第4話
「ふぅん……ハヤシユーサク……珍しい名前なんだね!」
「いや、だから、林が苗字で勇作が名前で」
「そのミョウジってのはなんなんだ?」
「俺の国だと、名前の前に着く……なんていうか、家系を表すもの……?みたいな」
どうやらこの国には苗字という概念がないみたいで、ハヤシユーサクという1つの名前だと勘違いされてしまった。
しかし俺の乏しい語学力ではうまく説明できず、結局苗字の事はうやむやにしてユーサクという名前だと話を落ち着ける。
「じゃあユーサクは、違う世界から来たんだ!そこはどんなところなの?」
「え、いや、そうなんだけど、え?そんな簡単に信じるか……?」
「まぁ異邦人は珍しくないしな」
たまに現れるんだよねぇ、とセレナがケラケラ笑う。
一方、その横をピッタリとくっついているデルタは難しい顔をしながら俺を睨みつける。どんな器用な顔だ。
「そういう異邦人は、だいたい騒ぎを起こすろくでもない迷惑な奴らです。だから姉さん、異邦人と関わってはいけないと何度も何度も何度も……」
「だって分からなかったんだも~ん!それに、ユーサクは悪い人じゃなさそうだし」
「この得体の知れない男こそ厄介なことを起こすんですよ!僕の預言が外れたことなんて1度もないんですから」
「……あ、俺、一応いるんだけどな……」
ライアンとリィに挟まれながら歩く俺は、後ろからのチクチクした視線に思わず縮こまる。
あまりの敵意に、この2人も俺が何かしないかを見張っているのかと勘ぐってしまう。
しかしそんな俺を他所に、デルタ以外が明るい顔をして笑いだした。
「まぁまぁデルタ、いいじゃないか。オレはユーサクのこと好きだぞ!」
「そうよ、それにまだ子供でしょ?」
「……子供と言っても、僕と同じくらいでしょう。それに何か有り得ない力を持っているかも」
もしかしてデルタが俺の後ろを歩いてるのって、俺をいつでもやれるようにか……?
ひんやりとした空気が足元を通った気がして、背中まで凍りつく。
「そういえばそうかも!ユーサクって何歳なの?15歳くらい?」
「いや、一応18歳になったかな」
「えぇ!私より年上なんだ!」
……。
日本人が童顔に見えるっていうのは、全国……全宇宙共通らしい。
俺の場合は身長もそんなにないから、更に子供っぽく見えるってことか……。
それにしても15歳……そんなに変わらないとはいえ、中学生と高校生の差は大きいのだ。落ち込むのも許して欲しい。
「ははっ!オレからしたら、みんな子供だよ」
突然肩を組んできたライアンに、うりうり!と頭をを撫でくり回される。
隣でリィもうんうんと頷いているから、この2人は俺たちよりも少し歳上なのだろう。
「それでそれで!ユーサクのところはどんな世界なの!」
なかなか異世界の話を聞けないことに痺れを切らしたセレナが、ピンク色を靡かせながらくるりと振り返る。
その光景に思わず桜を思い出した俺は、日本で生活していたときのことをゆっくりと話し出す。
「俺の世界は……地球っていうんだけど、魔法とかそういうのはなくて」
「え!魔法がないの!?」
「じゃあどうやって生活してたんだ?」
「魔法がないかわりに、化学の力が発達してたんだ」
「カガク?」
聞きなれない言葉を首を傾げる一同に、俺の中にある語彙を総動員して何とか説明する。
ただ、俺の乏しすぎる語学力でうまく説明できたかは分からない。
それでもみんな (デルタはずっと難しい顔をしているが)は、顔をきらきらとさせて地球の話を聞いてくれた。
「じゃあユーサクは、魔法使えないのになんでこんなところに来ちゃったの?」
「それは……」
そんな純粋なセレナの疑問に、俺は急になんと返して良いのか分からなくなった。
この世界の住人の前で、「死んだらこの世界の神様に呼び出されて、デスゲームが見たいからお前たちで殺しあってくれって言われた」なんて言えるわけがない。
おれは悩んだ挙句、無難な言葉を絞り出した。
「うーん……俺も分からないんだ。向こうの世界で死んだのは確かなんだけど、気づいたらさっきの所にいて」
「え!!!!ユーサク死んでるの!?!?!?」
「え、いや、向こうの世界で……」
「私が治してあげる!!!!どこが痛い!?!?」
「あ、うん、今の俺は健康体で……」
「ヒール!!!!……あれ?全然効かない!なんで!?!?」
「それは俺が怪我をしていないからで……」
「えーーーん!!!ユーサクが死んじゃうよーー!!!!」
どうしよう、どれだけ説明してもセレナに届く気がしない。
なんなら地べたにねころがって、駄々っ子のように手足をじたばたしだした。
「これどうしたら……え?」
自分ではどうにもできず、助けを求めようと周りを見てみれば。
デルタは食べるためか薬を作るためか、草や花、気の葉っぱなどを採取し。
ライアンは何処から取り出したのか身長よりも大きな剣を振り回し。
リィに至っては、これまた何処から出したのか大きなパラソルの下で本を読んでいた。
「え、ちょ、これどうしたら」
「びええぇえぇぇん!!!!私の前で死なせないんだからぁぁあああ!!!!」
「ぐえっ」
立ち上がったセレナはやけにギラギラした目をして、俺の首根っこを掴み、そして……。
「ユーサク、今助けるからね……」
「な、なにその太すぎる注射……や、やめ……うわあああぁぁああ!!!!」
広い草原に、俺の叫び声だけが響いていた。