夜明けの機銃掃射
夜が明け始めていた。
海がそこに見え、俺たちはかなり追いやられていると理解できた。
このままでは逃げ道を失い、制圧される。
まずいな……。
焦りと陰りが見えてきて、中でも戦場経験初めての万由里さんが落ち込んでいた。
「……わたくし、怖くて……なにもできてなくて……」
「それが普通なんだよ、万由里さん。あんな武装したヤツ等に襲われるだなんて日本では、ありえないことだった。俺たちも今まで恐怖でどうかなりそうだったよ」
今でも怖い。命が大切だからな。
でも、まだ負けたわけではない。
いつだって希望はある。俺はそう信じている。
「……ですが」
泣き出しそうになる万由里さん。そんな彼女に天音が声をかけた。
「大丈夫だよ、万由里さん。哲くんは今までみんなを死なせず導いてくれたから。信じて」
「天音さん……はい、分かりました」
少しだけ不安が払拭されたのか、万由里さんは顔を上げた。
……さて、話はここまでだ。
敵がどんどん近づいている。
このままでは取り囲まれてしまう。
今もなお、北上さんと千年世が反撃を加えているが弾薬が残り少ない。
俺の予備マガジンも残りわずか。
敵の数は減らしてはいるが、あと十人前後は残存していると見た。
そんな中だった。
突然、拡声器からの音声が響いた。
『愚かな学生どもに告ぐ! 今すぐ投降しろ。繰り返す……投降しろ!』
この声は間違いない。
ヴァレンティンの声だ。
俺と天音は拉致られているし、会っているから覚えていた。
しかし、こんな警告は無意味だ。
俺たちがそう安々と投降するだなんて、向こうだって思っていないクセに。
「これは罠です」
北上さんがハッキリと断言した。
俺もそう思う。
例え、投降したところで俺たちのほとんどは命を失うだろう。向こうは財宝が手に入ればいいのだから、誰かを人質に取って脅してくるに違いない。
「どうする? 反撃するか?」
「いえ、こちらはかなり消耗しています。かと言って脱出する方法もない……。ここで籠城するしかないでしょう」
「むむぅ……」
どうすりゃいい。
万事休すなところまで来ているんじゃないか、コレ。
だが、考えても考えても活路は見出せない。
追い詰められているのは分かっている。だけど、だからと言って諦めたくはない。絶対に生きて帰る。
そう願いたいが、敵は待ってくれないようだ。
『そうか、そんなに死にたいか! いいだろう。一人だけ残し、あとは処刑する』
……くっ! 本気か!
こちらは簡易的なトーチカ、コンクリートの壁で守られているとはいえ、武器次第では破壊されるだろう。
いよいよ突入してくるか……!
軍靴が聞こえてきた。
まずい、まずいぞ。
とにかく反撃をするしかないか!
残弾をすべて使い切り、それから考えるか……。
俺やみんなは最後の弾薬を使用。
敵に向けて発砲を続けた。
なんとか銃弾の雨を降らせ、ひとり、またひとりと排除に成功するものの成果はそれほど得られなかった。
リーダーであるヴァレンティンが健在ではな。
「だめだ……弾が尽きた」
「こっちもだよ、哲くん……」
天音や北上さん、千年世やリコもお手上げ。
桃枝も手足をついて絶望していた。
艾も顔色が悪い。
万由里さんは……泣いていた。
やれることはやった。
ここまでか……。
退路は断たれた。
俺は意味のない投降という選択を選びかけた――その時だった。
『ズドドドドドドドドドドド…………!!』
機銃掃射のような、とてつもない音がして俺含めてみんな耳を塞いだ。
な、なんだ!?
夜明けの海の方角から船が……!?
「兄様! ただいま合流いたしました!」
「お待たせ。武器たくさん持ってきた」
無線から漏れる声。
こ、これは月と星じゃないか!
え、あと……男の声がするような。
誰!?




