これからもきっと上手くいく
居酒屋の方は公安警察に踏み込まれ、現場を抑えられている。病室に設置されている監視カメラの映像を見ると、銃を持った男が三人はいるようだった。
細かく調査しているようにも見える。
まずいな。病院の方がバレたら大変だぞ。
しかし、居酒屋と病院は離れているし、こっちは地下室にある。そう簡単には見つからないはず。今の内に逃げるしかないな。
みんなを緊急招集し、病室に集めた。
「どうしたの、てっちゃん」
ぽけーっとした表情で桃枝は首を傾げた。
「今、公安警察が来ている」
そう打ち明けると、みんな動揺していた。まさか公安が来るとは思わなかったようだ。俺もだよ。
確かに、俺たちは危険なことも散々やってきた。バレれてしまったら違法になるようなことも。だがしかし、完全犯罪という概念があるように、犯罪とはバレなければ罪にはならないのだ。あと証拠な。
そもそも、俺たちは生きる為に仕方なく戦ってきた。戦争がしたくてしたわけじゃない。殺したくて殺したわけじゃない。ただ生きたかった……それだけの理由でここまで頑張ってきた。
徹底的に銃などの証拠を残さないようにしてきたはず。
なら、公安はなぜ遠見先生の家に――?
考えている暇はないか。
「全員で逃げるしか選択肢はありません」
冷静に北上さんはそう判断した。俺もその意見には同意だ。だけど天音が重症を負っている。無理に動かせば負担をかけてしまう。ケガの治りも遅くなるだろう。
「天音、大丈夫か……?」
「うん。わたしなら平気。腕が取れようとも早坂くんを追いかけるよ」
そこまで言ってくれるか。すっげー嬉しい。
他のみんなも天音を『支える』とか『面倒を見る』と言ってくれた。困ったときはお互い様。俺たちは仲間だ。そこら辺の組織よりも盤石。
この強い連携のおかげで今まで生きてこられた。
これからもきっと上手くいく。
「よし、みんな。派手な武器は全て廃棄。証拠も全て破壊しろ! 必要最低限の武器だけ持ち、脱出する」
了解と、みんな言葉を合わせた。
40秒で支度することになり、サクっと準備を進めた。
いつでも出られるように普段から整えていたから、それほど苦労することなく脱出準備を終えた。あとはどこから出るか、だ。
遠見先生に視線を向ける。
「早坂くん、こんなこともあろうかと“裏口”があります。そっちから出ましょう」
「張られている可能性は?」
「監視カメラで見た限り大丈夫でした。今なら間に合います」
「分かりました。では、その裏口を利用しましょう」
俺は同意した。みんなも賛成してくれたので、遠見先生についていく。
病室の隅にある『色即是空』と書かれた“掛け軸”の前に立つ先生。それをめくると後ろに通路が現れた。
「そ、そんなところに……」
「脱出用の通路です。さあ、入ってください」
「分かりました。では、俺が先に」
狭い通路を先行していく。その後ろに天音、北上さんと続く。
しかしよくまあ、こんな通路を作ったな。太っていたら厳しいぞこれは。
薄暗い脱出路を進むと先が見えてきた。結構歩いたが、ここはどこだ……?
なにやらお店のような雰囲気が。
まさか、居酒屋の方に出ちまったんじゃないだろうな!?
だけど、居酒屋とはまるで違う内装だった。……ん、ここは見覚えがあるぞ。
「どうしましたか、哲くん。――って、ここは」
北上さんもまた見覚えのある店に困惑していた。
ここはそうだ、伊良部という店主が経営しているカフェで間違いない。こんなところに通じていたとは。
「ん……。って、君たち!」
「伊良部さん!?」
ちょうど店の奥から伊良部さんが現れた。これはちょっとマズいか――そう思ったが、遠見先生が事情を説明してくれた。
「彼らを逃がさねばなりません」
「分かりましたよ、遠見先生」
案外呆気なく事情を察してくれた伊良部さん。物分かり良すぎだろ! てか、良い人だった。
「私の脱出用の船を出してください」
「もちろん、いつでも出せるようにしています。こちらへ」
そうか、遠見先生もいつでも逃げられるように準備していたんだな。しかも、伊良部さんを巻き込んでいたとはな。いや、仲間なのか。
「遠見先生、伊良部さんとはどういう仲で?」
「良い質問です、早坂くん。彼には大金を支払い、助けてもらっていたんです。雇っているようなものです」
そういう関係だったか。
信用はできそうだな。
カフェの外へ出て直ぐ近くに泊っている船へ向かった。……あの漁船か! あれなら目立ちにくいし、ただの漁船にしか思えないよな。カモフラージュも完璧だな。
船へ乗り込もうとした時だった。
「公安だ! 止まれ!!」
――なッ!
もう追い付かれたのか……!




