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ぼっちなサレ芋は職場に住みたい ~社畜上司に憧れて、働いて働いて働いて、働き続けていたら脱芋した話~  作者: 万丸うさこ


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第2話 お前ってマジスラ芋って言われたじゅ?

 レインはこっそりと王都の下水道に降り立った。


 無断で仕事場に潜入するのは初めてのことだ。

 自由に参加できる訓練とは違う。休暇を命じられたレインにとって、この行為は命令違反である。


 レインはどうにかして、一分一秒でも長く、知っている人のいる場所にいたいだけで、任務の邪魔をしたいわけではない。

 ましてレインたちの仕事は主に戦闘。魔物との戦いでしくじれば部隊全滅もあり得る。


 レインのせいで部隊の皆に迷惑をかけないように、しっかりと準備した。


 下水道の地図はきちんと頭の中に叩き込んできたし、そのついでに無断で調査に忍び込むための大義名分も発見した。

 隊服の胸元とヘルメットには灯りの魔道具、腰には支給品の魔導杖、コンバットブーツにはしっかりとクリーム状の撥水ポーションと滑り止めポーションを塗ってきた。


 準備万端。先行する隊員たちとは別ポイントの側溝からの潜入である。


 下水道内にはツンと鼻を突く異臭が漂い、濁った水が流れていた。

 春となって空気が暖かい日もちらほらあったせいで、臭いは下水道内に濃く広がっている。


 刺激臭でシパシパする目が暗がりに慣れるのを待っていると、アーチ型の天井からぴちょんと雫が垂れてきた。


 その天井に続くレンガの壁を、群れからはぐれたスライムが一匹、よじよじと登っていく。

 レインは下水の流れに沿って続く点検員用の細い足場に立って、ヘッドライトに照らされて大慌てで逃げようとするスライムをじっと見つめた。


(お前も独り……きっと寂しいに違いないじゅ)


 普段は群れているスライムがたった一匹で暗い下水道の壁を這う姿に、レインはなぜか己を重ねてしまう。


「仲間はどうしたんだじゅ。私みたいに家を追い出されたじゅ?」


 密やかに声をひそめてスライムに語りかける。

 小さな声でもアーチ状になった下水道では声は反響し、だじゅ……だじゅゅ……だじゅゅゅ……と謎生物の鳴き声のように鳴って奥へと伝わっていった。


(田舎者は側にいるだけで芋臭いって言われたじゅ? だじゅだじゅうるさいって言われたじゅ? それとも都会のスライムは腰がくびれてて垢ぬけてて柔らかさが段違いだって比較されたじゅ……?)


 下水よりもどんよりと濁ったレインの視線を受けて、スライムの逃走スピードが若干上がる。


「私は言われたじゅ。お前ってマジ芋って言われて捨てられたじゅ……。もしかしてお前も、お前ってマジスラ芋って言われたじゅ?」


 スライムが少しだけ動きを止め、ちらっと身をよじってレインを見てくる。

 マジスラ芋ってなんだスラ。と、答えたそうに見えなくもない。


「突然すぎて怒ることもできなかったじゅ」


 たった一匹で壁に張り付くスライムを再度じっくり眺めて、レインは約一年前の出来事を思い出す。


 寝耳に水の発言を、「じゅ?」と聞き返した日のことを。

 そして言い慣れていないイントネーションで「え?」と返ってきた日のことを。


 あの日、「じゅ?」とレインが首を傾げると、幼馴染みで婚約者でもあるダリオが「え?」と返してきた。


 レインの「じゅ?」は何を言っているかわかりません、の「じゅ?」だったが、ダリオの「え?」はレインがなぜわからないのかわかりません、の「え?」だった。


 だが待ってほしい。


 田舎の教会で双方の両親と神父立ち会いのもと、神に婚約の誓いも済ませた男女二人が王都へ出てきて三ヶ月、一軒家で同棲中。

 仕事もようやく馴染んできた矢先に相手から、


 「新しい彼女ができたから出てってくれる?」


 と言われたら、とりあえず「じゅ?」と聞き返すと思う。

 王都標準語でいえば、「え?」である。


 ダリオは「なんで理解できないか理解できない」という顔をしていたが、レインだって理解できなかった。

 今も理解できない。


 だからあの時もう一度、レインは「じゅ?」とダリオに聞き返した。

 途端にダリオは、ものすごく不機嫌そうな顔をして「えー?」とため息を吐いた。


「ダリオの慣れない〝え?〟の言い方がやだったじゅ」


 気取って肩をすくめるその動作に、なぜかものすごく傷ついたことを覚えている。

 もう一度、今度は「なに言ってんだじゅ?」としっかり聞き返してもいいかな? と、これまでの二人の関係性を必死に振り返りながら考えたことも。


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