家族とプリン
暗い部屋目の前に広がるはモニター、そして真っ白な画面、ここ数時間文章を打っては消してを繰り返している。
「あぁ、中盤まではいい感じなのに結末が納得いかない」
椅子を引き作業用のBGMが流れるヘッドホンを外す。
——いつまでもウジウジと男らしくないな
そう笑うのが容易に想像できる。
一年経った今でも声が、顔が、思い出せる。
その度に心が痛むのを感じる。
その痛みがあることでまだ彼女を忘れないでいられる。
彼女が残したそれは未完成で、僕に完成させろと言った、しかし僕には荷が重い、小説が嫌いだった僕が小説を書いている。なんて笑い話だろうか
語彙力もない、目の前に広がる感動を言語化する能力もない、そんな僕が今文字に向かい合っている。
「あと少しなんだ、やり切ってみせるさ」
ヘッドフォンを装着する。
暗い部屋の中にはタイピングの音とヘッドフォンから溢れる今時のロックな音楽だけが響いた。
⭐︎
妹が用意してくれた朝食と言う名の昼食を食べ終わると同時に加奈がウキウキしながら、僕の食べた皿を片付けて、僕の手を引き、加奈は自分の部屋へと移動する。
「それでなにするの?」
「ふふふ、今日はね、これだ!」
じゃじゃーんと、見せてきたのは先週新発売したと言うFP Sだった。
「加奈こう言うゲームやるっけ?」
「お兄ちゃんってこう言うゲーム好きでしょ、だから密かにお父さんに買って貰って練習してたんだ」
ふふんと自信満々にドヤ顔を決める加奈。
加奈はあまりこういう人と争うゲームは好きじゃない、どちらかというとRPGなどのストーリー性がありやりこめるゲームが好きなのだが。
わざわざ、僕と遊ぶために買って練習したと思うとなんだか無性に嬉しくなる。
「よし、やるか、残念だが僕は手加減苦手だから、負けても泣くなよ」
「ふふん、それはこっちのセリフだよ、数分後には私に裸で泣きつくお兄ちゃんの顔がありありと見えるよ」
「……想像で僕になにをさせてんだよ」
こうして高校生と小学生の仁義なき闘いが始まる。
☆
妹の蒼井加奈は引きこもりだ。
引きこもりを始めたのは二年前の小学生三年生の頃だ。
それは突然だった。
「私、もう学校行かない」
そう行って部屋に引きこもったのだ。
普段我儘を言わない子だったので家族は呆然とした。
親父はあたふためき僕は珍しい我儘だな、と出来事を重く受け止めてはいなかった。
しかし母はその日の仕事を休み1日妹と話をしたらしい。
夕方、僕が帰ってくると妹と母が出迎えてくれた。
ご機嫌な二人に僕は解決したのかと安堵した、親父が帰ってきてみんなで夕食を取ろうとした時、母が立ち上がり一言。
「これから家の家事は全て加奈がやることになったので、把握よろしくね」
僕と親父は唖然
そして母は軽い調子で「あっ、後加奈はもう学校行かないから」
と爆弾発言を落とす。
加奈が寝た後三人で家族会議を開いた。
母が加奈と話した内容は加奈はどうやらいじめられているらしい、内容は些細な小学生らしいいじめで、どうやら加奈が男子に好かれていてそれが面白くない女子の仕業らしい。
担任もそれを見て見ぬふりをしているようだ。
母は「もちろん学校に苦情を言いに行くけど、もうそんな学校に娘は置いていたくない!」
らしい。
「加奈ももう学校に行きたくないみたいだし、勉強は家でやるわ」
僕と親父もその意見には別に反対はしなかった。
今の時代ネットが普及しているので、様々な勉強方法がある。
自分の進み具合に合わせれるので学校行くより効果的でもある。
「それと、もう1つ、お腹痛いって言うから病院に連れて行ったら加奈どうやらストレス性の病気になったみたい」
原因はやはりいじめらしい。
加奈は人と視線を合わせると腹痛に襲われるようだ。
しかし家族は大丈夫らしい。
そこで初めて母が涙を落とす、僕は母が泣いたのを初めて見た。
「病気になるまで気づけなかった、親なのに……」
「それを言うなら僕だって」
親父は母を抱きしめ慰める。
僕はそんな二人を見て何の言葉も出てこなかった。
——僕なら気づけたはずだった。
加奈と誰よりも長い時間を過ごしていたんだから。
深い海の様な後悔が僕の中を支配した。
「……負けただと……」
一対一のデスマッチ、制限時間10分
僕はそのゲームで一番強いと言われるアサルトライフルを装備。
加奈はスナイパーライフル。
ステージは街の中。
僕ら大人気なくも本気で勝ちに行ったのだが、加奈を見つけることなくひたすらヘッドショットを決められ、結果10キルされるという結末になった。
1分に1回は殺されてる計算だ。
その後も何回も武器を変えて挑んだが惨敗だった。
「うますぎだろ、これどれだけやりこんだんだよ!」
「んー起きてる時間ほとんど?」
加奈は照れながら答えるが、僕はその答えを聞きひとつ忘れていたことを思い出した。
加奈はハマったらなんでも極めてしまうまでやるのだ。
「完敗だ、僕の負け、でも次やるまでにはもっとうまくなるから、少し待ってて!」
「いいよ、じゃあ、はい」
加奈は手を広げる。
僕は意図が読めず首をかしげるしかなかった。
「なに?」
「だから、どうぞ?」
僕はよくわからなかったが、とりあえず加奈に近づき抱きしめる。
「むふー……じゃなくて、違う違う」
一瞬嬉しそうにしたがすぐ我に帰り、僕から離れる。
「なんだよ、ハグして欲しかったんじゃないの?」
「それは、まぁ、してくれたら嬉しいけど今回は違うよ、さっき言ったでしょ」
「なんて?」
——私に裸で泣きついて、お兄ちゃん
一瞬加奈がなに言ってるかわからず固まる。
そして数秒の後その言葉を理解したが、まだ受け止められずにいて、震えた声で聞き返す。
「そ、それ冗談だよな?」
「え、本気だよ早く、裸プリーズ」
加奈は満遍の笑みで僕に服を脱ぐよう促す。
「……いやいや、洒落にならないって、冗談だよな、な、ほら、違う遊びしような、なんなら、今から好きなもの買ってきてやるぞ」
「今欲しいものはお兄ちゃんの裸の泣きつきの動画」
いつのまにか加奈の右手にはスマホが用意されていた。
「はい、どうぞ、お兄ちゃん」
「……逃げるが勝ちっ!」
僕は妹から逃げるべく、脱兎のごとく駆け出し、自分の部屋へ向かう。
「逃がさないよ」
後ろから、スマホを片手に追いかけてくる加奈はとても楽しそうだった。
それを見た僕は、まぁ裸くらいいいかな、と思ったが
「やっぱ無理!!」
その後加奈とじゃれ合った後、お互い疲れ果てて、ひとまず休戦となった。
「ねぇ、お兄ちゃん、プリン食べたい」
二人とも僕の布団の上で横になっていると加奈が甘えた声で言ってくる。
ふと時計を見ると針はすでに15時を越していた。
15時のおやつにはちょうどいいかもな。
「分かったよ」
僕はふと起き上がり、財布とスマホを持つ。
「じゃあ、行ってくるけど、僕の部屋漁るなよ?」
「大丈夫だよ、もう既にえっちなものは全てパソコンに入ってるって分かってるから」
「おい、何でそれを知ってる、ってかどうやって開いたの!?」
「パソコンのパスワード、お兄ちゃんは変なところでめんどくさがりだから自分の名前と誕生日かなと、初歩的な推理だよ、ワトソン君」
小学生なのに末恐ろしい……。
「それにしても、お兄ちゃんの趣味って普通だったね、なんかつまらない」
「お前は兄にどんなアブノーマルな趣向を求めてるんだよ!」
「私、小学生だからなに言ってるか分からない」
「このやろ、まぁいいや、行ってくる、だれがチャイム押しても出ないでね」
「うん、分かってるよ、いってら〜」
☆
コンビニで一番高いプリンを買って外に出る。
「雨野君!」
ふと、僕の名前が呼ばれ気怠げに首を曲げるとそこには制服を着た女性が立っていた。
その制服は僕が通っている高校の制服だった。
黒髪ロングで男ウケが良さそうな清楚系な雰囲気を持ってる女性。いわゆる守ってあげたくなる系の女子だった、そう、星奈さんだった。
「星奈さん?」
「そう、同じクラスの星奈美羽さんだよ」
僕の反応に女性は名乗ってから少し頬を膨らませる。
「今日学校来なかったでしょ」
「あぁ……ごめん」
なぜ僕はそこまで仲良くない同級生にお説教を受けなければならないんだ
「こんなところで何やってたの?」
「パシリ」
手に持っていたレジ袋を見せる。
「パシリ?」
「妹がプリン食べたいって言っててね、買いに来た」
「へぇ、仲良いんだね」
「まぁね」
誤魔化さず素直に答える僕に星奈さん少し目を丸くしてから笑う。
「入学してからあまり学校きてないよね、体弱い?」
その質問に僕は若干気まづさを覚えながらも答える。
「サボり」
「いっも?」
「やることがある」
「ふーん、そっかぁ」
「……」
「……」
「じゃあ僕はこれで」
会話が止まりいいタイミングだと重い僕は退散することにした。
「あっ、うん、ごめんね引き止めて」
「別にいいよ」
僕が背を向け歩き出すと何か思い出したのか「あっ」と声をあげた。振り返ると
腕を後ろで組んで笑う星奈美羽が
「来週はちゃんと学校に来てね」
ふわりと長い髪が揺られて笑うその姿に既視感を覚え僕は胸がざわついた。
モヤモヤする気持ちを抑えて手をひらひら振り
「気が向いたらね」
と答えながらその場を後にする。
帰り道、生暖かい風が頬に触れる。
「あー……会いたいな」
ふと無意識にそんな言葉が漏れていた。




