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とある処の生物の日常

とあるおじいちゃんの杖の日常

作者: ルベン

 私は杖だ。一本の、どこにでもある木製の杖。

長いこと老人の手に握られ、その歩みを支えてきた。


 私の持ち主であるおじいちゃんは、毎朝決まった時間に私を手に取り、ゆっくりと玄関の扉を開ける。そして、庭先の小道を歩いて行くのだ。

私はその一本一本の足取りをしっかりと支えながら、彼とともに日々を過ごしている。


 おじいちゃんの足元は、昔よりずいぶん弱くなった。私が彼の助けになることが誇らしい。

だが、最近、おじいちゃんが私を手に取る頻度が減っていることに気づいた。

どうやら孫が遊びに来ているらしい。小さな子どもの笑い声が、家の中に響きわたる。


 ある日、私はいつもの場所に立てかけられたまま、おじいちゃんと孫のやりとりを見守っていた。


「おじいちゃん、この杖、貸して!」


 小さな手が私を掴む。まだ歩くのに支えは必要ない年頃の孫が、私を振り回して遊んでいる。


「ほら、魔法の杖だよ! ぴゅーん!」


 孫は楽しそうに私を振り回し、まるで空を飛ぶほうきのように扱っていた。

私は杖だが、こうして子どもに遊ばれるのも悪くない。


「そんなに振り回したら、杖がびっくりしちゃうよ」


 おじいちゃんは笑いながらそう言った。


 数日後、孫が帰った後、おじいちゃんは再び私を手に取った。

いつものように玄関を出て、小道を歩く。その足取りは少しだけ軽やかだった。

孫と過ごした時間が、おじいちゃんの心を若返らせたのだろう。


 私はおじいちゃんの手の温もりを感じながら、今日も歩みを支える。


 そう、私は杖だ。

 おじいちゃんの歩みと共に、今日もそっと寄り添っていくのだ。


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