完全敗北した北上さん
「…………も、もうダメだ」
ぱたりと床に倒れる俺。
あれから何時間経ったのか分からない。時間を忘れてひたすら北上さんとシしていたと思う。
北上さんは、全裸のままベッドの上でうつ伏せに倒れて無反応。
完全に敗北したような形になっていた。
……大丈夫かな。
ちょっと心配になりつつも、本格的な戦いになる前に思い出ができてよかった。
たぶん、これから先はこんなことをしているヒマすらないだろうからな。
俺は倒れながらも、スマホに目を向けた。
晴れたら即移動をしたいからだ。
…………ふむぅ。
あと三日は傘マークだ。当分は大荒れかぁ。
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【三日後】
連泊を続け、ようやく嵐は去った。
おかげでのんびりできたが、世間では動きがあるようだった。
ネットの掲示板情報によれば、今朝から警察が動いているとのこと。自称・警察マニアの人物が追っている様子だと、駅前に向かっているかもしれないと書かれていた。
お、おい……まさか、こっちへ来るじゃ。
しかも、それだけではない。
「ん~、てっちゃん。いよいよかもね」
「どういうことだ、桃枝」
「櫛家も動いてるみたい」
「なに!?」
「ケムッキーさんの情報でさ」
さすが裏社会の情報に精通しているだけある。そっちの方面まで追えるのかよ。そや、政府関係者ともコネがあるとかなんとかウワサがあるし、とんでもないな。
「八咫烏も動き出す頃合いでしょう」
妙に頬と耳を赤くする北上さんは、俺の方をチラチラ見ながら言った。……えっと、そんな風に見られるとやり辛い。
やっぱり、さっきヤりすぎたか……。
でも、満足してくれたようだし、当分なんでも許してくれそうな気配がある。
それは天音も一緒で、今のところ機嫌がよさそうだ。
「ねえ、早坂くん。そろそろ長野へ向かった方がいいんじゃない?」
「ああ、そのつもりだ。天音、みんなはいるよな」
「うん。点呼も済んでる」
よし、早めにホテルをチェックアウトして駅へ向かう。さっさと新幹線に乗れば、こっちのモンだ。
警察にも櫛家にも、そして八咫烏から襲われる心配はない。
今はできれば戦闘を避けていきたい。
街中で銃撃戦なんてしたら、それこそ全国ニュース。一般人からスマホのカメラを向けられ、動画投稿サイトに拡散されるだろうし――そうなったら終わりだ。
もう二度と日本にはいられなくなる。
俺たちは受付へ向かい、ホテルをチェックアウトした。
周囲を警戒する北上さんは、外の様子もうかがっていた。FPSゲームでいうところのクリアリングを行い、安全を確認した。
「大丈夫そうです。今のところ警察や不審者の気配もありません」
「わかった。速やかに駅へ向かう」
久しぶりにホテルの外へ飛び出し、ゆっくりと駅へ向かう。
幸い、人通りがそこそこあるので敵も急には襲ってこないだろう。ただ、警察は別だ。所かまわず国家権力を行使してくるのだ。
さすがに警察には敵わない。
補導されれば、そこで終了。
なにもかもが終わりだ。
みんなそれを感じているのか緊張している様子。という俺も心臓がバクバクしていた。
三勢力から狙われるなんて……人生でこんなことあるのか。
とにかく、何事もなく到着したいが。
なるべく人目のある場所を通っていく。
しかし、これだけの大所帯で歩くと目立つので、途中でグループごとに別れる。
①俺、天音、桃枝
②北上さん、リコ、艾、千年世
あとは駅で再び合流するだけ。
万が一があって、残りのメンバーで長野へ向かう。そういうことにした。
さて、そろそろ博多駅に到着だ。
「なんとか来れたね……」
天音は俺の腕にしがみつきながら言った。周囲をかなり気にしていた。俺もだけど。
ここまでトラブルなく来られた。さすがに駅前で事件なんて起きないだろう。
「もう安心だね!」
明るい声で桃枝は安堵していた。そうだな、もうたぶん大丈夫だ。
こんな場所で白昼堂々なんてことは――
いや、この“気配”はなんだ……?
背後から!?
「……早坂 哲だな」
「――なッ」
知らない声がして、俺は心臓が跳ね上がった。……だ、誰だ。誰なんだ、この声。木下さんではない図太い声。
クソッ、さすがに警察が待ち構えていたか……!
俺たちはここまでなのか……。
なんであれ、振り向くしかない。
逃げ切れるかどうかは相手を見て判断する。
さて……いったい、誰なんだ……。




