第3話
――「……か!……せ……ん……ですか!」
……あれ。
俺、どうしたんだっけ。
確か、子供を助けて死んで、変なところに連れてかれて、異世界の神とかいうやつが現れて、それで……。
「大丈夫ですか!?」
「うわぁっ!」
「きゃあ!!」
ぼんやりとした視界に突然現れたピンク色に驚き、俺は思わず飛び起きる。
当然、俺の顔を覗き込むようにしていた頭とぶつかり、辺り一面に鈍い音が響いた。
「おいおい、大丈夫か?」
「いてて……驚かせちゃってごめんなさい」
「あぁ、いや、こちらこそ……」
ちょうど右眉の上あたり、絶対にタンコブが出来るだろう箇所をなでながら、ピンク色を見やる。
その前髪の下、まん丸いおでこが少し赤くなっており、なんだか申し訳なさを感じた。
「ごめんなさい、道に人が倒れてたから、死んじゃってるんじゃないかって早とちりしちゃって……」
水色の大きい瞳に涙を浮かべた少女は、ゆらゆらと立ち上がり、こちらに手を差し伸べる。
「旅人さん、悪ぃな。こいつ、ちょっとそそっかしいんだ」
「全くよ……セレナ、他に怪我はない?」
「うん、大丈夫だよ!それに、ヒール使っちゃえばすぐに治るし!」
少女の手を借り立ち上がると、やけに厳つい服を着た4人の男女に周りを囲まれる。
特に厳ついのが、金髪を立たせた身長190くらいの大男で。
でっかい剣とでっかい盾を背負い、甲冑のようなものをガシャガシャと言わせこちらに寄ってくる。
他にも胡散臭いローブを着た男と、少し身軽そうな甲冑を着た女性と……。
それはまるで、ヤンキーにカツアゲされる光景を思わせて――。
「……いや、ほんと、すみません。俺、お金とか持ってなくて……なんて言ったらいいのかな、気づいたらここにいて……」
この人たちが誰かは知らないが、無抵抗の相手に手を上げるような人たちではないと信じたい。
俺は両腕を上げて、必死に無抵抗アピールをしてみせる。
この際ダサくたっていい、転移した直後にカツアゲされて死ぬのなんてごめんだ。
「えっ、あ、違うのぉ!私たち、お金目当てなんじゃないよ!」
「そうです。ただこの人がお人好しすぎるだけで、僕らは道を急いでいるので」
「わ!ちょっと、その言い方はないでしょ?」
「はいはい、まずは事情を話し合いましょう」
ピンク色の少女と、おなじピンク色の少年。
まるで兄妹のように見える2人を制した女性は、「ごめんなさいね」と軽く頭を下げる。
赤色の髪がサラリと揺れ、銀色のメガネがとてつもない知性を醸し出す。
「あたしの名前はリィよ。このパーティーで剣士をやっているわ」
「オレはライアンだ。基本的には守護者だが、戦うことも出来るぞ」
「私セレナ!白魔術師で、回復魔法が得意なの〜!……あ、あなたのおでこ、赤くなってる……治してあげるね!」
ピンク色の少々――もとい、セレナと名乗った少々が俺の頭に手をかざし、小さく何かを唱える。
すると、先程までのジンジンとした痛みが消え、触ってみればタンコブも何もない。
「ま、魔法……」
「なんですか、魔法すら知らないんですね」
「もー、デルタ!すぐそういうこと言うんだから!」
「事実でしょう。……それよりも、先を急ぎますよ。このままじゃ雨が降りますからね」
デルタと呼ばれた少年は、なぜだか俺を敵視しているようだ。
目は1度も合わず、とげとげした言葉をぶつけられる。
「デルタがごめんね……。私の弟なんだけど、ちょっと反抗期なの」
「…………詳しくは見えませんが、その男は将来、必ずろくでもないことを起こしますよ」
「口は悪いんだけど、本当はとーってもいい子なんだよぉ!?」
「……ふん」
……敵意剥き出しですけど。
なんかもう反抗期とかのレベルじゃない。
先程からグサグサと突き刺さっている殺意は、絶対に気のせいでは無いはずだ。
「こら、ぼんくら姉弟、そこまでにしときなさい。……ごめんなさいね、デルタは預言者なの。少し先の未来を見ることが出来るのよ」
「……あぁ、だからさっき……」
雨が降る、と言っていたのは、予言だったのか。
ろくでもないことを起こす、というのがなんなのか分からないが……。
「……とにかく、ここはもうすぐ大雨になります。話は移動しがらでもできるでしょう」
――話は聞いてやるが、少しでも怪しい真似したら殺す。
そんな目で射抜かれた俺は、再び両手を上げて5人に着いていくのだった。