幸せのために
俺は携帯しているレベデフ・ピストルを構えた。
「ふん、そんなオモチャで何ができる!! どうせエアガンだろうが!」
「オモチャかどうか試してみるか」
天音に当たらないよう慎重に久保の肩を狙う。
大丈夫だ。俺なら出来る。北上さんから、こんな時の為に精密射撃の訓練を散々受けた。
俺はそういう慎重な戦い方の方が合っているからと。
だからきっと……!
照準を合わせ、ゆっくりと慎重に引き金を引く。
ズドンと銃声が響き渡り、銃弾が久保の肩を貫いた。
「ぐあああああああああああッ!!」
人質にしていた天音を離した。今だ。今が最大のチャンスだ。
直ぐに走って彼女を救出。
「天音!」
「た、助かったよぅ……!」
抱きついてくる天音を俺は、しっかりとキャッチ。無事を確認した。……良かった、ケガはない。
しばらくして銃声を聞きつけてやってきた北上さんや千年世が現れた。
「何事です!!」
「すまん、北上さん。天音と散歩していたら、襲われた」
「なんですって!?」
詳しく事情を説明するのは後だ。それよりも、久保を確保しないと。
倒れて血を流している久保を押さえつけた。
「千年世、ロープをくれ」
「わ、分かりました」
数分後、千年世に持って来てもらったロープで久保を縛り上げた。とりあえず、コイツは回復次第、警察に突き出しておくか。
それから俺は北上さんたちに事情を話した。
「……なるほど、天音さんと散歩していたら、そんなことが」
「勝手に出歩いて悪かった」
「いえ、それはいいのです。そもそも、この島に部外者がいるとは思わなかったのですから。尾行されていたのでしょう?」
「ああ……」
「なら、誰の責任でもありません。とにかく、久保を島から追い出さねばです」
ロープでグルグル巻きに縛った久保は、強固な小屋に閉じ込めることにした。ロックも掛けられるし、逃げることは不可能だ。
……これでヨシっと。
家へ戻り、今夜は寝ることにした。
* * *
――どうやら俺は眠ってしまっていたらしい。
リビングで寝落ちしてしまうとは。
ん、なんだこの柔らかいものは。
「早坂くん、そこ……ダメ……」
「ん? この声は天音……って、天音じゃないか!!」
目の前には天音の谷間があった。
俺ってば……天音の胸に顔を埋めていたのか!!
なんて朝の目覚め。
最高かよっ。
いや、そうじゃない。
「ごめんね、驚かせちゃって」
「嬉しいけど、ビックリしたよ」
「昨晩のお礼、したかったから」
「そ、そか。十分すぎるよ」
天音のヤツ、だるんだるんのシャツを着て胸元がはだげすぎだ。生足も大胆に露出しているし、なんかエロいな。
油断していると天音が顔を近づけてきた。
ゆっくりと唇が近づいてきて、俺はキスされてしまった。
……頭が真っ白になった。
瞼を閉じ、ただ甘い一時を過ごす。
「いつも守ってくれてありがとね、早坂くん」
「礼なんていいんだ。俺は当然のことをしただけだから」
「守ってくれるの好き。そんな頼れる早坂くんも好き。好きという気持ちがもっと強くなった。だから――」
再びキスをしてくる天音。
俺はやっと気づいた。
ああ……これが“幸せ”か。
この為なら俺はがんばれる。
* * *
一時間後、俺は小屋の様子を見に外へ出た。
小屋の前には負傷した艾の姿があった。
「艾、外に出て大丈夫なのか?」
「もう大丈夫。早坂くんの適切な治療のおかげ。ありがとう」
「また感謝された」
「え?」
「いや……こっちの話さ」
なんか、こそばゆい時間が続くな。
悪くはないけど。
「私、負傷しちゃったから……だから少しでも貢献したくて見張りをしているの」
「そうか。十分すぎるよ」
「事情は聞いた。昨晩襲われたんだって?」
「うん。ロシア人にバレてはいないと思うけど、警戒はした方がいいな。それより、早めに財宝を売っちまおう」
のびのびと潜伏生活をしている場合ではない。
今は現金を作り、みんなに報酬を分配する。
それが最優先だ。
でなければ、今までの俺たちの苦労が水の泡になる。なんの為に、命を張った……? 幸せになるためだ。
それと、大切な仲間を幸せにしたい。
苦楽を共にしたみんなを。