大脱出
しばらくすると何故か敵は廃墟の奥へと消えた。
な、なぜだ……?
アイツ等なんで俺たちから離れていった?
「ね、ねえ、早坂くん。これ逃げるチャンスじゃない?」
「あ、ああ……そうだけど、なんか腑に落ちなくてな」
「けどさ、今ならヘリを奪えるよ」
「そうだな。命大事に」
俺は、ロープでしばられている腕の関節を外し、尻ポケットに隠している小型ナイフを取り出した。ロープを急いで切断した。
直ぐに天音のロープも同じように切った。
自由にはなった。
あとはヘリを奪うだけだ。
Mi-24に乗り込み、俺は操縦席に。機器類はロシア語でサッパリだが、幸いにも操縦方法を北上さんから教えてもらっていた。
直観を信じて俺はヘリを動かしていく。
まて、どうやら飛び立てるステップまで進んでいるようだぞ。
「早坂くん、どう?」
「いける。いけるぞ! 飛ばせる!」
「ほんと!? 逃げられるの!?」
「ああ、任せろ」
俺はゆっくりとヘリを飛行させていく。
ロシア人が追ってきていたが――もう遅い。俺は見事に操縦して軍艦島を発った。
◆
ヘリを飛ばし続け、なんとか燃料ギリギリで長崎市まで戻れた。人目のつかない場所を選び、ヘリを着陸させた。……よし、この港ならしばらくは大丈夫だろう。
ポケットにスマホが入っていたので、大至急で北上さんに連絡した。
「……繋がれ繋がれ」
祈るようにしていると、電話が繋がった。
『なんでしょうか、啓くん』
「おぉ! 繋がったか! 北上さん、大変なことになった!」
『大変なこと?』
俺は北上さんにこれまでのことを説明した。
「――そんなわけで、ロシアに襲われてヘリを奪って逃げたところだ」
『それで長崎市にいるのですね?』
「すまんが助けに来てくれ」
『了解しました。直ぐに向かいます』
電話が切れた。
北上さんは冷静だなぁ。
この場所に留まるのはマズいので、可能な限り歩いて距離を稼いだ。
長いこと歩き続け、途中で休憩も挟んだ。
「大丈夫か、天音」
「う、うん。ちょっと歩き疲れただけ」
「無理するな。休もう」
知らぬ土地で休み、北上さんが来るのを待った。
すると、車がやってきて俺たちの前で止まった。タクシーだ。
扉が開くとそこには北上さんが。
「お待たせしました。急いで参りました!」
「「北上さん!!」
俺も天音も泣いて喜んだ。
良かったあああ、これで帰れる!!