反撃の一撃
千国爺さんの頼みを受け入れ、俺は部屋へ戻った。
万由里さんはまた後で合流するということで、いったんは別れた。
「綺麗な人だったね、早坂くん」
「え……ああ、まあ」
「むぅ!」
「天音、顔が怖い」
「だって!」
気持ちは分かるけど、千国爺さんの頼みとあっては断れない。けど、天音の機嫌も直してやらないとな。今後が危険だ。
「落ち着けって、天音。まずは昼ご飯にしよう。ほら、なんでも好きなのをウーハーイーツで頼んでいいぞ」
「ほんと~?」
「ほんとほんと」
「じゃあ、おっけ~」
案外簡単に機嫌を直してくれた。ふぅ。
ていうか、こんな危険なところにウーハーイーツ来てくれるのかな……?
自室へ戻り、俺は昼飯を頼んでいく。
北上さんや千年世、他のメンバーも分も注文した。
さすがに人数分ともなると時間が掛かりそうだ。
一時間後、注文した品が届いた。
玄関に向かうと、配達員の男が立っていた。俺は飯を受け取ろうとした――が。配達員の様子がおかしかった。
「……」
「あ、あの……受け取っても?」
「見つけたぞ、早坂 啓」
「へ……」
「死ねええええええええええ!!!」
配達員は懐から銃を取り出して――って、ヤベェ!!!
取り出される前に俺は護身術で、男の銃を弾き飛ばした。
「おりゃああああッッ!!」
「――がぁッ!?」
そうか……コイツは配達員を装った“刺客”だったのか。どこから情報が漏れたか知らんが、油断していたな。
「お前、ロシア人か!」
「……あぁ、そうだ。お前を殺し、あの方に首を捧げる!」
日本語を流暢に話すロシア人。
今度はナイフを取り出す。
素早い攻撃を繰り出してくるが、俺は回避した。
「訓練を受けている割りにたいしたことないな」
「くそっ! お前本当に人間か!」
「悪いが人間だ。そして、お前がナイフなのに対して……俺は銃だ」
「……!! スターム・ルガーSP101……」
「そうだ。これが俺の今の相棒さ」
引き金を引こうとするが、男は両手を挙げた。
「…………」
「降参とはなんのつもりだ」
「命が惜しいのさ。俺を捕虜にしろ」
「ふざけんな。お前たちロシア人は、俺と天音の命を狙い、ホテルを爆撃しようとさえした。そんなテロ組織に慈悲など必要はない。だから……」
「や、やめろ……!! 俺を殺せば組織の情報は手に入らないぞ……!!」
「どうせ向こうは俺たちを監視しているんだろ? なら、いつか勝手に現れるはずだ。お前のようにな」
「やめろ! やめろ!! やめろおおおおおおおおおおおお!!」
俺は、男に向け手スターム・ルガーの引き金を引いた。
放たれる弾丸は避けようもなく、彼の胸部に命中。倒れて――息絶えた。
「これが俺の“覚悟”だ」
今後、ロシア人が戦争のように攻め込んできたとしても、俺は戦う。
直後、櫛家から黒服が多数駆けつけてきた。
「大丈夫ですか、早坂様」
「大丈夫だ。それより、この不法侵入してきたロシア人の死体を片付けてくれ」
「分かりました。……おっと、これは男の身分証のようです」
死体をまさぐって黒服は、身分証を俺に渡してきた。もちろん、ロシア語でさっぱりだ。読める者を探して翻訳してもらうか。
――となると、北上さんあたりか。
和室へ戻ると全員が心配そうに俺に視線を送ってきた。
「早坂くん! 玄関でなにがあったの?」
「ロシア人に襲われたんだ、天音」
「え!?」
「大丈夫だ。先に排除した」
「そ、そう……。ケガはない?」
「ない。それより、北上さんにこれを翻訳して欲しい」
玄関で拾った身分証を渡す。
「ロシア語ですね」
「さっき倒した男の身分証だ。名前とか所属とか分からないか?」
「名前はヴァーシリーですね。所属はNKVDです」
「は……? まて、北上さん! NKVDはソ連時代の秘密警察だろ!?」
「その通りです。しかし、そう書かれています」
そんな馬鹿な。
ネットで調べてみると、1946年に解散しているぞ。
まさか、秘密裏に復活していたのか……?