あと一週間
NKVDだなんて信じられないな。
「居場所はバレてるようだ。ここも安全じゃないな」
「そうですね、留まるのは危険でしょう。早めに神造島へ移住した方がいいです。その方が戦闘もしやすいですし」
北上さんの言う通りだ。
いよいよ戦争となれば、無人島の方が戦いやすい。
それに、櫛家にこれ以上迷惑は掛けられない。
そんな風に考えているとリコが俺の肩を叩いた。
「ねえ、てっちゃん」
「どうした、リコ」
「さっき千年世から聞いたんだけど、もう島を買ったんでしょ~?」
「まあな。あとは必要な装備をそろえるだけだ」
「んじゃ、もう行っちゃおうよ~。その方が早くない?」
「それも……そうか!」
リコの言うことは一理ある。
このまま博多に留まっているより、さっさと無人島に移住する方が安全だ。
「あ、あのちょっと待って下さい」
「どうした、千年世」
「島の件ですけど、支払いは済ませましたが……上陸はまだ出来ないんです」
「なに!? そうなのか!?」
「ほら、面倒な手続きとかありますから」
……それもそうか。
アパートとかの即日入居って、審査やら手続きやらで結局2~3日は掛かるらしいからな。それが『島』ともなればもっと時間が掛かるだろうな。
「そうかぁ……で、どれくらい掛かるって?」
「最短で一週間だそうです」
「い、一週間!?」
さすがに掛かるな。
しかし、待つことしかできない。出来ないが……まあ、無断で上陸しちゃってもいいけどな。
「行っちまうか……」
「え……?」
「もう手続きだとか関係なしにさ。どのみち俺たちの島だろ?」
「ダメです! バレると大変なことになっちゃいます!」
「たとえば?」
「契約不履行になっちゃいます。となると島は手に入りませんよ」
いくら支払ったとはいえ、手続きをきちんと待たないと無効になるということか。それなら仕方ないな。
「分かった、待とう。一週間」
「そうしてください」
けれど、櫛家に一週間は留まれないぞ。
「みんな、俺は千国の爺さんと話してくる」
こうなれば爺さんに交渉だ。
俺はさっそく部屋へ向かった。
千国の爺さんの和室へ向かうと、ちょうど座ってキセルを吹かしていたところだった。
「……ん、啓か。どうした?」
「千国さん、ちょっと話があるんですが」
「さっきのロシア人の奇襲の件か?」
「そうです。俺たちは狙われている。だから、これ以上は櫛家に迷惑は掛けられない。だから……」
「出ていくつもりなんだな」
「ええ、俺たちは別の場所で一週間耐え抜く」
「そうか、島の譲渡が一週間後なのだな」
「残念ながら……」
「律儀だな、啓」
「契約を守らないと島をゲットできないんで」
「仕方ない。なら、まだ一週間はいるがいい」
「え……でも」
「迷惑とは思っておらん。むしろお前達が来てから楽しくなった。若い娘さんも多いしな」
千国の爺さんは上機嫌に笑い、櫛家にいることを許してくれた。いいのかよ。下手すりゃ、ロシア人の手によって家が吹き飛ばれかねんのに。たとえば、戦闘機のミグとかで。
「戦場になるかもしれないですよ?」
「構わん。その為に武器庫がある。それにな、部下は全員戦闘経験がある猛者共だ。実銃の扱いにはなれておる」
妙な説得力があるー!!
爺さんがここまで言うんだ。断る理由はないだろう。それに、天音や北上さん、千年世たちと共に一週間、どこで潜むんだって話だ。
となると、この櫛家が一番好都合。
櫛家の力も借りれるし、なんとか……なるか!
「分かりました。お言葉に甘えさせていただきます」
「それは良かった。啓、お前には期待しているぞ」
爺さんとの話を終え、俺は再び部屋へ戻った。
みんなが心配そうに待っていた。
「どうでしたか?」
北上さんが神妙な顔で俺に視線を送る。
「もう一週間住んでいいってさ」
「おぉ! なんと、それは驚きですね」
「そうなのか?」
「おじいちゃんが啓くんを認めたってことですよ。普通なら追い出していますから」
「マジかよ!」
なんだか組織が組織だけに、複雑なところだが……強い味方であることに変わりはない。なんであれ、あと一週間だ。
ここでしばらく暮らし、それから島へ向かう……!




