の実力だなんて見下されないようにと願いを込めて。


 そのかいあって、教会の神父からは同世代の魔法使いと比べても段違いに強い、成績優秀と太鼓判を押されることになる。

 レインは、「まるでアイス・トロールのようだじゅ」とご近所では評判の少女だったのだ。


 レインのもうひとつの〝平凡ではないところ〟とは、同じように魔法の才能がある同い年の男の子が幼馴染みだということだ。

 四軒隣の芋農家の息子であるダリオ・タスカーは、こんな田舎の寒村にいるのが間違いなのではと思うほど、キラキラした容姿の男の子だった。


 レインのように金髪というには首を傾げたくなるような煤けたような色の金ではなく、朝日を受けて黄金色に輝く麦の穂のような金髪と、真夏の空のような青い目をした天使のような容姿の子だ。


 レインが攻撃型の魔法使いなら、ダリオは付与型の治癒魔法使いである。

 ダリオもレインと同じく教会で教師から学んだのち、王都の厚生魔法省薬学研究局でポーションの研究開発の仕事に就くことになっていた。


 そしてレインとダリオの双方とも教師から魔法の使い方の基礎について合格点をもらった、十六歳の秋。


 神父と教師から所属先の希望を聞かれ、レインは教会所属の聖騎士団と答えた。

 どんな辺境の村にも教会はある。聖騎士団に所属すれば勤務地の融通が利く、というのがとても魅力的だったからだ。


 レインはこの村を愛していたし、この地方出身であることに誇りも持っていた。

 この村を管理する伯爵家の領地には立派な教会があって、もしもレインが聖騎士団に入団するというのなら、そこが勤務地となるよう神父も上層部に掛け合うと言っていた。


 だからレインは九割九分九厘、聖騎士団を選ぶつもりだったのだ。

 ダリオに「一緒に王都に行くじゅ」と言われるまでは。


「どうせ俺たち結婚するんだじゅ。俺が王都の厚生魔法省に就職するなら、レインもついてくるのが当然だじゅ。王都が本拠地の王立魔導討伐軍にするじゅ」


「け、結婚? そんなの聞いてないじゅ」


 目を点にして聞き返すレインに、ダリオも不思議そうな顔をして瞬きをした。


「だって俺たち幼馴染みだじゅ。同じ魔法使いだけど、お前は就職先に王都が選べるじゅ。なら二人で王都に行くのが当たり前だじゅ?」


「でも、結婚だじゅ……?」


「年頃の男女が二人でいて結婚しないって、不自然だじゅ? なんだじゅ、俺と結婚するの嫌なんだじゅ?」


「嫌じゃないじゅ。けど……」


 レインは村の皆のことも好きだったし、ダリオ以外の同い年の友人たちもいた。


 しかし振り返ってみれば、やはり魔法使いだということで一歩引かれていたように思う。


魔物を倒す力を持ったレインのことが怖いのだとダリオが言っていたけれど、確かにそうなのかもしれない。


 悪意のない疎外感にこちらも気後れするなか、同じような悩みを打ち明け合い、魔法について話し合えるダリオのことは大事に思っていた。


 だから嫌ではない。

 嫌ではないのだけれど、お付き合いや結婚といった視点でダリオを見たことはなかったのだ。


「俺の魔法だと、王都の厚生魔法省に勤めるしかないんだじゅ。ならお前が俺に合わせて王都に来るのがスジだじゅ」


「だ、だじゅ? そういうものだじゅ?」


「なんだじゅ、やっぱり嫌なんだじゅ? 俺の両親もお前でいいって言ってるじゅ。お前の親だって、知らない男より俺が相手のほうが絶対良いって言うじゅ」


「い、嫌じゃないじゅ。けど、ちょっとびっくりしたんだじゅ……ごめんだじゅ……」


 そして自分の将来のことなのに、話し合いではなくてダリオの言葉の中ですでに決まっていたことが、少しだけ引っかかったのだ。


「お前は人見知りじゅ。俺がいなきゃ、新しい場所で一人なんて絶対馴染めないじゅ」


 だけどダリオの言う通り、人見知りのレインは新天地のことを考えると確かに不安だった。

 ダリオのようにぐいぐい引っ張ってくれる人がレインには合っていると、彼の両親にも諭された。


 第三者が客観的に見てそう思うのなら、きっとレインにはダリオについていくのが正しいのだろう。

 だからレインは就職先を王都の王立魔導討伐軍にすると決めたのだ。


 そして王都では厚生魔法省が妻帯者用の一軒家を貸してくれたので、少し気が早いけれど、一緒に住むことになったのである。


 レインは、ダリオが一緒なら頑張れると思っていた。


 そんな経緯で王都にやってきて四苦八苦しながら仕事を始めて三ヶ月後、


「あのさ、お前みたいな田舎の芋臭さが抜けない女と一緒にいると、俺までダサく見られるから嫌なんだよね。別れてくんない?」


 なんて、しっしと野良犬を追い払うようにダリオに家を追い払われるまでは。


「つうか、これから彼女とデートだからさ。その彼女と一緒に住む約束もしてるし、お前はさっさと新しい家を見つけて出てってくれ」


「――じゅ?」


「え?」


「じゅ?」


「じゅ? じゃねえんだ、よ。これだから田舎の女は。だじゅ弁とか田舎モン丸出しだ、ゼ。よく恥ずかしくないよな、お前。新しい彼女が王都生まれ王都育ちの洗練されたお嬢様だから、お前のその芋臭さが際立つわー。お前ってマジ芋」


「で、でも、私たち、結婚するって約束したじゅ……?」


「それだ、じ、ゼ……なんで俺、お前なんかが良いと思ってたんだろう。ないない。早めに目が覚めて良かったー!」


 レインの身の回りの荷物と一緒にゴミ袋を放り投げるようにドアから放り出されて、レインはようやく悟った。


 捨てられた、と。


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