さらば無人島、気合と根性で遠泳
櫛家の組員が俺たちを追っていたとはな。
しかも、その男が漂流してくるなんて想定外だった。
ということは、ビジネスバッグの持ち主もコイツか。
「動かず、そのまま伏せていなさい。妙な動きをしたら撃つ」
古森刑事は、テキパキと男の身柄を確保。さすが刑事だなぁ。
「ぐっ……うぅ」
古森刑事の迫力に負けたのか、スキンヘッドの男は観念していた。
さて、どうしてやろうかな。
情報は引き出したいが。
「教えろ、櫛家はなぜ『八咫烏』と手を組んでいる……!」
「知るか! お頭の考えは絶対だ。ただ従い、仕事を全うするだけだ」
「そんなわけないだろう。俺たちを追ってきたじゃないか」
「監視役だ。ただそれだけだ」
ふむ、さすがに簡単には話さないか。
「このカバンはお前のか?」
「そ、それは……俺のじゃねえか! 流されたのかと」
やっぱりこの男の持ち物だったか。
注射器やら物騒なものまで所持しているとは、普通に逮捕されてもおかしくないレベルだぞ。
櫛家の収入源のひとつなのだろがな。
「ねえ、早坂くん」
「どうした、天音」
「この人をどうする……?」
「んー、連れていくわけにはいかんし、この無人島においていくしかないだろう」
「そうだよね……」
協力するとも思えないしな。
だが、古森刑事はこの男を警察署まで送り届けると言って聞かなかった。連れていくのかよ。
「古森刑事、本気か?」
「仕方ないでしょう。シャブの所持で逮捕しなきゃだし」
「今は緊急事態だ。種子島へ向かう方が優先だろう」
「それはそうだけど……。私にも仕事があるの」
「じゃあ、古森刑事だけで対応してくれ。俺たちにそんな余裕はない」
「……解かったわ」
本当に男を連れていく気らしい。知らないぞ。
「おい、男」
「なんだ……小僧。俺には『岩崎』って立派な名前があんだよ!!」
「そうか、岩崎。俺たちは今から泳いで種子島へ向かう。このお姉さんが案内してくれるぞ、良かったな」
「呼び捨てかよ!? ……美人に逮捕されるなら本望さ。またムショ暮らしかぁ……はぁ」
気候が穏やかな今がチャンスだ。
ここから種子島の距離は約一キロらしい。正確かどうか解からないけど、泳いでいくしかない。
「古森刑事。俺は天音を支えながら泳ぐ」
「ええ。こっちはこの男を監視しながら向かう」
決まったところで、いよいよ遠泳を開始する。
人間、泳ごうと思えば何十キロと泳げる。アメリカではアルカトラズ島刑務所から泳いで脱獄した囚人がいるほどだ。
だから俺たちも気合と根性さえあれば、こんな島から脱出するくらいワケない。
さっそく俺はシャツを脱ぎ、パンツ一丁に。
「えっ、早坂くん……」
「仕方ないだろう。服を着たままでは泳ぎにくい。天音も脱げ」
「はあ!?」
顔を真っ赤にする天音。ですよねぇ。
でも、服を着たままはキツイと思うけどなぁ。溺死のリスクもあるし。
「服やズボンはこうして頭に乗せる。裾やら使って縛る。そうすれば落ちることもないし、ある程度は濡れないだろ」
「そ、そういうことかー…」
「いいか、天音。着衣水泳は危険だぞ。溺れる可能性が高いんだ」
「だよね。恥ずかしいけど……仕方ないよね」
「下着はつけてるだろ?」
「そ、それはね。でも恥ずかしいよう……」
「大丈夫。あの男には見られないよう、俺たちは先に行かせてもらう」
「それならいっか……」
というわけで、俺は古森刑事に説明。あとから泳いでくるように要請した。
「なるほどね。この分だと、私も脱がなければか……」
私服である古森刑事だが、脱ぐとなると屈辱だろうな。少なくとも俺と岩崎に見られるわけだからな。
「ほお……刑事のお姉ちゃんの下着姿が見れるのかよぉ!」
「黙りなさい。あんたは眼隠して泳ぐ!」
「なんだとぉ!? そんなんで泳げるかよ!!」
「でなければ撃ち殺す」
「……容赦ねえな」
本当にな。岩崎にはほんの少しだけ同情するが、仕方ないさ。
俺はさっそく海へ向かっていく。
「天音、脱ぎ終わったら来てくれ」
「う、うん」
いよいよ脱出開始だ――!




