ホテルで天音と二人きり
ATMから現金を引き出し、これで資金を確保した。
手持ちは100万円。
今のところ、これだけあれば十分だろう。
「次はどうする?」
天音に半分手渡すと、不安そうに声を漏らした。
「もう少しだけ北上さんたちの手がかりを探す。時間的にあまり回れないだろうけどね」
「そうだね。でも諦めたくはない」
その通りだ。
彼女たちはきっとどこかで生きている。
今までそうであったように。
鹿児島市内で情報収集を進めるものの、それらしい情報は手に入らなかった。ニュースサイトにも進展はなく、行方不明者ばかり。
生存者は見つかっていない。
……ダメか。
「今日はここまでだな」
「うん。歩き疲れちゃった」
「ビジネスホテルで泊まろう」
「名案だね!」
近くにあるホテルへ駆け込み、空いている部屋を借りた。
不測の事態に備え、一緒の部屋にすることに。
先払いを済ませ、さっそくエレベーターで指定の階数へ。
部屋の前でカードキーを当てると扉のロックが解除された。入ると、なかなか広い空間がそこにはあった。
ツインルームで、二名まで余裕で寝れる。
「イイ感じだな」
「おぉ、思ったより広いね!」
天音は久しぶりに落ち着ける空間に感動していた。という俺も、こんな普通の生活が出来て嬉しい。
「少しゆっくりしたら飯でも食いにいこう」
「おっけ~。わたしはシャワーでも浴びてる」
「そ、そうか……」
となると、スーパーソワソワタイムだな。天音の入浴なんて緊張しないはずがない。というか俺も一緒に風呂に入りたいッ。
だが、こういうホテルの風呂は狭いからなぁ。二人は入れるスペースなんてないだろう。
「一緒に入る?」
「……ッ!」
やっぱり誘ってきたかっ。
もちろん、喜んで返事をしたいところだが……。
「あ、でも狭いかぁ」
浴室をチェックする天音は、風呂の中を見て残念がっていた。
二人部屋とはいえ、風呂は一人はいるくらいのスペースだ。
これはキツそうだが、がんばれば入れなくもない。
「お楽しみはベッドの上でかな」
「早坂くんのえっちー!」
頬を朱色に染めて恥ずかしそうにする天音。とてつもなく可愛かった。
正直、このままベッドに押し倒したいレベルだ。
だが、しかし天音は一刻も早くお風呂に入りたいはず。
あの無人島からここまで泳いできて海水でベタベタだ。俺も早く汗を流したい。
「すまんすまん。俺は食料でも買ってくるさ」
「わかった。じゃ、またあとで」
「おう。てか、服を洗濯しておこうか?」
「あ、そうだね。このホテルってコインランドリーあるんだっけ」
「あるぞ。一階に設置されてる」
「じゃあ、お願いね」
その場で脱ぎ始める天音。すぐにバスタオルに身を包んでいた。
俺は天音の脱ぎたての服と下着を受け取った。
「了解。俺は服を買ってくるよ」
「早坂くんの服、結構ボロボロだもんね」
「ああ。少し時間が掛るかもしれん。天音、施錠はしっかりとな。勝手に外に出るんじゃないぞ」
「今日は引きこもりしてるよ~。じゃ、またあとで」
笑顔を向ける天音は、浴室へ。
俺は買い出しへ。
◆
近所にあった服屋で服を購入。
その後、コンビニで食料調達。
無事に終えたところでホテルへ戻った。
部屋の扉を開け、中へ。
奥まで進むと、うつ伏せで寝るほぼ全裸の天音の姿があった。
まさか寝落ちか……!?
こんなカッコで無防備すぎるだろう。
「おい、天音。風邪引くぞ」
「…………う、にゃー」
なんだその寝言。
いったい、どんな夢を見ているんだかな。
しかし疲れているようだし、このままにしておくか。
俺も風呂へ入ろう。
ゆっくりと汗を流して俺は風呂を出た。
ベッドでは、変わらず天音が眠っていた。
よほど疲れていたらしいな。
しかし、そろそろ飯の時間だ。俺は天音を起こした。
「今度こそ起きろ~」
「ん、んん~……あ、おはよう」
「おはようじゃないって。もう二十時だぞ」
「え、もうそんな時間!?」
「飯にしよう」
「……あ、わたしこんなカッコで寝ちゃったんだ」
「ずっとな。洗濯は終わったから着替えても大丈夫だぞ」
「ありがと、早坂くん」
その場で着替える天音。俺は一応、前を向いて飯の準備を進めた。
別に見てはいけないわけでもないのだが――なんとなくだ。
そして、やっと久しぶりのまともな飯にありつけた。
コンビニ弁当だが、めちゃくちゃ美味く感じた。当然だけど、無人島で食う飯よりも美味い。
普通の生活がいかに幸せか身に染みる。
テレビをつけ、情報収集しながら飯を食う。
これといった情報は入ってこないが――SNSに気になる情報があった。
【鹿児島内で不審者目撃増加……】
ふむぅ、これが果たして北上さんたちのことを指しているのか分からない。もしかしたら、組織の連中かもしれないし。
だが、市内も安全ではなさそうだな。




