深夜デートとトナラー男の悲劇
「――夢か」
外は日が落ちて真っ暗になっていた。
ベッドへダイブしてそのまま寝落ちしてしまったようだ。……なんてこった。
シャワーを浴び、スッキリした。
テレビで世界情勢をぼうっと眺める。
……いや、そんなことより腹が減った。
みんな食事はどうしているのだろう。各々で済ませているのだろうか。
とりあえず、部屋を出て天音の様子でも見に行こう。
と、廊下に出ると、慌てる艾の姿があった。
「あ……えっと」
「まさか、待ってた?」
「いえ、三十分ほど……」
三十分って、結構待ってる方だと思うけどな……!?
そんなに俺を待ってくれていたとは嬉しいね。
「そりゃ、スマン」
「いいのいいの! よかったら、ご飯を一緒にどうかなって」
「もちろん、いいよ。みんなは?」
「みんな先に済ませてた。ほら、早坂くん寝ちゃってたから」
なるほどねえ。そりゃそうか、もう深夜に近いし。
「もう寝てるってとこか?」
「うん、部屋でゆっくりしていると思う」
「艾はみんなと一緒に行かなかったんだ」
「そうなんだ。私も寝過ごしちゃって」
そういうことか。なら、丁度いい。ひとりで出かけるのも寂しかったところだ。
そんなわけで俺は、艾と共にホテルを出た。
艾と二人きり、というのは珍しい気がする。
ホテルの門限は深夜零時なので、それまでには帰らねばな。
なので近所の飯屋にしておくか。
調べてみると、牛丼屋があった。というか、牛丼屋くらしか営業しているお店がなかった。……さすがに時間帯が悪かったな。
徒歩で行けるので、歩いて向かう。
夜道なので周囲を警戒しながら。
◆
無事に牛丼屋に到着。
「私、こういうお店はじめてかも……」
「そうなの!?」
「うん。普段は家で食べてたから」
そうか。艾は普通の女子高生であり、優等生な部類だ。こんな生活になる前は、一般家庭と変わらない日常を送っていたはず。
――でも、外食くらいすると思うけど……家庭によるのか。
直ぐ近くのカウンター席に座り、タブレットで注文。
はじめての艾はアセアセしていたが、俺が優しく操作方法を教えた。
「――てな感じだ」
「おおー、こんな便利なんだ」
「好きなの頼んでいいぞ。俺のおごりだ」
「ありがとう、早坂くん」
可愛い笑顔を向けられ、俺はちょっとドキッとした。
そして、数分で牛丼到着。
相変わらず仕事が早い。
「きたきた」
「早ッ」
「空いていれば、一分も掛からず来るからね」
「そんなに早いんだ……へえ」
艾が頼んだ牛丼も直ぐにきた。
うな牛にしたようだ。うなぎと牛丼がセットのヤツだ。しかも大盛!
艾は小柄なのに結構食うんだなぁ。
もぐもぐと小動物のように食べる艾は可愛らしかった。美味しそうに食べるなぁ。しかも幸せそうに。
そんな表情を見せられると、こっちまで幸せ。
俺もチー牛を黙々と食べ続けていく――。
そんな時だった。
席が空きまくっているにも関わらず、俺の隣に男が座ってきた。
おいおい、嘘だろ……!?
カウンター席ぜんぜん空いてるし、なんならテーブル席も選びたい放題だぞ。なのに俺の隣に座りがやった。
トナラーうぜえええええ……!!
とはいえ、隣のおっさんはなんか怖そうな感じだしなぁ。関わりたくはない。
おかげで飯がマズくなっていた俺だが、妙なことに気づいた。
……このおっさん、どこかで見覚えが。
「あ!」
「あぁ?」
おっさんは、俺の方を睨む。だが、直ぐに顔色を変えていた。
「お前、岩崎!!」
「げええええ! お前はあの無人島にいた!! なんで牛丼食ってんだ!!」
「食ってて悪いかよ」
「そ、そりゃ……悪くないが……」
「てか、櫛家に戻らなくていいのかよ?」
「…………ぐっ。無理だ。俺ァ、仕事を失敗した……お頭にぶっ殺される」
あぁ、ビビッて帰れないわけか。それでこんなところに。
まさか岩崎と再会することになるとはな。まったく嬉しくないが……だが、櫛家の動向を探るいい機会だ。
取引してみるのもアリか。
俺は櫛家の情報を引き出す為、岩崎に交渉してみることにした。




