新たなる舞台へ
ネット界隈は静かだった。
『ある島で暴力団の抗争か――!?』
俺たちの小さな戦争は、そんな風に書き換えられていた。
あのロシア人たちのことは一切触れられていない。
櫛家のこともなにもない。
派手に戦った俺らのことも。
ただ、曖昧な表現でネット記事にはなっていた。だが、それも一瞬で風化。宝島の時とは違い、これといって話題にならなかった。
おそらく、これは『八咫烏』の圧力に違いない。
あれから三日後。
俺たちは神造島を脱出し、一時的な避難先として『対馬』を選んだ。 本州から離れているし、島だからすぐに逃げられる。
それもあるが、俺含め負傷した天音たちの治療をしなければならなかった。
偶然にも天音の知り合い、しかも医者が対馬に住んでいるということで、頼ることになった。
それと少しは久しぶりに人並みの生活がしたいと思った。
たまにはゆっくりするのも悪くない。
金はだいぶ余裕があるし。
みんなには休んでもらわないとな。
「しばしの間はスローライフってわけだ」
「どうしたのさ、てっちゃん」
気だるそうな口調で桃枝は、こちらに視線を向けた。いそいそとタブレットを操作しているところを見ると、ネットで情報を収集しているところらしい。
「しばらくは普通の生活をしようかなと」
「いいね、どれくらい対馬に滞在するのさ~?」
「うーん。みんなのケガが回復するまでかな。天音はとくに重症だ」
「んだね。早くても二週間ってところじゃない」
天音は入院中だ。
軽症組は対馬のホテルに滞在し、それぞれ生活をしていた。俺は今、自分の部屋で桃枝と二人きりだった。
別の部屋には北上さん。それに月と星がいる。
残りのメンバーは病院で手当てを受けたりだ。
「今は待つしかない。それまでは情報収集だ」
「んー、けどさー。あそこまで派手な戦闘があったのに、もみ消されてるって八咫烏ヤバくない!?」
「そうだな。都市伝説界隈では有名らしいが……ここまで激ヤバ組織とは思わなかったな」
「今頃は、私たちを探しているかもね」
「備えておかないと危険だな」
「早く日本を脱出した方がいいんじゃない?」
「ああ、もちろんだ。資金はもう十分ある。みんなで均等に分けてもとんでもない額だ。一生遊んで暮らせるぞ」
「いやさ、さすがに何十億も貰うの怖いって。誰かに管理してもらいたい」
「そうかな。まあ、その辺りの詳しい話はみんなが集まってからだな」
「おっけー」
桃枝は再びタブレットに集中する。
うつ伏せになったり、仰向けになったりゴロゴロと忙しそうだ。
薄いシャツにショートパンツで妙に色気がある。
……いかんいかん。
俺もスマホでいろいろ調べてはいるが、気になる情報はまるでない。
「ダメだ」
「こっちもお手上げ。海外掲示板もつまんない反応ばかり」
「そうか……」
「もういいや~。てっちゃん、このままシちゃおっかー」
「おう。……ん? なぬっ!?」
いきなり桃枝から誘われ、俺はドキッとした。
そういえば、ずっと戦闘続きでご無沙汰だけどな。
というか、桃枝とはそういう関係はなかった気が……。
「いやー、私もたまにムラムラするわけよぉ」
「そうなのか」
「相手がてっちゃんなら別にいいかなーって」
「俺でいいのか」
「うん。好きだし~、他の男を魅力に感じないもん。日本人でてっちゃんみたいな最強の男、なかなかいないと思う」
最強か。そんな風に評価されたのはこれが初めてかもしれない。
とはいえ、悪い気はしなかった。
桃枝は小さくて可愛いし、陰キャなところは俺と合う。
「なら、まずは少しだけデートすっか。対馬で」
「ほぉ。いいねいいね! じゃ、おんぶしてもらおうかな」
「なんで自分で歩かない!?」
「だって、歩くのだるいんだもーん」
駄々っ子かよ。
けど、仕方ないなぁ。桃枝をおんぶしながら、外を歩いてみますか!




