アンチマテリアルライフルの凶弾
ずっと戦闘中で忘れていた。
月と星の兄貴である『雷』だった。そうだそうだ、思い出したぞ。
あの男は雷で間違いない。
これが初対面だが、心強い味方だ。
すっかり明けた海の向こうには小型船が一隻。
勇猛果敢にこちらへ突撃していた。
反撃されているのに正面突破かよ。すげえ根性だ。
船はやがて海岸に乗り上げるギリギリのところ停止。
俺たちは月たちを援護した。
「あの三人、まさか突撃してくるなんて……」
さすがの北上さんも驚いていた。
いや、少し呆れてもいた。
そりゃ、戦場のど真ん中に特攻するようなものだからな。無謀でもあった。だが、時にそういう大胆な行動が活路を開く場合があるんだよな。
少しして月と星が合流してきた。
大きな荷物を背負って。
「お待たせいたしました、兄様」
「到着ですー!」
援護射撃を続ける中、二人の無事を確認した。
よし、とりあえずケガはないようだな。
雷に関しては小型船を上手く操縦して弾を回避していた。そして、離れていった。そうだな、ひとまずは離れてもらわねば困る。
船を破壊されないよう、まずは敵の排除から進める。それが最優先事項だ。
「ありがとう、二人とも。これは物資か?」
「そうです。みなさん使ってください!」
二人から物資を受け取った。
ミリタリーバッグやカバンの中にはアサルトライフルが多数。それと大量の弾薬。グレネードもたくさんあった。
これなら、もうしばらくは戦えるぞ……!
「す、凄いね……。月ちゃんと星ちゃん、どうやってこれを?」
気になるのかリコが疑問を投げかけていた。
「リコさん、この武器も小型船も『千国』のおかげです」
「えっ……? 千国って、あの櫛家のおじいちゃん!?」
「うん。沖縄に滞在中に連絡を取り合い、支援を進めていただきました。桃枝さんが繋いでくれたのでスムーズでした。あと万由里さんの力も借りましたし」
「なるほどね! やるわね!」
俺も納得した。
まさか月と星が櫛家と連絡を取り合っていたとはな。
千国の爺さんもまさかここまで助けてくれるとはな。極道とはいえ、義理堅いというか……いい人すぎだろ。
いや、まあ……この戦いが終わったらピンクダイヤモンドで支払うような約束をしていたっけな。80億もするから悩んでいたけど、この状況だから仕方ないさ。
新たな銃・AK47を手に入れ、反撃を開始。
敵精鋭部隊を次々に仕留めていく。グレネードもどんどん投げ入れ、ロケットランチャーも撃ちまくった。
しかし、それでも敵は残存していた。
くそう、殲滅とはいかなかったか。
『これは驚いた。まだ仲間がいたとはな! だがお前たちはここまでだ!』
拡声器を使い、ヴァレンティンが叫ぶ。
直後、銃声がして……天音が撃たれていた。
「きゃっ!?」
「天音!!」
ウソだろ……!
身を隠していたのに撃たれた!
すぐに天音の容態を確認すると、左腕を撃たれていた。血が流れ、危険な状態だった。
「…………うぅ」
「くっ! 艾、すぐに止血剤を! それと治療を頼む!」
「は、はいっ」
艾には衛生兵の役割を担ってもらっている。彼女に手当を頼んだ。
「今すぐ艾が看てくれるからな……天音」
「…………っ」
だめだ。天音は痛みで気絶してしまった。
チクショウ……ここで天音がやられるとは。
ヴァレンティンめ……!!
『ふははは! どうやら、女ひとり仕留めれたようだな』
「ヴァレンティン貴様ァ!!」
『お前たちがそんなところに隠れようと、仲間が増えようとも無駄というわけだ。私のアンチマテリアルライフルで全員殺害してやる……』
くそっ、対物ライフルか。
厄介なものを!
「許せねえ……。よくも天音を……」
「落ち着いてください、哲くん」
「これが落ち着いていられるか! 北上さん、俺はヴァレンティンをこの手で倒す。今度こそ決着をつける。大将の首さえ討ち取ればこっちのモンだろ」
「どうやって? 敵はまだ複数いるのですよ」
「向こうが狙撃なら、こっちも狙撃だ。スナイパーライフルを貸してくれ」
「……仕方ないですね」
北上さんは、渋々ながらもボルトアクションライフル『DSR-1』を貸してくれた。彼女の愛用する武器だ。
俺はこれでヴァレンティンと対決する――!




