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支え合って朝食作り

 (よもぎ)は上機嫌に台所へ。

 少し前、ロシア人に足を撃たれたせいで、つたない動きだ。幸いにも弾は貫通しており、処置も早かった為に大事には至らなかった。


 だが、やっぱりというか――艾は無茶をしていた。


 足から崩れて倒れた。


「お、おい……艾、大丈夫か!」

「……っ。やっぱりまだ歩き辛いや」

「無茶するなって。俺が支えてやる」


 彼女の小さな体を俺は支えた。

 高校では園芸部員だった彼女は、戦闘だとかサバイバルとは無縁の生活を送っていた。なのに今はこんなことに巻き込まれて大変な思いをしている。

 艾は戦闘向きじゃないし、こう言ってはなんだが能力も劣る。

 けど、料理が出来るようだし、仲間のメンタルケアを行ったりサポートに徹してくれている。

 俺はその部分しか見ていなかった気がする。


「ありがと。ごめんね……」

「気にするな。そもそも、俺みたいなのが艾と関われていること自体が奇跡だ」

「そうかな。私って別に魅力ないと思うけど」

「そんなことはない。在学中は、高嶺(たかね)の花って感じがしていた」

「気のせいだよ。モテたこともないし」


 そう謙遜する艾。

 いやいや、彼女は魅力満載だ。

 ツインテールが特徴的で可愛い。

 性格も明るくて可愛くて、なにより可憐だ。

 天真爛漫(てんしんらんまん)という言葉がよく似合うと思う。

 これほどの美少女なら、彼氏のひとり居てもおかしくはない。


「気づいていないだけさ」

「え、それって、早坂くんは私を意識してくれてるってことかな?」

「……あ、当たり前だろ」

「へ~、それは意外だったな~」


 意識もなにも、肉体的接触は散々している気がする。

 けど、こうして二人きりで話す機会は少なかった。こんなタイミングは中々ないだろう。お互いをもっと知る為に、親睦を深める為にも、俺は艾のことを知りたいと思った。


「そら、台所についた」

「支えてくれて助かったよ」


 立たせようとするが、艾はやっぱり無茶をしていたようでバランスを崩しかけた。だめだこりゃ。俺が支えるしかない。


「肩を貸す。このまま料理してくれ」

「……こ、この運動会の二人三脚みたいに?」

「そうだ。これしか支える方法はない」


 そこそこ密着しているし、艾の息遣いだとか匂いがハッキリと分かる。

 驚くべきことに艾は、天音や北上さん以上に細身だってことが分かった。体重も軽いようだ。


「仕方ないなぁ。じゃあ、簡単な料理にしよっか」

「おう、分かった。指示を出してくれれば動く」

「お願いね」


 俺は艾の指示に従い、包丁を渡したり食材を準備したりした。隣で見ていても、艾の手際の良さに驚かされた。

 無駄なくスムーズに料理を進め、ついにオムライスが完成した。

 な、なんだこのメイド喫茶とかで出てきそうな完璧なヤツ。


 黄色いお山が出来ている。

 ケチャップでハートマークなんて描いてくれてるし!


「凄いな」

「これで完成っと」

「もしかして、メイド喫茶で働いてた?」

「な、なんで知ってるの!? 誰にも話したことなかったのに!」

「地元にメイド喫茶なんて一店舗しかなかったからな。ということは『にゃんにゃん邸』で確定だな」


「……う」


 大当たりか。艾がメイド喫茶のバイトをしていた過去があったとはな。だから料理が上手いのか。調理も担当していたのかも。


「面白い情報を得た」

「誰にも言わないでよ。私の黒歴史なんだから」


 涙目になられ、俺は言いふらさない方がいいなと感じた。そんな気もないけどね。


「オーケー、俺を信じろ。それより、さっそく食べても?」

「もちろん」


 リビングへ移った。

 銀のスプーンを手に取り、俺はオムライスをいただく。


 ……んまッ。


 口の中で卵がトロトロととけていく。

 チキンライスも完璧だ。

 鶏肉多めで幸せ!


 ケチャップはレストランで使用される高級品。そのせいか、濃厚で凄く美味しい。



「美味い! 艾、これ美味いよ」

「良かった……久しぶりだったから、上手くいくか心配だったから」

「完璧だよ。ほら、艾も食べなよ」

「で、でも」

「せっかくだから」

「うん、ありがとう」


 間接キスを気にしているのか、艾は顔を赤くしていた。可愛いところもある。

 ようやくスプーンで掬ってオムライスを口へ運んだ。


「どうだ?」

「美味しい~! 我ながら完璧!」


 元気を取り戻した艾。良かった。負傷して落ち込んでいたから、少しは笑顔が戻って良かった。


 それから談笑しながらオムライスをいただいた。

 楽しい食事を終え、茶をゆっくりと休息を堪能する俺。


 気づけば艾が俺の方へもたれ掛かっていた。疲れて眠ってしまっていた。


 艾の寝顔はこれが初めてだ。子猫のように可愛い。これを見れただけでも俺は幸せだ。

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