声招
「あれ? まだ昼間なのに、誰も遊んでいないな」
俺は学校の帰り道、住宅地の中にある公園の中を歩く。今日はテスト期間中な為、昼間に下校している。普段は子ども達で賑わっているが、公園には俺以外誰も居ない。
「珍しいな……」
お昼時だからかもしれない。何時もは公園を迂回した大通りの道を通るのだが、明日のテストに向けて勉強をしなければならない。明日は苦手な数学のテストがあるのだ。だから近道をする為に、公園を歩いている。
「にゃあ」
「ん? 猫?」
あと少しで出口という所で、不意に猫の鳴き声が聞えた。周囲を見渡すが猫の姿はない。
「んにゃ」
再び鳴き声が響いた。耳を澄まし方向を探ると、敷地内にある自動販売機の下から発せられているようだ。俺は無造作に生えているエノコログサ、通称草の猫じゃらしを一本抜いた。
「如何した? 出られなくなったのか?」
俺は自動販売機の前にしゃがむと、猫じゃらしを揺らす。自動販売機の下は暗く、猫の姿を確認することは出来ない。本当は早く帰宅しなければならないが、癒しが欲しいのも事実だ。
「にゃん」
鈴を鳴らしたかのような可愛らしい鳴き声が聞え、猫じゃらしが引っ張られた。出て来た猫はどんな子だろう。引っ張られて自動販売機の下に入っていた、猫じゃらしを手前に引いた。
ずるり。
「……え……」
自販機の下から出てきたのは、可愛らしい猫ではなく。
人の手が猫じゃらしを掴んでいた。