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夫が前世の記憶を取り戻したようです。私は死亡ENDモブだそうですが、正ヒロインをざまぁして元気に生きたいと思います。  作者: 越智屋ノマ@夜逃げ聖女【重版】1巻2巻
【第1章】ゴールは離婚。慰謝料めざしてがんばります!

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【5】あなたに不相応な妻

園遊会は、続いている。

会食の時間が終わり、これから始まるのは『国土清浄の儀』――この国から厄災を祓い、疫病を遠ざけるといわれる儀式だ。


この儀式では、国の東西南北の守護を任された四聖爵という4つの家門の当主たちが、神様に祝詞と剣舞を奏上する。



「千里千年に神の御光みひかりの満つるが如く――」


祝詞をとなえながら、儀礼用の細剣レイピアを掲げるミュラン様たち4人の『四聖爵ししょうしゃく』を、わたしは遠巻きからじぃっと見つめていた。


(……キレイ)


大広間の四方それぞれに四聖爵の一人ひとりが立ち、儀礼の型に則って剣舞を披露していく。やがて互いに迫って剣を交えては、ぴたりと止まり、舞うように刃を躱しあう。


「甘ったるい顔したイヤな奴」と思っていたことが申し訳なくなるくらい、ミュラン様は綺麗だった。

黒を基調とした長丈の儀礼服は、これ以上ないくらい彼に似合っている……会場のご婦人方が甘いため息をつくのも納得だ。


彼が舞うたび、儀礼服の裾が優雅にひるがえる。

なぜかドキドキしてしまう……「愛人でもいいからお近づきになりたい」というご婦人がいっぱいいるのも、理解できてしまう気がしてきた……


(……って、違うでしょリコリス! これ、大切な儀式なんだから真剣に見なくちゃ)


うちの実家みたいな下級の家柄では、四聖爵の儀式を見る機会なんて絶対にない。

せっかく期間限定の妻をしてるんだから、目に焼き付けておこうかな……。


四聖爵の細剣が交わるたびに色とりどりの光が走るのは、もしかすると各家に宿る『妖精の力』とかなのかな。……アスノーク家は聖水妖精ウンディーネという高貴な妖精を従えているということだけれど、その妖精って、どこにいるんだろう?


わたし、1年以上アスノーク家の屋敷で暮らしてるけど、妖精なんか一度も会ったことないな。

今度、屋敷の誰かに聞いてみようかな。

ミュラン様と精霊が一緒にいたら綺麗すぎて、さぞや絵になるだろうな。


……などと思っているうちに、儀式が終了してしまった。


(あぁ、もっとちゃんと見ておけばよかった!)


わたしが後悔している間にも、ひざまずく四聖爵たちに向かって、壇上の女王陛下がお褒めの言葉を贈っていた。


よく考えたら、女王陛下のお顔を直接見るのは初めてだ。すぐ後ろにいらっしゃるのはエドワード王太子と、婚約者のアレクシア=レカ公爵令嬢だよね。うわぁ、このお二人すごい美男美女カップル……仲良さそう。


それにしても、どこもかしこも、偉い人ばっかりだ。

改めて、自分が場違いなところに来てしまったことを実感してしまう。居心地が悪くてたまらない。


「……ねぇ、あのお嬢さんはどちらの方?」

「アスノーク公爵のご夫人だそうよ」

「あぁ、噂の……」


という周囲のあざけりっぽい小さな声が、わたしに向けられたものなのだと、すぐに気づいた。


「あんなお嬢さんを、どうして公爵閣下はお選びになったのかしら」

「さぁ。……ご出身はリエンナ伯爵家だそうよ」

「リエンナ? 聞いたことがないわね」

「南部の貧乏貴族らしいわよ?」


「そういえば先日、カルシャ家のイザベラお嬢様がアスノーク公爵のお屋敷から追い出されたって……」

「そうそう。噂だと、アスノーク公爵がお倒れになったときに…………」

「あんなにお美しいお嬢様が追い出されるなんて。アスノーク公爵は難しい方なのねぇ」


くすくす。こそこそ。そこかしこで響く噂話が、耳に痛い。


「あの「小さな奥様」も、どうせすぐに捨てられてしまうんでしょうね」


「そうねぇ。アスノーク公爵がどんな気まぐれでお選びになったか知らないけれど、どう見ても不相応だものねぇ……」


分かってる。

分かってるってば……



声も出せず、身動きもできず、わたしは一人で凍ったみたいにその場に突っ立っていた。


「待たせたね、リコリス」

儀礼服から夜会用の正装に着替え直したミュラン様が、わたしの前に戻ってきた。


なにか、言わなきゃ。

おつかれさまです! ステキでした!! と元気に言えたらよかったのだけど……なんだか息が詰まって、ミュラン様の顔を見られない。


「リコリス?」

覗き込んでこないでください……ミュラン様。


「顔色が悪いな。疲れているのかい? ……休む部屋を用意してもらおうか」

――優しい言葉をかけるのも、やめてください。


バカみたいに突っ立って無反応なわたしと、ミュラン様の間に、横合いから妖艶な貴婦人たちが割り込んできた。


「閣下。先ほどの儀式、とてもお素敵でしたわ」

「心が洗われるようでした! 閣下のご人徳ですわ!」

「わたくし、もっと閣下とお近づきになりたいのですが……」


やっぱり、みんな美人だなぁ……

ほら、ミュラン様の好きそうな女性もたくさん来てるじゃないですか。今なら全部取り放題ですよ?


わたしなんか、どうせ『痩せたカラスみたいな女』だから。

どうせ『生理的に受け付けない女』だから。

だから……放っておいてください。


「ミュラン様! わたし、外の風に当たりたいので失礼しますね。どうぞごゆっくり」


わたしは、がんばって笑顔を浮かべてそう言うと、一人で外に出ていった。


   * * * * *


わたしは一人で、式典会場の外に飛び出していた。


夜風が冷たい。

冷たいけど、独りぼっちのほうがよっぽど気楽だった。


(……やっぱり、来るんじゃなかった。こんなとこ)


あと2年だけ夫婦ゴッコして、屋敷に引きこもっていれば済むのに。

どうして夜会になんか、ついて来ちゃったんだろう。



『あの「小さな奥様」も、どうせすぐに捨てられてしまうんでしょうね』



……悪意に満ちたささやき声が、耳にこびりついて離れない。

頭を振ってみても、何度も何度も声がよみがえってくる。


(別に捨てられたって良いわよ。……わたしだって、離婚して、さっさと慰謝料もらって実家に帰りたいんだから。ミュラン様なんて全然好きじゃないし。あと2年だけ我慢すればおしまいなんだから)


なのに、どうして泣いてるの? なんで悔しいの?

自分で自分が分からない。



「――待て、リコリス!」

唐突に、腕をうしろから引かれた。

整った顔立ちに戸惑いの色を浮かべて、ミュラン様がわたしを引き寄せていた。


「触らないでください!」

ぱしっ。と、とっさに跳ねのけてしまう。


月明りに照らされた夜の庭園。

他に人はいない。

わたしは、無遠慮に声を張り上げていた。


「ミュラン様、「良い人」っぽく振る舞うの、いい加減にやめてくれませんか!? みじめな気持ちになってしまうんで、迷惑です!」


我ながら、イヤな子だなと思った。……でも、罵詈雑言が止まらない。


「良い人っぽく振舞う? ……僕が?」

ミュラン様は、整った顔に困惑した表情を浮かべていた。



「僕は、自分が善人だと思ったことはないし、善人のまねごとをしようと思ったこともない」


「じゃあ、なんでいきなり優しくなったの!? 結婚して1年近く無視してたくせに、いきなり優しくなるなんて変ですよね?」


「それは……」


「3年待てば慰謝料もくれるっていうし、指一本触れないって言うし。でもそれって、ミュラン様には何の得があるんですか? ……わたしが看病してあげたのが、そんなに嬉しかったの? だったら残念ですけど、ミュラン様の勘違いですからね!」


やめて、これ以上ひどいこと言わないで。止まって……。


自分の言葉を止めようと思ったのに、今まで我慢していた言葉が、全部、勝手にあふれてくる。


「看病と言っても、わたし、全然役に立ってませんでしたから。ただ眺めてただけです! ……「あなたが死んだらわたしにいくら遺産が入るかなぁ」とか、そういう最低なことも考えました。だから、勝手に感謝されても困るんです!」


今まで通りの「空気妻」でいいんですよ、ミュラン様……

変に距離を詰められると、どうしたらいいか分からないんです。


わたしは、泣きながらミュラン様のことを責め続けた。


「……知ってるよ、リコリス。君が僕を心の底から嫌っているのは、よく知っている」

ミュラン様は、とても悲しそうな顔をしている。


「……そうだね、急に態度を変えられて、君が戸惑うのも分かる。……どう説明すべきか」


途方に暮れたような顔で、ミュラン様は月を仰いでいた。



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[気になる点] みんなガスターク侯爵ガスターク侯爵呼んでるのがミスなのか下げてやろうって皮肉なのかよく分からない
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