また流される予感
嫌な予感は的中した。
いつしかのように船は大きく傾き始め、ひっくり返る寸前に至っていた。……まずい! まずすぎる!
「こ、このままでは船が沈没してしまいます……」
危機感を募らせる北上さん。
おいおい、海の底とか死ぬぞ。もしくは運よく流されるか。
だが、あの時のように流されるわけにはいかない。こんな時に無人島だかどこかに漂流するわけにはいかん。
すぐに救命ボートを探す。
「こっちだよ、てっちゃん」
素早い対応で桃枝がスマホで調べてくれた。この船にも救命ボートくらいはついているらしい。
なら、それに乗って脱出するしかない。
激しく揺れ動く船内を歩き、甲板が見えてきた。その瞬間に緊急放送が入った。
『船をご利用のお客様へ。ただちに避難してください。繰り返します……』
この船、もうダメなのか。
こんな大きな客船でも沈むというのか。
もうこんな放送が入っては仕方ない。
指示に従い、避難する。
「放送の通りだ。みんな、救命ボートへ急ぐぞ」
みんなうなずいた。よし、このまま外へ……いや、だがヒドイ荒れようだ。波も荒れ狂っていた。こんな中で救命ボートに乗り移る……? 可能なのか?
しかしよく見ると乗組員らしき人物がこんな嵐の中で作業を進めていた。
海上の広がる……あれは『救命浮器』かよ!
まさか、ボートではないのか。
あれで避難しろというのかよ。そりゃないぜ。
「大丈夫ですよ、哲くん。あれなら沈むことはありません」
「マジか。けど、人が乗れるスペースあんまりないように見えるが」
「あれは救命胴衣を着て掴まるんです」
さすが北上さん。詳しいな。
このままではマジで船が沈むので、俺たちは救命胴衣を装着。救命浮器へ向かう。他の客も次々に向かっていく。
俺たちは固まって行動し、救命浮器にしがみついた。だが、荒波に何度も揉まれた。
「…………っ!」
俺は天音を支えた。
「がんばれ、天音。俺が一緒だ」
「うん、ありがと。嬉しい」
ざぶんざぶんと何度も波がやってくる。体力を一気に奪われてキツいな……。
気づけば船は沈み始めていた。
結局、こうなったか……。
やれやれと思っていると北上さんが妙な表情をしていた。
「哲くん、我々はハメられたかもしれません」
「なんだって?」
「あの船は予め沈没するようになっていたのかも」
「どういうこと?」
「たぶんですが――」
だが、大きな波にのまれていく。
だ、だめだ…………悪天候すぎる。強い風、強い雨、ただただ流される俺たち。人間は自然の中ではあまりに無力。抗えるものでもない。
くそう、また――。
「うあああああああああああああああ…………!」
強烈な一撃が俺たちを引き裂いた。




