倉庫へ向かえ
俺はレベデフ・ピストルと猟銃だ。
正直、かなり心もとない。
向こうがプロ軍人とすれば、これだけでは……。いや、まてまて。こっちにもプロ軍人がいるじゃないか。
北上さんがいるだけで百人力だぞ。贅沢言い過ぎだな、俺。
「俺の腕ではプロ軍人を倒すのは不可能だ。だから援護射撃する。北上さん、後は頼んだぞ」
「分かりました」
その時、俺の無線に連絡が入った。
出てみると相手は艾だった。
『こちら艾。二階より援護します』
「艾……ケガはいいのか?」
『私だけ隠れているわけにはいかないからね。猟銃を借りるよ』
「気を付けくれ、相手はプロ中のプロだ」
『了解』
他のみんなも家の中から銃を構えたり、様子を伺っている。全員、北上さんからキツイ訓練を受けているし、きっと大丈夫だ。
今こそ訓練を思い出せ。
「啓くん、敵の足音が近いです。十分な警戒を」
「そうだな。前方にひとつ気配を感じる」
「うまく茂みに隠れているようですね。いったん、警告射撃を」
「分かった。俺がやる」
「お願いします」
少しだけ身を出し、俺はハンドガンで警告射撃を行った。これでこちらが本気だと理解したはず。だが、向こうはお構いなしに撃ってきた。
「うわッ!!」
数発撃ったら、百発以上返ってきたぞ。まてまて、いくらなんでも弾を無駄にしすぎだろ。
「啓くん、これくらい戦場なら普通です」
「北上さんはそうだろうな」
やっぱり彼女は戦場も駆け巡っていたんだな。
なんて思っていると無線連絡が入った。
今度はリコだ。
『こちら、リコ。家の反対方向にひとり発見した。行動に出る』
「発見したか。気を付けてくれ、敵はかなりのプロだ」
『了解。千年世と共に行動開始するわ』
「任せた。何かあれば直ぐに知らせてくれ」
更に無線連絡。
今度は天音と桃枝だ。
『天音です。すぐ近くにいるけど……うぅ、怖い』
「落ち着け、天音。恐怖に支配されると抜け出せなくなるぞ」
『けど……うん、分かった。どうすればいい?』
「深呼吸だ。落ち着いたら、集中しろ。他のことは考えなくていい、生きることだけを考えろ」
『ありがとう、なんだか気が楽になったよ』
「その調子だ。天音、桃枝と共に敵を探してくれ。発見次第、知らせてくれ」
『分かったよ、そうするね』
俺たちと天音たちの距離はそう離れてはいない。
なにかあれば俺がすっ飛んでいく。
連絡が終わったところで北上さんが動いた。
猟銃を構え、敵に向けて発砲。
弾丸が茂みの中へ消えていく。
「……だめです。敵はうまく隠れました。どうやら、こちらの弾を消費させる気でしょう」
「そういう作戦か。下手に出れば撃ち殺されるだろうし、しばらくは膠着状態が続きそうだな」
「そうですね。こんな時にドローンがあれば良かったですが」
全て破壊されてしまったからな。
となると真っ向からの銃撃戦しかないわけだ。
「こっちにもグレネードとかないのか?」
「在庫はスモークグレネードと催涙弾、それと手製の火炎瓶のみです」
「なんだ、あるじゃないか! それを使おう」
「ただし……」
「ただし?」
「倉庫に置いてあるんです」
「なに!?」
よりによって倉庫かよ。ここから数メートル先の庭だぞ。まずいな……身を晒すことになるからリスクが高い。けど、装備を整えなければ。
「どうします?」
「俺が行く」
「止めても無駄でしょうね」
「ああ戦況を変えるためだ。援護よろしく」
「仕方ないですね」
俺は銃を持ち、倉庫へ向かった。
頼んだぞ、北上さん!