時価80億ピンクダイヤモンドの謎
暗号解読の端末を取りにいくフリをして、北上さんと合流する。それが先決だ。
千国の爺さんと黒服たちをなんとか処理しないと。
「――哲。その端末とやら、どこにある?」
「俺たちが滞在しているホテルにある」
もちろん嘘だ。そんな重要なものをホテルになんて置いてあるわけがない。遠見先生の病院にある。あそこなら間違いなく安全だからだ。
「そうか。では案内してもらおうか」
車へ乗り込めと指示され、俺は素直に乗ることにした。千年世と桃枝も別々に乗り込む。
俺の隣には千国の爺さんが。
わざわざ俺の横に来るとはな。
車は発進してホテルを目指す。だが、少し進んだどころで車は急ブレーキで停まり横転しそうになるほど揺れた。……きたかッ!
これは恐らく、北上さんの作戦だ。
俺の予想通りだった。北上さん、月、星が一斉にハンドガンで銃撃し、車のタイヤをパンクさせたようだ。
「……お、お頭! 金髪の女が銃撃を……」
「き、絆か! おのれ、哲。絆に連絡を取ったな!!」
運転手も千国の爺さんも襲撃にビビっていた。だが、俺は冷静だった。ちょうど隙が出来て、俺は千国の爺さんが向ける拳銃を奪った。
「おらッ!!」
「し、しまった!! 哲、貴様!」
しかし、それよりも先に北上さんがフロントガラスを破壊して運転手に蹴りを入れていた。
「――ぶはぁ!?」
「これでよし。……さて、千国さん。手を上げてもらいましょう。そして、他の車の黒服たちに武装解除を指示しなさい。さもなければ殺す」
北上さんはスターム・ルガーSP101で脅していた。――って、それ俺の愛用ハンドガン!
「…………くそう。分かった」
千国の爺さんは車から降り、他の黒服たちに呼びかけた。観念した黒服は武装解除してこちらに。
「哲くん、あとは警察に任せましょう。すでに通報済みなのであと五分も掛からず到着するはずです」
「マジか! そこまで気を回してくれていたとはな」
すぐに千年世と桃枝も拾う。
その際、千国の爺さんは悔しそうに俺をにらむ。
「哲……お前たちは逃げられんぞ」
「どういう意味だ」
「八咫烏を知っているだろう。ワシは“彼ら”になりたかった。だから、ピンクダイヤモンドを献上してメンバーになろうと考えていたのだ」
そういうことだったのか。80億もするピンクダイヤモンドを八咫烏に贈れば、そりゃ喜ばれるわな。その見返りが八咫烏へのメンバー加入というわけか。
だから、そんなに必死になってピンクダイヤモンドにこだわっていたわけだ。
「なら、ピンクダイヤモンドを渡すわけにはいかないな。爺さん、万由里さんのことは残念に思うよ。でも、俺たちは彼女に裏切られた。爆弾で全員が殺されかけたんだ。神造島は戦場と化していたし、八咫烏の世間的な圧力もあったんだ」
「……覚えておれ、早坂 哲! 必ず後悔させてやる」
だめだ、この爺さんに何を言っても無駄だ。
そろそろ警察が到着しそうな気配を感じたので、俺たちは早々に立ち去った。
一分後にはかなりの数のパトカーが集結。千国の爺さんたちは銃刀法違反で逮捕されていたようだ――。
◆
遠見先生の病院ではなく、併設されている家の方へお邪魔していた。
家は至って普通の一軒家であり、普通に家族が住んでいてもおかしくない民家だ。だが遠見先生は独身であり、家族もいないようだった。
先ほど遠征していた俺、桃枝、千年世はそちらへお邪魔することに。
北上さんたちは天音の面倒を見ることになった。これはルーティンなので仕方ない。
リビングへ案内され、ソファへ腰かけた。
「お~、ふかふか」
「哲くん、あの……」
「どうした、千年世」
「先ほどはすみませんでした。私に力がないから……」
「いや、よくやってくれた。千年世も桃枝もソファにおいで」
二人ともソファに座った。
俺は挟まれてちょっと嬉しかった。
「て、てっちゃん……。私もうムラムラしてきた」
「ちょ、桃枝。お前なッ!」
「女の子だってそういうことあるしー」
顔を赤くして何言ってんだよ。てか、今は千年世の方だ。
「……コホン。千年世、気にするな。万由里さんのことも仕方がなかったんだ」
「いえ、万由里さんのことは後悔していません。彼女は爆弾を体中に巻き付けていたし、仲間に危害を加えていた。もしあそこで止めねば爆弾が爆発し、みんな死んでいましたし」
罪悪感はないと、千年世はハッキリと言った。それよりもさっきのピンチになった状況の方に嘆いていたようだった。
「みんな無事に脱出できたんだからヨシとしよう」
桃枝は「うんうん」と俺の方へ寄りかかってきた。千年世もやっと安心できたのか脱力していた。
「そんなわけでー。てっちゃん襲ってもいいよね~?」
そう言いながらも桃枝は俺のズボンに手を伸ばしてきた。……うぉ!?
「も、桃枝。抜け駆けは許しませんよ!」
千年世も負けじと俺の服を脱がせようとしてくる。二人ともそんなに溜まっていたのか……! しかし、俺もたまには二人とイチャイチャしなぁと思っていた。
たまにはいいか。
遠見先生は自由に使ってくれと言ってくれていた。
ならば、遠慮なく――。