島を開発して奇襲に備える
雷のような轟音に鼓膜が震えた。
なんて銃声だ……耳がキーンとしたぞ。
物陰から様子を伺うと、敵は倒れ――そのまま海に落ちた。
千年世の狙撃は完璧だった。
どうやら、敵の頭部に命中させたようだ。
「啓くん、このまま対象を引き上げましょう」
「何者か確認するんだな」
「はい。ロシア人かどうか知っておかねばです」
北上さんの指示にしたがった。
そうだな、俺自身も敵が何者か知りたい。
浮き輪にロープを括りつけ、死体に向けて投げた。俺が行こうとしたが、北上さんが飛び込んでいった。……野生児かよっ。というか、さすがだ。
しかも、もう一度トドメを刺しているところを見ると……プロすぎてゾッとした。
敵が死体になっていても疑え。
北上さん曰く、死んだふりをしている場合があるようだ。だから念入りにトドメを入れるようだ。やりすぎな気もするが、万が一にも起き上がってきたら大変だからな。
死体を引き上げ、さっそく確認した。
「どうだい、北上さん」
「恐らく偽名ですが、彼はボリス。秘密警察所属です」
「またか! ということは、奴らはここを特定したってことか」
「ええ、そうでしょうね。この方はあくまで偵察しに来たのでしょう。可能なら、我々を抹殺しようとしたのでしょうね」
「なんてヤツ等だ。いよいよ戦争になりそうだな」
「ええ、早めに要塞を築いた方がいいでしょう」
ロシア人はそこまで迫ってきている。
早く備えておかないと、取り返しのつかないことになりそうだ。
一度みんなを招集し、情報を共有した。
「というわけだ。今日、ついにこの神造島にロシア人が現れた」
「……ついに来たんだね」
顔を青くするリコ。みんなも同様に気が重そうだった。
そうだな、もう少しこの場所でゆっくりできると俺も思った。だが、敵はどうも俺たちの場所を把握しているようだった。
おそらく、本国にある“偵察衛星”でも使っているのだろう。
でなければ、こんな島を特定できるはずがない。
「みんな、いつでも戦闘ができるよう常に備えてくれ。少なくともハンドガンは常備するように」
みんな静かにうなずいた。
そんな沈黙の中、万由里さんが手を挙げた。
「あの、早坂様」
「どうしたんだい、万由里さん」
「今までこんな戦闘を何度も経験しているのですか……?」
「ああ、今まで何度も死線を潜り抜けてきた。みんなの力のおかげさ」
「お若いのに凄いです。尊敬します!」
手を握られ、褒められた。そんな顔を近づけられると照れるって。
……って、みんなが俺を見ている。
そんな怖い顔しないで!?
その後、島の開発を更に進め――キャンピングカーを島の奥へ隠すようにした。港から離れたのでこれで奇襲があっても安心だ。
時間は過ぎ――午後十九時。
俺はキャンピングカーから少し離れた場所で椅子に座り、焚火をしていた。
すると迷彩服姿の千年世が現れ、今後のことを話したいと言ってきた。
「どうした、千年世」
「今回の件を踏まえ、塹壕を掘るべきかと」
「もちろんだ。これからもっと敵が増えるはずし、備えていかないとね」
「ありがとうございます」
「いや、いいんだ。ていうか、疲れてないか?」
「大丈夫ですよ。私のことなら心配なく」
いや、顔が明らかに疲れているようだぞ。
「まて、千年世」
「……あぅ」
「やっぱり疲れているじゃないか。ほら、座って」
「はい……」
「今日の戦闘が堪えたのか?」
「いえ、戦闘に関してはもう慣れました。ですが」
「ですが?」
「……早坂くん、私……欲求不満かもしれません」
真面目な顔して打ち明けられたので、俺は固まった。な、なにを言っているんだー!?




