燃え広がる炎の中で
銃弾の雨の中を進む。
北上さんの援護のおかげで、なんとか到着を果たした。
すぐに必要な投擲アイテムを小さなカバンに詰めて回収。急いで倉庫を出た。
その直後には倉庫はハチの巣になった。あと数秒留まっていたら、俺は死んでいただろう。危なかった……。
急いで北上さんの元へ戻る。
「ただいま! 戻ったぞ」
「ヒヤッとしましたよ、心配させないでください」
珍しく北上さんは少し怒っていた。
確かに少し無茶をしたかもしれない。
でも、これで必要な投擲武器は手に入れた。敵との距離が狭まっている今こそ、これを使うチャンスだ。
「で、これからどうする?」
「まず、火炎瓶を投げてください。それから、スモークグレネードと催涙弾を同時に投げ、二人で突入します」
「分かった。そうしよう」
北上さんの指示通り、俺はまず火炎瓶を敵方向へ投げた。炎が一気に燃え広まり、火災が発生する。家に燃え移る危険があるが、今はこの戦闘状況だから仕方ない。
炎は茂みを燃やしていく。
隠れていたらしい敵が移動を開始した。その隙を見て俺と北上さんは、スモークグレネードと催涙弾を投擲した。
他の敵はみんなが引き付けてくれているし、これで突入するチャンスだ。
「今です、参りましょう」
「了解」
銃を構えながら、家から離れていく。
正直、危険度の高い賭けでもある。それでも、前へ進む。でなければ、この先あるのは死だけだと思ったから。
燃え広がる炎の中を走っていく。
すると人影が見えた。
ごうごうと燃える炎の先に、堂々と立ち尽くす男。
「……これは驚いた。学生風情がここまでやるとはな」
低い。とても低い男の声。
日本語を話すということは日本人なのか?
いや――違う。
煙が晴れてくると、男の顔が見えてくる。そこには巨漢の男が立っていた。スキンヘッドで筋肉ムキムキの……外国人だ。
図太い葉巻を咥え、こちらを威嚇するように見つめてきた。……な、なんて威圧感だ。まるでマフィアのボスみたいだ。
「お前はいったい……」
「そんなことは分かっているだろう、小僧。そう、我々は本物のホワイトウォーターだ」
「な、なんだって!? じゃあ、昨晩のあの三人組はいったい……!」
「あれは捕虜を使ったニセモノさ。一応、簡単な訓練は受けさせたがね。お前たちの力量を測るための使い捨ての駒さ」
そ、そんなことの為に! なんてヤツだ。捕虜とはいえ、人間だ。死なせる為に派遣するとか、なんて非道。悪魔か!
怒りに震えていると、北上さんが冷静に聞き返した。
「ホワイトウォーターのボスですか」
「良い質問だ、モーニング・グローリー」
「…………っ! な、なぜその名を」
北上さんは驚いて敵に銃を向けた。な、なんだ……そこまで怯えるだなんて珍しいな。手も足も震えているように見た。いったい今の名前はなんだ?
「我々の情報網を舐めるなよ。お前はかつて父親から特殊な訓練を受け、コードネームを与えられた。戦場を渡り歩き、必ず生還した少女……それがお前だ」
「あたしの情報を知るものは抹消せねば。消えてもらいますよ!」
突然発砲する北上さん。
こんなにも感情的になる彼女を見るのは初めてかもしれない。でも、危うくもあった。このままでは北上さんはヤツに殺されると感じた。それはダメだ。
「北上さん、冷静になれ!!」
「……啓くん」
俺は北上さんを庇って横へそれた。
ちょうど敵が放ったナイフが俺の左腕をかすめた。危な……!
「……ッッ」
「なっ! ナイフが!」
「野郎、会話をしつつこの機会を伺っていたんだ……」
「ご、ごめんなさい。冷静さを失った状態で射撃をしても敵には当たりません。なのに、あたしは……」
「いや、いいんだ。それよりも、あのホワイトウォーターの親玉を倒すことが先決だろ!」
「そうでした。……しかし、逃げられてしまいましたね」
「大丈夫だ。まだそう遠くへは行っていない」
きっとヤツの狙いは財宝だけだ。
こちらを攪乱しつつ、殲滅する気でいるのだろう。
じわじわと囲んでくる気だ。
なら、俺と北上さんでその包囲網を破壊する。




