仲間だからね。当然だよ
タクシーで移動しながら話を聞くことにした。
今回は俺、リコ、桃枝の三人で乗車。
俺とリコは後部座席だ。タクシーの運転手に聞かれてもまずいので、桃枝からノートパソコンを借りメモ帳に文章を打ってもらうことにした。
「では、頼む」
「うん。はじめるね」
ノートパソコンをリコに渡し、さっそくその情報とやらを入力してもらった。
驚いたことにキーボードを打つ手が早くて驚いた。リコはタイピングがかなり得意らしいな。ズバズバと入力され、俺はその内容に目を通した。
『これは京都の親戚で、あるお寺の住職に聞いた話。八咫烏は裏社会で暗躍する組織だけど、実は戦後になって解体されたって』
解体だって?
いやだけど、奴らはロシア人と手を組んでいたし、忍者さえも俺たちに向けてきた。解体されたのなら“アレ”はなんだ?
『だから今の八咫烏とは名乗っているけど別の組織かもしれない』
「ふむ……」
俺は思わずため息にも似た声を漏らす。
八咫烏の復活を目論む連中ってところかね。再び裏で日本を操るために何かをしでかそうとしているのかもしれない。
その為の資金が必要で……もしや、俺たちの財宝(資産)を狙っているのか。
なんにせよ、厄介な存在であることは間違いない。
これから奈良に行くべきかも悩む最中、リコはキーを打ち続けた。
『今の八咫烏と名乗る組織は、あるアメリカの企業と繋がっているみたい』
なんだって……ロシアの次はアメリカか。
いや、もし『エシュロン』を使っていたとすれば……納得がいく。関係者がいるんだな。
『CIAに敵がいるかもしれない。該当の人物を探し出せばチャンスはあるかも』
今度はCIAかよ。てか、その住職の情報網すげえな。いったい、どこでそんな情報を知りえたのやら。
「ありがとう、リコ」
『ちなみに、住職は元八咫烏のメンバーだった。でも、今は縁を切っている。今は名前も住所も変えてただのお坊さん』
そういうことか。詳しすぎると思ったぜ。
なるほど、確かにこれは有益な情報だ。CIAか……いいね、どのみちアメリカへ飛ぶ予定があった。
ならば、もう奈良に行く必要はない。
俺はすぐにスマホを取り出して北上さんに電話。プラン変更を提案し、在日米軍基地へ向かうことにした。
みんなの同意を取り付け、ついに出発。
しかし、意外なことが判明してしまった。
『――すみません、早く言うべきでした』
北上さんは電話越しに困惑していた。まさか、こんなに早く在日米軍基地へ向かうとは思わなかったらしい。
知り合いの司令官がいるのは『沖縄』だった。よりによって、そっちかよ……!
また逆戻りじゃないか。
さすがにタクシーで向かうわけにはいかない。また京都駅へ戻ってもらい、新幹線で九州まで向かうことにした。
京都駅に到着後、北上さんは平謝りだった。
「そんな、謝らないでくれよ」
「すみません、すみません。てっきり一週間ほどは日本にいるものかと」
「俺もどちらかと言えばそのつもりだったんだけどな。リコの情報を聞いて、もう京都には用事がなくなった。詳細、見た?」
あの後、リコの情報をまとめてメッセージアプリに送信していた。もちろん、暗号化して。
全員が受信し、その内容に目を通してくれたはず。
「はい。まさかリコにそのような親戚がいたとは」
北上さんは、じろっとリコを見つめる。
「ごめん。もっと早く言えばよかったね。けどね、元八咫烏のメンバーってことは今日初めて知ったからね」
そうか、前から知っていたわけではないんだな。偶然、その住職がそうだったってことか。
「ところで早坂くん」
「どうした、天音」
「本当に奈良に行かなくて良かったの? なにか調べるんじゃなかったの~?」
「ああ、大丈夫だ。今までは手あたり次第のしらみつぶしって感じだったけど、リコのおかげで大きく進展した。もう大丈夫だよ」
「また沖縄に行くんだね」
「今度は在日米軍基地だ。北上さんの顔パスで輸送してくれる手筈だ」
本来ならパスポートを使って正規に出国すべきだろうが、俺たちはもう無理だ。その時点で公安に目をつけられるだろう。
タクシー料金を精算して京都駅の中へ。新幹線はちょうどありそうだった。指定席特急券を取り、ただちに乗り込んだ。
まさか新幹線で戻ることになるとは。だけど、今回はバスではないので快適だ。
ルーレットアプリで座席を決めた結果、俺の隣には『雷』となったが――お互いに、そしてみんなの意見も一致してルーレットを再び回すことになった。
そりゃ隣は女の子の方がいいよな。
で、結果は……『草埜 艾』となった。
珍しいこともあるものだ。
だけど、最近あんまり話していなかったような気がするし、たまにはいい。
「よ、よろしくね」
「艾、お礼を言い忘れていたけど天音を見てくれてありがとう」
「仲間だからね。当然だよ」
艾のおかげで救われたシーンは多い。みんなの手当を率先してやってくれたし、応急処置自体も本当に上手くなった。ナイチンゲールに並ぶ看護師になれる才能があったろうな。
「これからも頼むよ」
「うん、任せて。早坂くんのことも、みんなのことも支える」
白い歯を見せ、自信たっぷりに笑う艾。本当に頼りになる。
「そういえば、艾は元将棋部だっけ」
「あー、懐かしいね」
「アプリで一勝負しないか?」
「いいね。ていうか、私めちゃくちゃ強いよ」
「ほお、そりゃ楽しみだ」
新幹線で移動中、俺と艾は将棋に興じたが――ボロ負けしてしまった。強すぎるだろう!
そうして何時間も乗り継ぎ、ついに九州へ。
博多駅を通り過ぎ、一気に鹿児島まで向かう。懐かしいな。ちょい前までいたのにな。あの『神造島』に。
鹿児島港から沖縄行きの船へ……!
ここまでは順調。これできっと。
「……君、早坂 哲くんだね?」
……船へ乗り込もうとした瞬間、誰かに声を掛けられた。……こ、この人はまさか。




