懐かしき仲間との合流と対馬大脱出
公安警察と名乗る男三人から銃口を向けられていた。
俺は正直、公安を舐めていた。
まさかこんなにも迅速に対応してくるとは予想外すぎる。いくらなんでも早すぎる。まるでこっちの位置が最初から分かっていたみたいじゃないか。
「武器を捨てろ。両手を頭の後ろに」
公安の男の一人がそう警告してきたので、俺たちは素直に従った。
「どうします、哲くん。今ならまだ……」
北上さんが小声で指示を求めてきたが、俺は止めた。今この状況で反撃は厳しすぎる。相手はプロ三人。しかも公安だからな……撃ってくる可能性が非常に高い。
安易に戦えば死を招くだろうと俺は結論に至った。
だから今は様子を見ることにした。
「今は従うんだ。大丈夫、きっとチャンスはある」
「……分かりました」
抵抗しない意思を公安に示すと、三人の男たちは銃を向けながらこちらへ慎重に歩いてくる。……当然、逮捕されるんだよな。
天音に頼んで優秀な弁護士を雇ってもらうしかないかな。
などと考えていると――。
「があッ!?」
「ぐぅ……!」
「うぁッ!!」
公安の男たちが一斉に倒れていた。よく見ると彼らは足を撃たれていた。……誰が撃った? しかも銃声がほとんどしなかったぞ。消音装置か!
「みなさん、早く船へ!!」
この声はどこかで聞き覚えがある。
ま、まさか……駆けつけてくれたのか!
「よかった。間に合ったみたい」
「桃枝。まさか“仲間”を呼んでくれたのか!」
「うん、他のメンバーの面倒を見てくれている大伊さんを悪いんだけど呼び寄せた」
大伊 千夜。宝島で一緒に生還した女子だ。とても、たくましくその美形で凛々しい顔立ちを忘れられるはずがなかった。
そうか、桃枝が連絡を取ってくれていたんだな。
茂みの中から大伊さんが現れ、俺は懐かしい顔に感激した。まさか対馬に来てくれていたとは――!!
「大伊さん!」
「超久しぶり、早坂くん! なんか危ないって桃枝から聞いたからさ。来ちゃったよ」
サイレンサー付きのハンドガンを手にする大伊さん。変わらないなぁ。当時のままで勇ましい。
しかも訓練を積んだのか、あの時よりも銃の扱いが上手くなっていた。北上さんの仕業だなこれは。
「ありがとう、助かった!」
大伊さんのおかげで船へ乗り込むことができた。
俺、北上さん、天音、桃枝、千年世、艾、リコ、月と星と雷、大伊さん、そして遠見先生と伊良部さん。なかなかの大所帯になってしまったが、無事に乗船できた。
伊良部さんの操舵で漁船は海上を進む。
そんな中で北上さんは、大伊さんとの再会を喜んでいた。
「お久しぶりです、大伊さん」
「久しぶり、北上さん。元気そうだね」
この二人、妙に仲が良いんだよな。
なんだか積もる話もあるようだし、そっとしておくか。
「ねえ、早坂くん」
「ん、どうした天音」
「大伊さん来てくれるなんてビックリだね」
「ああ。大伊さんは宝島での後遺症に悩まされている仲間を支援していた」
入院組……つまり大塚さん、八重樫、ほっきー、篠山さん、野茂さんたちのことだ。彼女たちは負傷したり精神的に不安定になったりして入院しているのだ。
たまに状況を大伊さんに聞かされていたが、まさかここで本人が登場するとは思いもしなかった。
みんなのお見舞いも行きたいと思っていた。
丁度いい機会かもしれないな。
「待って。やば」
震える手でタブレットをこちらに向ける桃枝。その画面には早くも『対馬』のことが配信されていた。……も、もうかよ。
「桃枝、それ」
「うん。銃撃事件があったって……公安三名が負傷と書かれているね」
「いくらなんでもニュースの配信が早すぎる。エシュロンか?」
「……かもね。八咫烏のヤツ等が軍事衛星とかも利用しているのかな」
不安気に空を見つめる桃枝。こうなったら、桃枝には引き続きハッキングを続けてもらうしかない。エシュロンを止めるんだ。……そんなことが可能か分からんけど。やれることはやっていこう。
「エシュロンを停止できないか?」
「う~~ん。軍のシステムを相手にすることになるからねー…。てか、八咫烏がまだエシュロンを使っているか分からないよ。それに近いことはやってるかもね」
「やっぱり、まずは八咫烏の関係者を探るしかないか」
「それがいいね! じゃ、京都行こっか」
「え、京都?」
「うん。京都の鴨神社。そこが怪しいんだよね~」
どのみち今の状態では海外へ飛ぶことは難しい。この船は燃料的に厳しいようだし。今は八咫烏の追跡を逃れる方が優先だ。
桃枝は俺の知らないところで八咫烏のことについて調べてくれていたようだ。ならば、そこへ向かうか。少しでも手掛かりを探す。




