やっと会えた
「――え、それホント!?」
一度、ホテルの部屋に戻り、北上さんたちが無事かもしれないと話すと天音は喜んでいた。
「木下さんが見つけてくれた」
「え、あの刑事さんが?」
「そうだ。だから確かだ」
「よかった~…」
本当にな。
一刻も早く合流したいところだが、木下さんの準備もあるということだった。
連絡があるまでは待機だ。
一時間ほど待つとスマホに連絡が入った。
木下さんだ。
『ロビーに来てくれ』
「分かりました。直ぐに向かいます」
電話を切り、俺は仮眠を取る天音を起こした。
「準備できたようだ。行くぞ」
「ん~、ほんとぉ?」
「ああ、これでやっと合流できる」
「うん、楽しみ!」
天音と共にロビーへ向かう。
そこには木下さんの姿が。スマホを耳に当て、誰かと会話しているようだった。もしかして、北上さんか?
「さあ、行こうか。早坂くん、天音さん」
通話を切る木下さんは、ホテルの外へ向かう。俺たちもついていく。
外には黒い車が停車していた。
その車の後部座席へ乗り込み――いざ、出発!
◆
木下さんの運転する車は、鹿児島市内をぐるぐる回っていた。いつまで経っても到着する気配がない。
「あ、あの、木下さん。もうニ十分近くは市内をウロウロしていません?」
俺はしびれを切らして木下さんに聞いた。
天音も同じことを感じたようで、隣で不安になっていた。
「良い質問だ、早坂くん。念のための尾行チェックさ」
「え」
「こうしてグルグル回っていれば、つけられていないか分かるのさ」
なるほど!
だから、近くを回ってばかりいたのか。
ルームミラーもやたら見ていたから、変だと思ったんだよな。
木下さんは、尾行がないと確認したようだ。
ようやく市街を抜けていく。
そして三十分後には『姶良市』に到着。
割と離れた場所に北上さんたちはいるようだ。
やがて車は、姶良市の海側にある一軒家で止まった。
「ここは……?」
ぽつりとつぶやく天音。
桜島がよく見える広大な公園――『なぎさ公園あいら』というらしいが。
この家にいるのか?
「さあ、車を降りてくれ」
俺たちは車を降りた。一軒家の前に立つ。
普通の家……だな。
どこにでもある二階建ての家。けれど、外観は立派で綺麗だ。
駐車場も広々としているし。
「誰の家です?」
「ここは私の家だ」
「「えっ、木下さんの!?」」
俺と天音は同時に驚く。
まさか、木下刑事の家が鹿児島市内だったとは……驚きた!
いや、思えばオーハ島に姿を現したこともあった。この周辺でしか彼を見ていないような気がする。つまり、そういうことか。
「出身地が鹿児島だからね」
やはりそうか。
つまり、木下さんは北上さんたちを家に匿っているということか。
さっそく家の中へお邪魔することに――いや、その前に玄関のドアが開いた。
そこには懐かしい人物が立っていた。
「……哲くん! それに、天音さん!」
まるで幽霊でも見るかのように北上さんは、驚いていた。こんな表情は珍しい。
「よう、北上さん。久しぶりだな」
「よかった、無事だったんだね」
俺と天音は、直ぐに北上さんの元へ向かい抱き合った。感動の再会だ。
「信じていましたよ、哲くん。天音さん。二人ともきっと生きていると」
珍しく涙ぐむ北上さん。
俺も最近は妙に涙もろくて釣られていた。天音も。
そんな中、懐かしい面々が次々に。
「あ、てっちゃん!!」
桃枝が飛びついてきた。
気づけば、リコや艾も。千年世までくっついていた。
おぉ、みんな無事じゃないか!
「よくぞ生きていた! 桃枝、リコ、艾、千年世……!」
泣きじゃくる桃枝は「うん、流されたんだけどね。絆ちゃんが緊急ロケータービーコンを持っていてさ、割と直ぐに助かったのさ。でも、てっちゃんと愛ちゃんが行方不明じゃん! ずっと心配していたよぅ」と、わんわん泣いていた。
そうだったのか。
遭難ビーコンを所持していたのか。
あの晩、北上さんはビーコンを発信して、助けられていたということか。
だけど、行方不明者ばかりだったような……?
情報が錯綜していたせいか、それとも北上さんたちは人数に入っていないのか。
「教えてくれ、北上さん。ビーコンを使用したとはいえ、よく助かったな」
「ええ。あの晩、哲くんと天音さん、あの女刑事……あと複数の民間人が流されていました。あたしたちは奇跡的にも救命浮器で耐えていたんです」
「……なんだって? じゃあ、俺と天音が不運だっただけか……」
「ええ。高波にさらわれてしまったんです」
そういえば、何度も波に襲われていた。たまたま俺と天音、古森さんが流されたんだ。厳密にいえば、岩崎も含むが。その他にも流された人がいるんだろうな。
「とりあえず、立ち話もなんだし、中へどうぞ」
と、木下さん。そうだな、家の中でゆっくり話を聞こう。これからどうするかも決めねばならない。




