天音のファンが現れた!?
上半身裸の俺。
さすがに、この状態でJAXAにお邪魔するわけにはいかない。というか、確実に捕まる。いくら、古森が味方にいるとはいえな。
だからこの先、まずは一般人を探す。
天音に声を掛けてもらい、強力をしてもらう。もしくは見つかれば北上さんたちと合流だ。だが、そんな都合よく種子島に流れ着いているかどうか……。
「これからどうする?」
落ち着かない様子で天音は、宇宙センターに視線を向けていた。
目の前にはロケット発射場が。でかいなぁ。あそこから『H-IIロケット』や『H3ロケット』、『イプシロンロケット』が発射されてきたんだな。
――いや、それよりもだ。
「さっきのプラン通りに頼む。この中では、天音が一番まともな格好をしているからな」
「やっぱり、それしかないよね……」
天音が複雑になるのも解かる。種子島の観光客に『協力してもらえませんか』とか言い辛すぎるよな。まず、なんだコイツと思われてもおかしくない。
だが、元アイドルの天音ならきっと大丈夫。
知名度を活かしてがんばって欲しい。
「ああ。悪いが、俺も古森さんも戦力外だ」
仮に古森に警察手帳でもあれば別だったかもしれないが。シャツ一枚の姿では……ただの一般女性でしかない。
だから、今は天音にしか頼れない。
「解かった。今から人を探しに行ってくるね」
「おう。こっちは物陰で待機している」
「うん。待ってて……あ、浮気は厳禁だからね!」
数秒、古森の方に視線を向ける天音。……なるほど、さっきイイ感じになっていたので気にしているのかもしれない。
あとで不機嫌になられても困る。心得た。
天音は頼れる人を探しに向かった。
さて、こっちは待つのみ。
「天音さん、大丈夫かしら」
心配そうに天音の背中を見つめる古森。俺もどちらかといえば、不安なのだが――しかし、今までも上手くやってくれた。きっと協力者を探し出してくれるはず。
◆
――しばらくして、天音が帰ってきた。一人で。
「た、ただいま……」
「どうだった?」
そう俺が聞くと、天音はサムズアップ。これは“成功”ってこと! やった!
「バッチリ。偶然、ファンがいたの!」
「どんな人なの?」
と、今度は古森さんが疑問を投げた。
「女性です。ひとりで観光していたみたいで、そろそろ帰るところだったみたいですよ。サインをしたら便乗させてくれるって言ってくれました」
さすが天音。やはり、アイドルを引退したとはいえ人気はまだ高い。根強いファンがいてくれてよかったな。
おかげで種子島を脱出できそうだ。
さっそくその女性を呼んでもらうことに。
少し待つと小柄な可愛らしい女性が登場した。……予想以上に若い!
「あ、あのぅ。大塚と申します」
「は、はじめまして! 俺は早坂です。わけあって裸ですが……」
「……事情は聞きました。大変なんですね」
「ええ、よく引き受けてくれました。ありがとうございます」
「いえいえ! こちらこそ天音さんと会えるとは思わなかったので、嬉しいですよ」
大塚と名乗る女性は、笑顔で幸せそうだった。というか、憧れのアイドルを前にして結構緊張している様子。
「その、船を便乗させてもらえるとか」
「はい。天音さんの貴重なサインを戴きましたので! 等価交換としては貰いすぎなくらいです!」
もはや等価交換ではないような気もするが、彼女が満足しているのだからヨシとしよう。
そして、更に幸運なことに大塚さんは着替えようのシャツを持っていた。それを古森さんへ。そして、古森さんが着ていた俺のシャツを返品。
これで服装は問題なくなった。
――とはいえ、古森さんは相変わらずシャツ一枚。ちょっと際どい。
「……このままでは船に乗れないわね」
「いえ、大丈夫ですよ、古森刑事」
「どういうこと、天音さん」
「そういうファッションの人、結構見かけますし! そういうものだと錯覚させるんです!」
強引な理論だなぁ。けど、確かに天音の言う通りだ。スカートあるはズボンは諦めてもらうしかなさそうだ。
「仕方ないかぁ。ちょっと恥ずかしいけど、早坂くんを壁にしようかな」
「お、俺ですか……」
「いいじゃん。また助けてよ」
「わ、解かった。解かりました」
「ありがとう」
ニカッと笑う古森さん。そんな笑顔を向けられたら、がんばるしかないな!




